230930救急活動事例研究 69 突然の激しい頭痛を主訴とする急性心筋梗塞症 小千谷市消防本部 星野紀幸

 
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症例



近代消防 2023/1/11 (2023/02月号) p102-105

 


プロフィール
氏名:星野 紀幸(ほしの のりゆき)
所属:小千谷市消防本部 警防課救急係
出身:新潟県小千谷市
平成 7年消防士拝命
平成20年救急救命士合格
令和 3年指導救命士認定
趣味:旅行

230930救急活動事例研究 69 突然の激しい頭痛を主訴とする急性心筋梗塞症 小千谷市消防本部 星野紀幸
近代消防 2023/1/11 (2023/02月号) p102-105 プロフィール氏名:星野 紀幸(ほしの のりゆき)所属:小千谷市消防本部 警防課救急係出身:新潟県小千谷市平成 7年消防士拝命平成20年救急救命士合格令和 3年指導救命士...
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突然の激しい頭痛を主訴とする急性心筋梗塞症例

小千谷市消防本部(新潟県)

星野紀幸

著者連絡先

小千谷市消防本部

警防課救急係

星野 紀幸

〒947-0028

新潟県小千谷市城内3-1-9

電話番号:0258-81-0119(代表) 

目次

小千谷市の概要

 

小千谷(おぢや)市は新潟県のほぼ中央に位置し、日本一の大河・信濃川が市の南東部から北東部へと流れ、その信濃川が生み出した、全国でも類を見ない規模の河岸段丘が特徴である。冬には豪雪により見舞われる厳しさと、その雪解け水がもたらす美しい自然や田園のなかで、小千谷特有の文化や産業を育み多彩な産業活動が息づいている。小千谷市消防本部の管轄区域は、小千谷市及び長岡市川口地域(旧川口町:長岡市から消防事務を受託)で管内面積205.22㎢、人口は約38,500人である。(令和3年4月1日現在)

小千谷市消防本部の救急概要

 

小千谷市消防本部の消防力は、1消防本部1消防署1出張所の構成で、職員数62名、救急救命士は18名(薬剤認定18名、処置拡大認定18名、指導救命士3名)である。救急車両4台(予備車1台を含む)を運用している(令和3年4月1日現在)。令和3年中の出動件数は1,509件で、前年に比べて63件増加している。

はじめに

 

激しい頭痛を主訴とする病態は、誰しもが「くも膜下出血」を疑う。救急現場で頭痛を主訴とする心筋梗塞に遭遇することは稀である。今回私は、突然の激しい頭痛及び嘔吐を発症し、収容後の診断名が「急性心筋梗塞」であった1例を経験した。現場活動中に様態変化し心肺停止(CPA)となったが、後遺症なく社会復帰した本症例を共有し救急活動の一助になればと症例報告する。

症例

 

59歳男性。

発症日時はx年12月某日、9時頃で天候は小雨。主訴は、頭部全体の痛み及び頸部の違和感。就業中に突然の激しい頭痛及び嘔吐を発症したため救急要請されたもの。

既往歴に、高血圧症があるが自己判断で治療中断。めまい症がある。

覚知時刻は9時24分。同僚からの要請で、「9時頃から激しい頭痛及び悪心がある。現在、車内でうずくまっており、意識はあるが痛みで会話困難。診療所にめまいでかかりつけ」との内容であった。

通信指令員は、通報内容から「脳卒中・くも膜下出血」疑いによりドクターヘリを初動要請したが、ヘリ側から「出動するが天候不良により着陸できない可能性がある」とのことであった。

通報内容から「くも膜下出血」を疑い不要な刺激を避け、安静搬送を共通認識として現場に向かった。

傷病者は事務所前に停車中の乗用車後部座席に座っていた(001)。頭痛及び頸部の違和感は継続していた(002)が、悪心は消失していた。頭部の痛みが継続していたため、ドクターヘリ対応と判断した。初期評価で、意識清明、気道・呼吸・循環に異常を認めず、バイタルサインでも明らかな異常は認めなかった。救急隊現場到着時の所見を表1に示す。

