231129救急隊員日誌(225)宮崎駿だって面倒くさいと思っている

 
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救急隊員日誌
月刊消防 2023/03/01, p65
 
 
 
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野球

 ライト、ウインカー、赤色灯。今日の業務もいつもの車両点検から始まる。気管チューブの期限は切れてないか。防振ベッドは空気で満たされているか。「除細動器のバッテリーは92%か。これも問題なし・・・。」毎朝、勤務交代後に必ず行われる始業点検。何年も続けているが、ゴミが落ちているとか心電図の電極を付け忘れているとか。せいぜいそんな程度で大体異常はない。何年も同じことを続けていると、時に人間のとても弱い部分が露呈してしまい、“面倒くさい”と感じてしまう。「この後は在庫の確認か・・・面倒くせー・・」と言う風に


 世の中には、「手間ひまばかり、気苦労で面倒くさいわりにお金は儲からない」という仕事は多いのだが、先日、プロフェッショナルというテレビ番組で、ジブリでおなじみの宮崎駿さんの特集があった。その中で宮崎駿さんが連呼する言葉。それが、「面倒くさい。」だ。記者が宮崎駿さんに張り付いて取材しているのだが、それはもう「面倒くさい」のオンパレードである。机に向かって絵を描く宮崎駿さんは呟く。「あー、面倒くさい。」「・・・ヤダヤダ。」そしてカメラマンに向かって振り返ると、「何が面倒くさいって、究極に面倒くさいよね・・・?」と問う。カメラマンも困惑の様子だ。


 世界的に有名な宮崎駿というほどの人間であれば、そんな気持ちとは無縁なものだと思っていた。宮崎さんだって人間。時には面倒くさいと思うことはあるかもしれないが、その想いは頭の端っこにしまっておくものであって、間違っても取材中に口にするようなものではないのではないか。少なくとも、消防署で仕事中に、「その仕事、面倒くさいっす。」と言ったものなら、「帰れ」と叱られちゃうな(笑)。そんなことを考えながらテレビを見ていたら、このあとの宮崎さんが発したセリフにハッとさせられた。カメラに振り返らず、淡々とペンを走らせながら宮崎駿さんはこの様に言う。「面倒くさいって言う、自分の気持ちとの戦いなんだよ。」「大事なものは、たいてい面倒くさい。」「面倒くさくないとこで生きていると、面倒くさいのは羨ましいなと思うんです。」そして言う。「あーーーー面倒くさい!!」と。


 職業に関わらず、みんな多少の差はあれど、「面倒くさい」と戦っている。でもその面倒くさいが「楽しい。」面倒くさいが「やりがいを生む。」面倒くさいが、「ありがとうに変わる。」究極に面倒くさいが「あなたには感謝しても仕切れないに変わる。」こう考えると、「面倒くさい」っていうネガティブな言葉が楽しい言葉に聞こえてくるから不思議だ。面倒くさいってことはつまるところ、誰かが面倒くさいことを肩代わりしているわけで、その他の人が結果的に喜んでいることに繋がるからだろう。“世の中の大切なことは、面倒くさい事で成り立っている。”きっと宮崎駿さんはこの様なことが伝えたかったのではないか。 
 救急救命士になってももうすぐ20年。一通りの症例は経験し、目新しいことはほとんどなくなった。僕ももう宮崎駿さんの様に、己の限界との戦いが始まっているのかもしれない。「宮崎駿さんだって面倒臭いんだもんね♪」今日もそんなことを考えながら、始業点検に取り掛かるのであった。(1334字)

 

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