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190415「脳出血」「低体温」「化学損傷」「挫滅症候群」が合併した症例

Jレスキュー2019年5月号p94-5
「再現!救急事例報告 第16回」

190415「脳出血」「低体温」「化学損傷」「挫滅症候群」が合併した症例

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Jレスキュー 再現!救急活動報告

「脳出血、低体温、化学損傷、挫滅症候群が合併した症例」

今回紹介する症例は、寒冷時期に脳出血を発症し卒倒後、持っていた灯油缶を落とし、灯油に暴露された状態で長時間経過したため化学損傷(皮膚損傷)に加え、低体温、挫滅症候群も併発しており、現場活動に難渋した症例である。なお、本症例は、自身が実際に体験した事案を下に作成したものであり、写真8は実際の写真、その他の写真は再現である。

通報内容

「60歳代男性が事務所内で倒れて唸っている」同僚からの119通報

指令~出場・現場到着時

平成某年12月某日、6時46分覚知(外気温8.8℃)

出場途上に現場通報者に電話をかけたところ、現場はガソリンスタンドで、「出勤したところ、同僚がうつ伏せで倒れて唸っている、灯油が溢れており近寄ることができない」との通報者からの情報を受け、心肺停止への移行の疑いがあると判断、また2次災害の危険性があるため、指揮隊、特別救助隊、消防隊の増隊を要請し現場到着。現場到着したところ、傷病者は店内事務所内で倒れているとの情報を受け、2次災害の危険性は低いと判断し先着救急隊が第一接触した。傷病者は事務所玄関先に倒れており(写真1)、のとおり畳半間ほどのスペースしかなく活動困難な状態(図2)。出入り口には灯油缶が倒れ、灯油の揮発臭が充満しており、着衣は広範囲に濡れ、多量の灯油が染み込んでいるのを確認。なお、傷病者周囲以外に灯油臭は確認できなかった。

001

発見時の様子

002

部屋の見取り図

初期評価及び判断

深夜帯の従業員は傷病者のみで、事故概要は不明。昨日23時頃が最終健存時刻。意識レベルはJCS200で呼吸は鼾様の頻呼吸、循環は橈骨動脈で触れず鼠径動脈で触知可能であった。全身冷感著明であり、左頸部から左半身に灯油による化学損傷で皮膚が爛れた状態であった。また意識障害の原因は右共同偏視、左片麻痺から脳血管疾患を疑った(写真3)。初期評価から高度低体温による心室細動と長時間の同じ体位による挫滅症候群による心室細動に備え、AEDパッドの装着が必要と考えた。しかし、灯油の揮発臭があることで電気ショック時、発火の危険性を考慮しAEDパッドは装着しなかった。状況評価から早期現場離脱を判断し、救急隊3名で慎重にバックボードに乗せて後着の消防隊とともにストレッチャーまで移動し、総頸動脈を触知しながら車内収容を行った(写真4)。この時、外気温が低かったことや体位変換による致死的不整脈を考慮して乾的除染は実施しなかった。

003

右共同偏視と左片麻痺あり、脳血管疾患を疑った

004

総頸動脈を触知しながら車内収容

全身観察結果と処置及び病院選定

車内収容後に衣類裁断を行った(写真5)。全身観察の結果、左頸部から左大腿部にかけてⅡ度とⅢ度の化学損傷を約30%認めた。処置としてアルミックシートで被覆し、毛布と車内暖房により保温を行った(写真6)。病態としては、灯油缶を持った状態で脳血管疾患を発症したため、灯油がこぼれ、その上に長時間倒れていたため化学損傷と低体温、挫滅症候群を発症したと考えた。早朝のためドクターヘリは運航時間外であり、呼吸・循環の確保と状態安定のため、一旦約10分の市内主要2次医療機関への収容を選んだ(図1)。

