140809時間が経過した交通外傷

 
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140809時間が経過した交通外傷

名前:山本泰秀
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所属:印西地区消防組合 白井消防署
出身:静岡県熱海市
消防士拝命:平成21年4月1日
救急救命士合格:平成21年
趣味:バドミントン

はじめに

印西地区消防組合は、千葉県の北西部に位置し、印西市・白井市の2市を管轄とする消防組合で、管内人口約15万5千人(印西市約9万3千人・白井市約6万2千人)管轄面積約159K㎡となっています(図1)。近年では人口は増加の一途をたどり、構成市を東西に走る国道464号線沿いを中心に、大型商業施設が多数立ち並び、都市化が進んでいます。

一方で、構成市は共に自然環境にも恵まれており、印西市の北西部には日本一の流域面積を誇る利根川が流れ、南東部にはフナや川エビ、うなぎなど豊富な種類の生物が生息する印旛沼があります。また白井市は梨の果樹面積千葉県第1位を誇り、梨をブランドとした様々な商品があります。

今回掲載する事例は、私が経験した交通事故症例で、交通事故受傷後、数時間経過してから要請があった事例です。活動方針・現場活動等で苦慮した点・円滑に進んだ点を載せています。

事例

~共同住宅2階、急病で入電~

入電
2013年10月某日、午前10時30分頃、『急病、男性51歳、7時45分頃通勤途上に自転車と接触し、ガードポールで腹部を打撲、帰宅後要請』との指令内容で出動。指令内容から、受傷機転は歩行者×自転車、若しくは自転車×自転車の接触であったのか、ガードポールとはどのような形なのか等、様々な疑問を浮かべながら、交通事故であることは間違いなさそうなので、全脊柱固定を考慮した搬送を考えていました。

(後にドクターヘリ要請事案となり、ドクターヘリ・水槽車1台が出動しています。)

(図2)無線交信

現場状況
現場は、比較的交通量の多い片側1車線の道路に面しており、住宅密集地域の中にある共同住宅2階でした。また、住宅は対向車線側にある建物で、近くに車の向きを変えるスペースもなく、救急車の停車位置に苦慮しました。

自宅玄関で苦しそうに半坐位でいる傷病者に接触しました。(図3)

事故概要は、7時45分頃、通勤途上に自転車同士の接触事故で、傷病者が跳ね飛ばされ、金属タイプのガードポール(図4)の先端に

腹部をぶつけ負傷(図5)、その後、職場には向かわず、帰宅し腹部の痛みが増強し要請に至ったものでした。このことから、種別は急病でなく、交通事故と確信しました。

現場活動

接触時、意識清明でしたが、呼吸は浅く速く、循環は橈骨にて速く弱く、身体全体にジメッとした汗を確認出来たため、初期評価でショックと判断しました。観察を行うと、腹部に打撲痕があり、また擦過傷等は無いものの右側腹部に圧痛と反跳痛を認めたため、腹腔内出血を疑いました。

高濃度酸素マスクで毎分10L酸素投与後、全脊柱固定を実施しようとしましたが、仰臥位にすると激痛を訴えた(写真6)ため、
 図6 仰臥位にすると激痛を訴えた

布担架で車内収容し、ショック体位で搬送しました(図7)。
図7 ショック体位で搬送

その後、現場からドクターヘリ要請を行い、傷病者接触から約20分後に救命センターの医師と接触しています。

~車内バイタルサイン~

呼吸30回/分(浅く速い) 脈拍100回/分(速く弱い) 血圧82/60、SpO210L酸素投与下100% 体温35.0℃ 心電図モニター洞性頻脈

~診断名と経過~

傷病名:腹部外傷
程 度:重症
経 過:入院当日に右腎部分切除術を行い18日後退院
最終診断名:出血性ショック、右腎損傷、肝損傷

問題点・考察

今回の事例の問題点として『病院連絡時(図8)、現場状況を伝える難しさ』、『指令内容から現場状況を推測する難しさ』、『現場処置の難しさ』、『ランデブーポイント選定の難しさ』を感じました。
(図8)病院連絡

~ 病院連絡時、現場状況を伝える難しさ ~
ホットラインを使用する際は、受傷から救急車要請までのストーリーを始めから終わりまで話すと長くなり、伝わりづらくなってしまうため、要点やキーワードをいかにうまく伝えるかが重要になります。

これに関しては、色々なコースなどを受講することでスキルアップを図ること、1件1件の救急活動の中で医師に何をどのように伝えるかを常に考えながら活動することが、技術向上に繋がると思います。

~ 指令内容から現場状況を推測する難しさ ~
急病で入電された事案でしたが、元々の受傷機転が交通事故によるものであったため、受傷した時点の映像をイメージすることが難しく、傷病者接触まで様々考えました。

どのような事例においても、指令内容のみにとらわれず、現場をイメージして、そこから起こりえる所見等を念頭に置きながら現場に向かうことで、より円滑な救急活動を行うことが出来ると思います。

~ 現場処置の難しさ ~
  外傷におけるロード&ゴー症例の傷病者に対しては、全脊柱固定を行い搬送することがJPTECで定められておりますが、今回の症例の傷病者は仰臥位にすると激痛を訴えたため、全脊柱固定(図9) を実施することが出来ませんでした。
図9 標準的な全脊柱固定

  このような傷病者に対しては、骨折の応急的固定のようにバックボードに固定し、傷病者の下肢を伸展させずに固定を行う(図10)などして、

図10 傷病者の下肢を伸展させずに固定を行った

出来る限りの処置を行う事が大事であると感じました。また、頸髄損傷等を伴う傷病者に対しては、悪化の防止となり、より質の高い救急活動になると思います。

~ ランデブーポイント選定の難しさ ~

(資料提供:朝日航洋)

現場からランデブーポイントまで200mと近く、直近水槽隊(安全確保隊)がランデブーポイントに到着するかなり前に、救急隊が到着してしまったため、空白の時間が生まれてしまいました。
救急隊・水槽隊(安全確保隊)・ドクターヘリ(図11)それぞれが、待機することなく活動を行うには、救急隊がどの時点で出場を要請するかがカギになります。

現場及び水槽隊(安全確保隊)の位置状況と、ヘリフライト時間を考慮し、ランデブーポイントを選定することで活動は円滑に進みます。
単なるドクターヘリ要請ではなく、プランニングした活動によるドクターヘリ要請をすることで更なる住民サービスにも繋がると思います。

おわりに

今回あげた事例は、交通外傷という1つの括りでも、発生機序・内容が複雑で、重症と判断しても、一概にJPTECに則った活動が出来る事例ではありませんでした。
我々救急隊員はいかなる事例・現場においても、臨機応変に対応し、より良い活動・質の高い搬送を行い、住民サービスの向上に努めることが仕事だと思います。
今後は、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保と輸液、血糖測定及び低血糖発作に対するブドウ糖投与といった、新たな救命処置も処置範囲に拡大され、更に救急活動は高度化且つ複雑化することが予想されます。
前述にも記した通り、救急活動全体をイメージし、考え・プランニングする事が重要となり、尊い命を救う第一歩になるのでは、と私は考えます。


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14.8.9/10:52 AM]]>

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