190418救急活動事例研究(26)重症外傷における現場滞在時間短縮の検討

 
  • 665読まれた回数:
救急の周辺
DSC_0503

雑誌 近代消防 2019年4月号 p98-100

重傷外傷における現場滞在時間短縮の検討

江川健太

倉敷市消防局玉島消防署

著者連絡先

所在地: 〒713-8113 岡山県倉敷市玉島八島856-1

電話: 086-522-3515

目次

1.目的

倉敷市消防局管内の傷病程度重症以上の交通事故事案について現場滞在時間を調べたところ、平成19年は13.1分のに対して平成27年15.9分と約3分間延長していた(図1)。そこで、現場滞在時間の延長には何が関与しているかを検討し、重症外傷の現場において意識するべき項目を明らかにすることを目的とした。

図1倉敷市消防局管内の傷病程度重症以上の交通事故事案について現場滞在時間。平成19年と平成27年の比較(うまく修正できなかったため見辛いです。すみません)

2.対象

対象は倉敷市消防局管内の重症以上の交通事故事案、平成19年205件及び平成27年146件である。これらについて、(1)現場滞在時間、(2)現場到着からファーストコールまでの時間、(3)現場到着から車内収容までの時間、(4)病院連絡回数、(5)処置・観察数、(6)ファーストコールに要した時間を抽出した。

次に(1)から(6)について、平成19年と平成27年を比較し、さらに平成27年については死亡例と重症例に分けて処置の内容について検討した。ここでいう処置・観察については、倉敷市消防局の救急報告書の入力画面であげられている項目を処置・観察と定義した。なお、その他の処置は体温測定である(図2)。

連続変数はウイルコクソンの符号順位検定、2値変数はフィッシャー検定を使用し、危険率0.05未満を有意差ありとした。

図2

処置・観察は倉敷市消防局の救急報告書の入力画面であげられている項目と定義した

3.結果

平成19年と平成27年の(1)から(6)の比較では、現場滞在時間、処置・観察数、ファーストコールに要した時間が有意に延長・増加していた(表1)。

表1

平成19年と平成27年の比較

平成27年の死亡例と重症例を(1)から(6)で比較すると、死亡例は処置・観察数は多いものの、現場滞在時間、現場到着からファーストコールまでの時間、現場から車内収容までの時間、ファーストコールに要した時間は短かかった(表2)。

表2

平成27年の死亡例と重症例の比較。

平成19年平成27年にかけて増加している処置は止血、頸椎カラー、被覆、静脈路確保、体温測定、呼吸音聴取、心電図などの8個の処置。減少していた処置は酸素吸入、保温、心音聴取の3個の処置であった。なお、固定その他については用手などが含まれる(表3)。

表3

平成19年と平成27年との処置数の比較

平成27年の死亡例と重症例での処置数を比較した。死亡例で多い処置は心肺蘇生、静脈路確保、薬剤投与といった心肺停止関連の処置や喉頭展開、ラリンゲアルチューブ挿入、用手気道確保、吸引といった気道確保に関するものの他、全身固定、心電図、酸素投与といった項目で10個あった。重症例に多い処置は頚椎カラーや保温の他、血圧、経皮的酸素飽和度測定、体温測定といった通常の観察に関するものが多いという結果となった(表4)。

表4

平成27年の死亡例と重症例での処置数の比較

LT:ラリンゲアルチューブ挿入。血中酸素:経皮的酸素飽和度測定

平成27年の死亡例と重症例を比較すると、死亡例は心肺停止が多く、心肺停止事案では搬送中に処置を行っている事案が多くあった。重症例については、搬送中に処置を行っている事案は少なく、ほとんどの事案で搬送開始前に処置・観察を行っていた(表5)。

表5

平成27年の死亡例と重症例の比較

CPA:心肺停止

4.考察

平成19年から平成27年にかけて滞在時間が延長したのは、処置数とファーストコールに要した時間が延びたためであった。だが詳しく見ると、現着時に傷病者が心肺停止であった場合は現場滞在時間が短く、搬送途上に処置を行っていた。また、心肺停止事案ではファーストコールの内容が絞られていることから、ファーストコールの所要時間も短かった。

このことより、心肺停止傷病者以外で平成19年から平成27年にかけて増加した処置・観察数及びファーストコールに要した時間が滞在時間の延長の原因である。

このことをふまえ、現場滞在を短縮するには、重症事案においてもファーストコールの内容は迅速かつ手短に伝え早期に搬送開始することと、搬送中に処置を行いバイタルサイン及び全身観察結果をセカンドコールで伝えることが必要になる。

結論

1)倉敷市消防局管内の傷病程度重症以上の交通事故事案について現場滞在時間を調べたところ、平成19年に比べて平成27年では約3分間延長していた

2)現場滞在時間の延長は、心肺停止傷病者以外での処置・観察数の増加とファーストコールに要した時間が原因である。

3)重症事案においてもファーストコールの内容は迅速かつ手短に伝えること、処置を搬送中に行うことで滞在時間の短縮が可能になる

名前:江川 健太(えがわ けんた)

 

出身地:岡山県真庭市

所属:倉敷市消防局

消防士拝命:平成17年4月

救命士合格年:平成24年

趣味:アウトドア

 

ここがポイント

処置拡大は救命率や生存退院率に結びつかない。これは過去多くの論文で指摘していることである。処置が増えることによって現場滞在時間が増え、病院収容が遅れるからである。過去の研究によると現場での多様な処置は救命率や生存退院率に影響しないかもしくは悪化させる。「Stay and play (現場に留まって処置をする)」「Load and go (最低限の処置をして病院を目指す)」「Scoop and run (患者を拾い上げてそのまま病院へ走る)」の3つの方法でもっと良い成績を収めたのが「Scoop and run」であるという報告もある。

処置拡大に置ける最大の矛盾点が現場滞在時間の延長ならば、それを短縮するためにはどうしたらいいか。筆者はファーストコールを迅速かつ手短に行うことと処置を搬送中に行うことの2点を挙げている。また、どんどん増えて来た処置数を見直すことも必要だろう。この患者に酸素は必要か。全身固定は本当に必要なのか。ルーチンという名のもとで何も考えずに症例をこなしていないか。症例ごとに必要な処置を考えることが、現場滞在時間の短縮に繋がるはずである。





コメント

タイトルとURLをコピーしました