月刊消防 2023/11/01号 p31-7
入東Ladder Rescue System「ラダー・レスキュー・システム」~早期安静救助を目指して~
エレベーター式救助システム(狭あい箇所からの救助システム)
目次
1考案経緯
建物2階において屋内からの搬出困難事案が発生した際、限られた状況下での救出が求められる現場があるかと思います。良い条件が揃わない状況においても要救助者を安静かつ安全に救出できるシステムを構築するため考察を重ねた結果、三連はしご、かぎ付はしご及びロープレスキュー資機材を活用し、高所からエレベーターのように要救助者を水平かつ安静に救出するシステム、それが、エレベーター式救助システム(以下「EVシステム」という。)です。
2システム概要
⑴EVシステムの概略(写真1-1)
EVシステムの根幹となるのが三連はしごとかぎ付はしごです。両はしごの先端をウェビングテープで連結させ、それぞれのはしごに対して救助ロープを各1本、計2本使用します。メインロープを三連はしご、ビレイロープをかぎ付はしごに設定し、救出開始時は、かぎ付はしごで三連はしごを離ていさせながら担架を足部側から屋外へ出し、メインロープ及びせ救出するシステムになります。
⑵EVシステムが選択される救助現場
建物2階からの搬出困難事案において、第一に選択される救助方法は「はしご水平救助(二)」(以下「水平(二)」という。)ではないでしょうか。しかし、水平(二)を選定する上で、上階はベランダのような開放的な開口部であり地上の救出ポイントはしっかりと確保されているなど、確実に条件が揃っていなければなりません。一方、EVシステムは以下のような劣勢な状況下においても有効的な救出方法になります。(写真1-2)
・有効な開口部が腰高引き違い窓のみで、なおかつ窓を取り外すことが出来ない
・ベランダの庇のように、上部に障害物がある
・スペースが確保できず、なおかつ三連はしご伸長分を後方に伏ていできるスペースがない
写真1-2 ベランダの庇のように、上部に障害物がある
以上のことから、EVシステムは二の手三の手となる重要な救出方法の一つとして挙げられるシステムとなるでしょう。
⑶EVシステムの特徴
EVシステムは、水平(二)の応用として考案された救助方法です。水平(二)の救助システムを簡単にまとめると、三連はしご横さんを支点にして救助ロープを通し、救出開始時は三連はしごを離ていさせ、担架を水平に降下させる救助方法です。
◎ここがポイント!
EVシステムが選択される救助現場を鑑みると、窓枠の幅から水平担架を横向きで出すことが不可能であり、縦向きで出すと、とびフレームやクロスバーでは離隔距離をとれない、あるいは、三連はしごの伸長量に制限があり有効な支点の高さがとれないなどの支障を引き起こします。その支障を補うことができるEVシステムの特徴が以下の四点になります。
・水平担架を縦向きに屋外へ出すため、担架幅以上の開口部でよい
・三連はしご架てい状態で、開口部エッジから三連はしご横さんが一マス出ていればよい
・水平(二)用クロスバーの代わりに、三連はしごとかぎ付はしごを連結して代用することで水平担架が開口部から縦向きで出る長さをとれる
・開口部直下の救出ポイントが、水平担架が縦向きで救出できるスペースがあればよい
3使用資機材(写真1-3)
三連はしごかぎ付はしご編み構造ロープ×2
バスケットストレッチャーリッターハーネス(4ポイント)
カラビナ×2ウェビングテープイエロー×1
4システムのメリット・デメリット
・メリット
・使用資機材が少ない
・システムがシンプルで、設定が速い
・活動人員5名で救出可能
・前述のように、水平(二)では救出できない状況下でも選択できる救助方法
•デメリット
・屋内の活動スペースを確保しなければならない
(かぎ付はしご(3.1ⅿ)が開口部から屋内に向かって垂直に入るスペース)
・救助ロープのメイン、ビレイが上下階に分かれるため、密な連携が必要不可欠
・三連はしごを離ていする際にかぎ付はしご保持者への負荷が大きくなる
・開口部直下に庇等の障害物がある場合は、選定不能
5活動の流れと設定詳細
⑴資機材の搬入
屋内からの要救助者搬送が困難であることを踏まえ、上階開口部からバスケットストレッチャー及びかぎ付はしごをロープで引き揚げます。この際、建物保護の観点から開口部に養生を実施します。
⑵三連はしご側
ア目標開口部直下の壁面から、バスケットストレッチャーの長さと三連はしごの厚さを足した長さの位置に基底部を設置します。(写真1-4)
◎ここがポイント!