傷病者接触から5分後、現場活動中に容態が変化した(003)。意識レベルJCS300となり死戦期呼吸が出現した。総頸動脈触知は不能でありCPAを確認、心肺蘇生(CPR)を開始した(004)。車内収容を優先しCPRを実施しながら車内収容し、すぐ除細動パッドを装着したところ、心電図波形が心室細動であったため除細動を実施した(005)。救急車内で計2回除細動を行った(006)後に自己心拍が再開した(007)。特定行為については、静脈路確保を行った。ラリンゲアルチューブによる気道確保も試みたが、挿入時に抵抗があり中止した。心拍再開までのバイタルサインを表2に示す。

ドクターヘリの着陸情報を受け、ランデブーポイントに向け現場を出発した。ランデブーポイントからは医師判断で、ドクターヘリスタッフを救急車に同乗させドクターカー方式でドクターヘリ基地病院へ搬送した。搬送途上に12誘導心電図を測定しST上昇を確認した(008)。その後も心停止と自己心拍再開を繰返し、計4回の除細動及び医師によるアドレナリン投与が実施され、病院到着直前には、「痛い」と発語も出現するようになった。

医療機関搬入後の経皮的心臓カテーテル造影検査・冠動脈形成術(PCI)の画像を009に示す。

確定診断名は急性心筋梗塞で重症。グラスゴー・ピッツバーグ脳機能・全身機能カテゴリーは共に1と機能良好であった。

考察

 

私は、通報内容及び観察・問診結果から「くも膜下出血」を疑い活動したが、激しい頭痛を主訴とする急性心筋梗塞症例は過去に経験がなかった。

日本心臓病学会学会誌には「激しい頭痛で発症した急性心筋梗塞の1例」が症例報告1)されており、この報告から過去の例の一覧に表3に示す。くも膜下出血急性期においてST変化を呈することは知られているが、急性心筋梗塞の症状として頭痛は認識されていない。

全傷病者に対し頭蓋内病変を疑う所見を否定後、12誘導心電図測定を考慮すること、また、随伴症状の一つとして頭痛があることを念頭に置き活動することが重要であると考える。

    

001

傷病者は事務所前に停車中の乗用車後部座席に座っていた

再現写真

 

002

頭痛及び頸部の違和感は継続していた

再現写真

 

表1

救急隊現場到着時の所見

 

003

現場活動中に容態が変化した

再現写真

 

004

CPAを確認、CPRを開始した

再現写真

 

005

除細動を実施

再現写真

 

 

006

除細動時の心電図波形

上の2段は初期波形で、1回目の除細動実施波形

下の2段は、2回目の除細動実施波形

 

007

2回目の除細動後、5サイクル後のパルスチェックで自己心拍再開を確認した波形

 

表2

バイタルサインの変化

 

008

(左)医療機関へ搬送中に測定した12誘導心電図波形。(右)帰署後にST変化を抽出し印刷したもの。

 

009

冠動脈造影。右冠動脈の閉塞に対して冠動脈形成術を行った

 

表3

心筋梗塞に伴い頭痛を呈した症例一覧

文献

 

1)一般社団法人日本心臓病学会.「日本心臓病学会誌」.Vol.5 No.1February,2010.

 激しい頭痛で発症した急性心筋梗塞の1例

 http://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/j05_1pdf.html,(参照 2021-12-10)

 

 ポイントはここ

 

急性心筋梗塞の主症状として頭痛が来ることは聞いたことがなかった。調べてみると、中国から1例報告が出ていた1)。83歳の女性で6時間の激烈な頭痛の後で心電図をとったところST上昇が見られた。血管造影で右冠状動脈の狭窄があり、狭窄解除を行ったところ頭痛も消失しその後の頭痛再発はないと書かれている。掲載されている雑誌はちゃんとしたものなので、それだけ珍しいのだと思う。

偏頭痛の基礎疾患として心筋梗塞がある2)という論文もある。偏頭痛は血管拡張が原因とされているが、なぜ心筋梗塞と関係があるのだろう。

文献

 

1)Am J Emerg Med 2021 Sep; 47:350.e1-350.e3

2))Nat Rev Dis Primers 2022 Jan 13;8(1):2

 

症例
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