月刊消防 2023/01/01, p85
CES-66
著者である砥上裕將さんの文章は美しく繊細だ。いつの間にか、視能訓練士である主人公が見ている景色を体感している感覚を味わった。思いがけない展開と、心温まる場面が多く、早く次が読みたいと言う衝動に駆られてしまう。主人公は新人で、眼科医院に勤め始めたばかり。失敗するたびに、憧れの先輩に叱られる。章が進むごとに、患者とやりとりしながら主人公が成長していく姿を追うとともに、読み手にも眼に関する知識や情報が蓄積される本だ。例えば、治療を軽視していた患者が、ある出来事をきっかけに視野の欠損に気付く場面がある。その疑似体験に息を吞まされ、まるで自分が視野欠損したかの様な錯覚にすら陥入るのだ。消防士としても救急救命士としても、視能訓練士と関わることは少なく、恥ずかしながら僕は、この本で初めて視能訓練士を知った。まっすぐで優しい本が、どうか多くの人に届きますように。(380字)
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