基底部の位置が壁面から近いと、開口部から担架を出せない、あるいは地上救出ポイントまで担架を降下することができず、最悪の場合は降下途中に三連はしごに緩衝し救出続行不能になります。また、基底部が遠すぎる場合には、救出開始時のはしごを離ていする際、かぎ付はしごへの負荷が超過し、保持が困難となり、担架に収容されている要救助者とかぎ付はしごが接触してしまう恐れがあります。
そのため、バスケットストレッチャーを搬入する前に救出ポイントに、「実際にバスケットストレッチャーを置いて確認する。」など、確実な目安を立てておくことが重要です。
イ三連はしご架てい状態で、開口部エッジから三連はしご横さんが一マス出る以上の長さで伸ていし架ていします。(写真1-5)
ウメインロープを横さん下段一段目から一マス一周し、上部は上段一段目を支点にしてロープを屋内へ送ります。(写真1-6・1-7)
↑メインロープの通し方 下部
↑メインテープの通し方 上部
⑶三連はしごとかぎ付はしごの連結
ア架ていした三連はしご最上段の裏横さんの中心に、ウェビングテープイエローの中心をひばり結びで結着します。(写真1-8)
↑連結するはじめの接着方法
イ三連はしご最上段の裏横さんとかぎ付はしご横さんの最上段を、「ア」で設定したウェビングテープを中心から左右に巻き付けていきます。この方法によって、時間短縮並びに、より強固に巻き付けることができます。
◎ここがポイント!
本システムは、ウェビングテープで確実に三連はしごとかぎ付はしごを連結させることで安全に救出できるシステムです。その肝となるウェビングテープに、一度緩みが生じると摩擦力が失われ、両はしごの接地面にズレが生じてしまい、安全を確保することが困難になります。
その緩みを確実に防止するため、横さんだけに巻き付けるのではなく三連はしごの裏主管とかぎ付はしごの主管にも巻き付け、あらゆる方向から力が加わってもズレが生じないよう保持します。(写真1-9)
↑連結した状況
⑷かぎ付はしご側
◎ここがポイント!
各ロープの流れが重要になります。各ロープをかぎ付はしご横さんの何段目から垂下させるかを把握していないと、担架降下時に三連はしごあるいは建物に接触してしまい救出続行が不可能になるため、以下の設定方法を覚えておく必要があります。また、ヒューマンエラーを無くすために、かぎ付はしごに印をつけることも一つの手段です。
ア三連はしご側のメインロープ端末をかぎ付はしごの上段1マス目の間から通し、かぎ付はしごの表面をはわし最上段から5段目にツーラウンドフィギュアエイトフォロースルーで結着し、上段から4マス目の間からつるべ式で垂下させカラビナを取り付けます。(写真1-10)
↑鍵付きはしごへのメインロープの通し方
イかぎ付はしご側のビレイロープ端末にフィギュアエイトオンアバイトを作成し横さん最下段から一マス一周して、下段から6マス目の間から垂下させ、カラビナを取り付けます。
↑鍵付きはしごへのピレイロープの通し方
⑸要救助者の縛着
ア要救助者をバスケットストレッチャーに収容します。
◎ここがポイント!
誘導ロープは基本的には必要としないシステムであります。担架を誘導ロープなしで縦向きに降下させるためには、以下の設定が必要になります。
↑各ロープとリッターハーネスの取り付け状況
⑹要救助者の救出
ア三連はしご側のメインロープ操作員1名、救出階の担架保持員2名、かぎ付はしご保持及びビレイロープ操作員2名で配置します。
↑救出開始時の状況
ウ指揮者の「はしご離せ。」の号令で、かぎ付はしご保持員はかぎ付はしごを押し出すとともに、担架保持者はさらに担架を上げて開口部框に乗せます。(写真1-14)
◎ここがポイント!
↑三連はしご離てい時の担架と鍵付きはしごの状況
はしごの高さを十分に上げながら三連はしごを押し出していきます。
エロープの張りを保ちながら三連はしごを適当な位置まで離した後、かぎ付はしごを框に乗せ安定化を図ります。
↑担架が屋外に出る状況
オ三連はしごの安定状態を確認後、各ロープ操作員は円滑にロープを繰り出し、担架の降下状態を監視しながら降下させて静かに担架を着地させ救出完了となります。(写真1-16・1-17)
↑担架降下時の状況
↑担架が地上に到着した状況
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