231101応急処置アップデート Q and A 12 『膝の前十字靭帯断裂を疑うには?』

 
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救急の周辺

 雑誌 健康教室 2023年3月号p50-1

応急処置アップデート Q and A

『膝の全十字靱帯断裂を疑うには?』

目次

Q

 コロナ後の運動不足のせいなのか、立て続けに「膝の前十字靱帯断裂(手術)」の事例が起こりました。

 膝の靱帯は、損傷していても本人が歩ける場合が多く、見た目も腫れがひどくありませんでした。「横になって足を伸ばし、自力で足を上げられるどうか」が、診断のめやすと聞いたことがありますが、他にも、前十字靱帯断裂を疑う所見や、判断の決め手となるような学校でできる検査はあるのでしょうか?

 また、どのような転機で断裂しやすいのか、指導者が配慮すべき事項なども教えていただけると、ありがたいです(本校のケースは、バスケットボールの方向転換・サッカーの接触・マット運動の着地でした)。

A

関節のぐらつきがあります。左右比べることで見当はつきますので、無理のない範囲でやってみましょう。

解説

 

1.膝の構造(001)

膝関節の最大の特徴は、関節の中に靭帯があることです。膝は、頭側に大腿骨、足側に脛骨があり、この2つの骨で関節を作っています。それだけでは膝の形は維持できませんから、膝関節の左右に側副靭帯があり、膝の内部に前十字靭帯と後十字靭帯があります。また膝関節の前には大腿四頭筋から伸びる膝蓋腱と、それに付着する膝蓋骨があります。膝の後ろ側には大腿二頭筋と下腿三頭筋の腱が付着していて、後方から関節を支えています。関節内部には半月板があり、上下の骨がこすれるときのクッションの役割をしています。

  

001

膝の構造

メディカルノートから引用

2.前十字靭帯損傷

靭帯は、関節が必要以上に動かないように関節を固定する線維性組織です。どの関節にも付いています。運動時にテーピングすることがありますが、もともと備わっているテープと考えても良いでしょう。この靭帯のおかげで、関節が望まない方向へ動くことがなくなります。前十字靭帯の役割は、脛骨が前にずれないように支えることです。

前十字靭帯が損傷時には激しい痛みと「ブツッ」という、何かが千切れた感覚があります。痛みにより膝の曲げ伸ばしが満足にできなくなり、立つと膝に力が入らず不安定な感じを覚えます。また関節内の出血のため膝が腫れてきます。時間が経つと痛みや腫れは徐々に改善し歩けるようになりますが、靭帯が切れたままのため、膝がグラグラする、歩いていて膝より下が勝手にずれる(抜ける感覚。膝くずれと言います)感覚が残ります(002)。ずっと放置していれば、上下の骨が正常とは違う動きをするため、半月板や軟骨を傷つけ、変形性膝関節症を引き起こします。

 

002

前十字靭帯の役割。

ジョンソンエンドジョンソン から引用

膝から下の頸骨が前にずれないように支えています。靭帯が切れると膝が前にずれる「膝くずれ」を起こします。

3.受傷しやすい運動

いずれも関節の可動域を超えて膝を曲げるのが原因です。

・他人とぶつかる:柔道やラグビー

・着地:バレーボール・バスケット

・捻る:スキー・サッカー

冬の北海道ではスキーで転んでの靭帯損傷が多く起きます。

靭帯損傷を防ぐ方法は一般的な注意と変わりません。ストレッチや筋力トレーニング、平衡感覚トレーニングなどです。

3.検査法(003)

 

必ず左右を比較します。

(1)関節の腫れ

患側の膝が腫れます。

(2)圧痛

靭帯が切れることにより痛みを生じます。前十字靭帯の場合は、膝の裏側に圧痛があります。介達痛(=骨折の重要なサイン)は通常認めません。

(3)ストレステスト

・ラックマンテスト:患児を寝かせ、30度程度に膝を曲げて、大腿骨と脛骨を前後に動かし、膝の抜け具合を見ます。

・前方引き出しテスト:膝を90度曲げ、頸骨を持って前に引っ張ることで、膝の抜け具合を見ます。

両方ともそれほどの侵襲はないテストですが、少しでも痛がるようならそれだけで異常ですので、テストは中止して病院を受診させます。

4.治療

 

前十字靭帯が切れた場合には、自然に再接着することはありません。膝くずれから変形性膝関節症へ進む危険が高いため、手術によって新しい靭帯を作ります。手術成績は良く、半年以上かかるものの通常の運動が可能になります。

5.養護の先生が経験した事例

 

中学3年生男子。サッカーのクラブチームに所属し体格もしっかりした生徒。学校の体育の授業で、バスケットボールの試合の最中に膝を痛めたと保健室へ来室。

本人の話では、リバウンドボールを取るためにジャンプし、着地した際に痛みが走った。着地の際に、他人の足に乗った記憶は無い。ただ、何人かでジャンプしたので、体はぶつかっていたかもとのこと。症状としては、ある角度から痛くて膝が伸ばせない。

痺れは無く、目視では腫れが見られなかったが、着地の際、体勢が崩れて膝がどちらかに入って(内側か外側か)靭帯を痛めたのではないかと判断し、冷却し経過観察。痛みもひかず、屈伸の角度も変わらないため、保護者に連絡し、整形外科を受診。診察の結果、「内側側副靭帯損傷」。

註:内側側副靱帯損傷は足関節の捻挫に似ています。膝の内側やや上に圧痛があります。膝が腫れるようなら膝内部も損傷していると考えましょう。内側側副靱帯の単独損傷なら保存的に治療します。

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