151227雪国の救急事案

 
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151227雪国の救急事案

留萌(るもい)消防組合留萌消防署
庶務係
斉藤 佑亮(さいとうゆうすけ)
年齢:26歳
消防士拝命:平成20年4月1日
趣味:マリンスポーツ、ストリートダンス

初めまして。「雪国の救急事案」を執筆させて頂きます、留萌(るもい)消防組合消防本部留萌消防署 庶務係の斉藤佑亮(さいとうゆうすけ)と申します。宜しくお願い致します。

北海道留萌市は、旭川市から約90Kmの日本海に面した位置にあり、背後を山に囲まれた自然豊かな街です。特に海に沈む夕日がとても綺麗で、夏には多くの海水浴客やキャンパー、バイカーで賑わいます。しかし、冬になると海からの北西の風により吹雪く日が多く、とても積雪の多い街でもあります。

冬季間は雪に起因する救急、特に凍結路面での転倒といった出動が多く、屋根の雪下ろし中の事故も例年発生しています。今回は、留萌市で実際に発生した事例をご紹介します。

「事例 屋根の除雪作業中に転落し、落雪に巻き込まれた事例」

1月某日、消防署に「屋根の雪下ろし中に突然雪が崩れ、20歳代男性1人が巻き込まれた」との通報があり、留萌消防署から救助隊1隊(5名)救急隊1隊(4名)支援隊(3名)が出動しました。現場到着時には、付近住民5名が雪を掘って患者を探していました。目撃者に状況を聴取したところ、突然屋根の雪が足元から崩れ、雪と一緒に1名が滑り落ちていった」との事で、救助隊と支援隊が患者の検索を開始しました。

目撃者が指示する場所を中心に、周辺を2メートル掘り下げながら検索を実施したところ、検索棒(写真1-1、1-2、1-3)に雪とは違う柔らかい手応えがあり、

※写真1、1-2、1-3
再現写真。留萌消防で使用している検索用資機材です。(ブラックダイヤダイヤモンド社:クイックドロー)これを雪中に刺しながら要救助者の位置を検索・把握します。

 

 

さらに掘り進めると患者を発見しました(写真2)。

※写真2
実際の写真。傷病者を発見し、救出活動と同時に酸素投与を行っている様子。

呼吸あり、顔貌はやや蒼白、JCS100、高濃度酸素投与(10ℓ/min)実施、明らかな外傷は無し、事故発生から頭部発見まで約15分の時間を要しました。全身を掘り進めた段階で意識レベルはJCS10に改善、バイタルはSpO2・血圧・体温のいずれも測定が不可でした。全脊柱固定及び保温を実施し車内収容しています。搬送途上、患者の意識レベルに変化はなく病院へ収容し、病院での診断は低体温症、肺炎、全身打撲でした。数日後に後遺症なく退院しています。

「活動の注意点」

この事例については、雪と一緒に屋根から落下した後、さらに傷病者の上に密度の高い雪が落雪し約2m埋まっていましたものです。こういった、落雪により生き埋めになった、雪崩に巻き込まれたといった事案は「圧迫・窒息・低体温・外傷」の4つを主に考えて活動しています。

1)圧迫
重たい雪が患者の上に乗ることにより、胸部あるいは胸腹部が圧迫され呼吸運動が障害されて、結果窒息死に繋がることがあります。また、胸腹部が強圧された場合には、心臓、肺、肝臓などの重要臓器や大動脈などの大血管の破裂が伴っている場合があります。

2)窒息
また、患者の顔面付近に隙間があるような状態であっても、15分を過ぎると酸素濃度が薄くなり生還率が急激に下がると言われています。

3)低体温
作業していた時間と、受傷してからの救急隊接触までの時間を考えると、低体温の可能性があります。低体温症については、体温が33?30度まで下がるとショック状態や不整脈が起きる可能性が出てきます。30度以下までさがると、意識レベルの低下や心肺停止状態に陥る可能性が非常に高くなります。30度付近では温度調整機能は低下し、25度付近では消失してしまいます。そのため、保温が必要となり、意識があるのであれば毛布でくるむだけでも体温は上がってきます。また、患者を粗暴に扱うことにより、心室細動が起きる危険性がありますので、体動に注意しながら活動を行う必要があります。随時心電図モニターをチェックし、除細動の準備をしておくことも重要となります。活動時は保温と車内収容までをできるだけ早く行うことを心がけています。留萌消防署では、冬季間は保温性の高いレスキューブランケットと毛布を併用しています。これにより屋外での事案のみならず、通常の救急においても保温状態を高めて患者の搬送を行っています(写真3)。

※写真3
再現写真。保温性の高い救急用ブランケットに毛布で2重に包むことで、より保温性が増します。

 

4)外傷
雪の重み(写真4-1、4-2)による骨折や、氷やなんらかの物体に接触することにより様々な外傷、転落による外傷、頚椎損傷などの可能性も考え、全脊柱固定(バックボード・頚椎カラー)の準備も必要となります。

 

実際の現場写真。屋根からの落雪。暖気であればこれ以上の積雪量に、さらに水分を多く含んだ重い雪が落雪してくることがあります。

今回ご紹介した事例は時間との勝負です。出来るだけ患者を早期に発見し、酸素投与までを早く行うことが肝心です。窒息・圧迫状態から短い時間で開放し患者の容態を悪化させないようにします。また、起こりえるあらゆる外傷を見逃さないように注意し、適切な保温と医療機関へ早期に引き継ぐことが大切です。

おわりに

留萌消防組合は、救助隊、消防隊、救急隊を隊員が兼任することで運用を行っています。救助隊員が救急隊に、救急隊員が消防隊になど一人ひとりが様々な分野において対応を行わなければなりません。内容によっては、救急隊で現場に行きながらも、可能な範囲で救助隊と同じ活動を行わなければならない場面もあります。隊員個々が幅の広い知識と、少ない人員での活動を行う上での心構えを身につけておく事が求められています。今回の事例も含め、決して多くはない人員で災害に対応しなければなりません。また、職員の若返りにより、私を含め経験の浅く、こういった事例を経験していない職員の数が増えてきました。住民からの消防に対する期待に応えるために、様々な情報を共有し、過去の事例から様々なことを学び、より良い活動を住民の皆さんに提供できるよう努力していきたいと思います。

 


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15.12.27/5:38 PM]]>

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