写真5
車内収容後に衣類裁断

写真6
アルミックシートで被覆し、毛布と車内暖房により保温

図1

大牟田市の医療事情

搬送開始

体温は31.8℃の低体温、血圧は病院到着まで測定できなかった。化学損傷からの体液喪失による増悪する循環血液量減少性ショックと判断し、バックバルブマスクによる補助換気を行った(写真7)。また増悪するショックに対する輸液を考えたが、血管が虚脱しており、うっ血も見られなかったので断念し継続観察を行いながら搬送を行った(表1)。

写真7
バックバルブマスクによる補助換気

表1

バイタルサイン

傷病者予後

搬入先医療機関にて除染及び初療等が行われた後(写真8, 写真9)、ドクターヘリで3次医療機関へ転院となった。3次医療機関搬入時診断(表2、3)。

3次医療機関では主に腎障害に対する治療が行われ、脳出血に対しては保存的治療となった。約1ヶ月の加療後に転院元の2次医療機関へ転院となった。転院後は、日常生活に一部介助を必要とするが、意思疎通が図れるまで順調に回復され、数ヵ月後には、リハビリ目的で市内の別医療機関へ転院となった。

写真8

化学熱傷の様子

写真9

化学熱傷のイラスト

表2

診断名

表3

熱傷評価

考察

今回の事案を振り返り、引火性液体に暴露された状態の傷病者に除細動が必要となった場合、どう対応すべきか。除染の実施はどの段階で、どのように実施すべきであったか。この二つの考察を行った。

一つ目のAED使用については、乾的除染を完了させ、吸水シート等で灯油を吸収後にパッドを装着することは可能と思われる。しかし、どの程度吸収できるかは効果が不明で、揮発臭が残る状況下でのAED使用は、発火の危険性があるためAEDは使用せず迅速搬送すべきと考える。

二つ目の除染については、体位変換等による刺激で致死的不整脈が出現する可能性があるため、現場と病院までの位置関係、危険物の種類にもよるが、現場では乾的除染のみ実施し、医師立会いの下で全ての除染を完了させ処置室に搬入することが望ましいと考える。

まとめ

脳出血、低体温、化学損傷、挫滅症候群、それぞれどれをとっても緊急度・重症度ともに高い病態である。今回、この4つの病態が合併した症例を経験して、救命士として現場での判断がいかに重要で困難なものか改めて実感した。また、3次医療機関まで距離がある本市で患者を救命できたのは、市内2次医療機関で初療を行いその後、3次医療機関にて根的治療が行われた結果である。市内2次医療機関の重要性を再確認するとともに夜間や早朝でのトラウマバイパスの難しさを感じた。今後もあらゆる災害に備え、被害を最小とするために、市内の2次医療機関やその他関係機関との更なる連携強化に努めていかなければならない(写真10)。

写真10

執筆者・協力者・大牟田市のゆるキャラ「ジャー坊」


恐ろしい化学熱傷

旭川医療センター病理 玉川進

今回の患者はたまたま灯油の上に倒れていてこんなことになってしまった。私も同様の症例を経験しており、ズボンに灯油をこぼしたまま寝込んでしまって右下腿の皮膚がほぼ全てむけてしまっていた。

灯油のほかに危険なものとして、コンクリート(強アルカリであり目に入ると失明する)・家庭用漂白剤(次亜塩素酸など)・尿石融解剤(強酸)など、さまざまなものが危険とされている。すぐ洗い流すことが原則であるが、この症例のように既に皮膚が剥離してしまっていては手遅れである。

熱傷は全て事故であり、ほとんどの症例では防ぐことが可能である。この症例では、タンクの蓋をちゃんと閉めてさえいれば熱傷は防げた。日頃からの用心が大切である。


なまえ 小川 巧(おがわ たくみ)30歳

なまえ 小川 巧(おがわ たくみ)30歳

所属  大牟田市消防署 2係 吉野救急隊

出身地 大牟田市

消防士拝命 平成24年4月1日

救命士登録 平成23年9月21日

趣味  温泉と酒蔵巡り

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