230724救急活動事例研究 67 山岳地域など特殊環境下における救命処置に対する支持養成の現状と課題 東近江行政組合消防本部 藤居隆治 北邑治樹

 
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症例



近代消防 2022/11/11 (2022/12月号) p74-6

救急活動事例研究 67

230724救急活動事例研究 67 山岳地域など特殊環境下における救命処置に対する支持養成の現状と課題

東近江行政組合消防本部 藤居隆治 北邑治樹


藤居隆治(ふじい たかはる)
R4、4、1現在所属:東近江行政組合近江八幡消防署
救急係係長 指導救命士
出身地:
平成9年 消防士拝命
平成19年 救急救命士合格
趣味:旅行

 

山岳地域など特殊環境下における救急救命処置に対する指示要請の現状と課題

藤居 隆治 

北邑 治樹

東近江行政組合消防本部 

目次

はじめに

当消防本部は、滋賀県にあり、琵琶湖の東部に位置し、2市3町で構成しております。管内西側は琵琶湖、東側は鈴鹿山系に面しており、琵琶湖における水難事故、山岳地域での遭難、滑落事故など、様々な事案に対応しています。

令和4年4月1日現在、職員数は297名。うち、救急救命士は86名。救急隊10隊で運用しており、救助隊、指令課、予防課など、様々な部署で、救急救命士を配置し、日々の業務を行っております(001)。

令和3年の火災出動は72件、救急出動は10,589件、救助出動は185件でした。

山岳救助件数については、最近の登山ブームにより、出動件数も増加の傾向となっています(002)。このことから、当消防本部では、平成26年山岳救助隊を発足(003)、現在、22名の隊員で編成し、うち認定救命士2名を配置、山岳事案等においても、救命処置の実施が可能な体制としています。

 

  

001

東近江行政組合消防本部の概要

 

002

山岳出動件数

 

      

003

訓練中の山岳救助隊

症例

山岳事案において救命処置を実施した症例を紹介します。この症例は、11月上旬の夕方、67歳男性が、下山途中に登山道から約20mを滑落したものです(005)。同行していた2名が、発生日の翌朝に下山し、119番通報しています。

傷病者の状態を表1に示します。多発外傷(006)及び低体温状態(007)でした。受傷機転及び観察結果から、輸液の適応と判断し、隊員が所持する携帯電話にて、指示医療機関である管内基幹病院へ特定行為指示要請をしました。その後、航空隊により、傷病者及び山岳隊救急救命士をピックアップし、基幹病院への搬送となりました(008)。

診断結果は、低体温症、頭部・左耳介挫創でした。

 

005

滑落した現場

006

傷病者の状態

 

007

低体温を認めたため保温に努めた

008

電波不感地帯調査を兼ねた山岳踏査訓練

特定行為指示要請の現状

平成26年の処置拡大(重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液)以降、このような、山岳地域において、救命処置を実施する症例が増加しています。

特定行為を実施するためには、山岳地域などにおいても可能な限り、携帯電話、衛星電話を使用した指示要請を行っています。しかし、不感地帯では特定行為の断念、また、通信手段が確保できる位置まで移動して指示要請するなど、処置に遅れが生じます。一方で山岳地域においては、消防無線や署活動用携帯無線が携帯電話や衛星電話と比較して問題なく使用できる場合が多くあります。

当消防本部では、職員による定期的な踏査の実施、不感地帯の把握に努めると共に、日常、現場で使用している消防無線・署活動用無線や、組織に配備する無線中継車(ブイサット型車載局)を活用するなどし、通信手段の強靱化、多様化を図り、医師から直接具体的指示を得る方法を検討しています(009)。山岳地域で確立できるならば、不感が想定される特殊環境下(水難救助、トンネル内、閉鎖空間、倒壊家屋など)での災害においても、同様の指示要請の体制が確立できることとなります。

009

消防無線・署活動用無線・無線中継車(ブイサット型車載局)を活用した特定行為支持要請の概念図

最後に

当消防本部では、地域住民をはじめ、多くの方が、防火、防災などの情報に触れる機会を増やすことを目的にSNSの運用を実施しております。是非ご覧下さい(010)。

010

東近江行政組合消防本部公式SNS

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ここがポイント

 

山岳地帯での特定行為要請についての報告である。1990年代、携帯電話が普及する前には衛星電話を特定行為に使うという報告を読んだことがある。しかし通信料が高額であることと携帯電話の普及により衛星電話は消えたようであった。

2022年9月アップルのiPhone 14が発表になった。iPhone14は全機種に衛星と直接通信できる機能が搭載されており、対象地域、かつ緊急時のメッセージ発信に限られるものの携帯電話の不感地域でも連絡が取れるようになった。総務省としても周波数再編アクションプランを立ち上げ、令和6年をめどに衛星を使った通信を広く普及させることを目指している。本報告のような苦労は不要になる時代がすぐそこにきている。

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