月刊消防 2023/12/01号 p76-7
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新しい 薬 の 話
今回は救急から離れて、慢性疾患の 話をしたい。取り上げるの は糖 尿病・肥満・アトピーの 薬 である。
糖尿病の 薬 SGLT2阻害薬
糖尿病は高血糖により様々な症状が出現する病気である。原因はイ ンスリンの 働きが悪くなる(インスリンの 量が少なくなる場合と、 体がインスリンに反応しなくなる場合がある)ためで、小児発症が 多いI型糖尿病ではインスリン注射が絶対に必要となり、成人の 肥 満で発症するII型糖尿病でも早期にインスリンを導入して膵臓の 負担を軽減させるようになってきている。
現在急速に普及してきているの がSGLT2(Sodium glucose co-transporter 2)阻害薬 である。市場へは2014年から流通している。血液は 腎臓を通ることで不要物が濾過され尿となって排出される。この う ちブドウ糖については糸球体を通過する際に一度は尿に混じって排 泄されるの だが、正常人では近位尿細管で全て再吸収されるの で尿 に糖は混じらない。この 再吸収はSGLT2が90%を受け持ち、 残りの 10%はSGLT1が受け持っている。糖尿病患者ではSG LT2の 発現が増加していることがわかっている。つまり、 血糖を高める方向になっているの である。
ここでSGLT2阻害薬 を投与することで尿糖の 再吸収を阻害して 糖が尿と一緒に出るため、血糖値が下がる。また血糖値以外にも心 不全や腎機能障害の 進行を防ぐといった効果が明らかになったこと から、心疾患や腎疾患の 患者にも用いられるようになっている。副 作用としては体重減少(単純に体重が減るというより筋肉量が落ち るらしい)や尿量の 増加があり、また尿に糖が混じることから陰部の 感染症の 危険性が高まる。
インスリン 1週間に1回の 注射
糖尿病でインスリンを注射する方法はいろいろあって、例えば1日 1回の 注射を行い、食事ごとに飲み薬 を飲むという方法もある。こ れを基礎インスリン補充療法と言っている。
現在は基礎インスリン補充療法では1日1回の 注射が必要である。 それを1週間に一回とする薬 剤の 開発が最終段階を迎えている。名 称はInsulin icodec。すでに患者に使われている1日1回投与タイプの イ ンスリンであるDegludecと比較した研究1)では、ico decはDegludecと比較してヘモグロビンA1cを下げる 効果は同等であった。重大な副作用である低血糖の 発生率は0-2 6週目まではicodecはDegludecより発生率が高く、 その 後の 発生率は同等であった。
インスリンといえば、膵臓の 抽出物が血糖を下げることが報告され たの が1921年である。それから100年以上経っているの に、 いまだに注射薬 しかない。ワクチンもmRNAで作られるようにな ったの だから、経口インスリンも早くできてほしいもの である。
肥満症の 薬 GLP-1受容体作動薬
こちらは2023年3月に承認を受けた薬 である。GLP-1(g lucagon-like peptide-1)はGLP-1受容体を介して膵臓からインス リンの 分泌を促進するとともにグルカゴンの 分泌を抑制する。また 尿の ナトリウム排泄量を増加させ、腎保護作用を有する。さらに・ 過剰な食欲を抑える・満腹感が持続する・脂肪を分解しやすくなる 、という作用がある。
その 痩せる効果からダイエット薬 として注目されているが、肥満が あれば全て保険適用になるの ではないことに注意しよう。保険適応 になる肥満症はBMIが35kg/m2以上なら高血圧、脂質異常 症もしくは2型糖尿病の いずれかを有し、BMIが27kg/m2 以上ならその 二つを有していることが前提で、加えて食事療法・運 動療法を行っても十分な効果が得られない場合に限られる。保険適 応が効かない人には、自由診療で薬 を入手することもできるようだ 。医者としてはどうかとは思うが、興味がある人はネットで調べれ ば多くの クリニックがヒットする。
アトピーの 薬 JAK阻害剤
アトピー性皮膚炎は掻痒感により皮膚がかきむしられ湿疹として発 症する。この 疾患の 背景には「アトピー素因」と言われるアレルギ ー体質があるため、アトピー性皮膚炎の 患者では喘息やアレルギー 性鼻炎を併発していることが多い。
この 掻痒感や皮膚炎の 発症には炎症を引き起こすサイトカインが関 与している。この うち、JAK(Janus kinase)阻害剤はJAK-STAT(single transducers and activator of transcription)シグナル経路を阻害する薬 剤であり 、炎症やかゆみの 信号が送られてきてもその 後の 信号を遮断して症 状を抑える。JAK阻害剤は2013年の 関節リウマチへの 適応が 最初であり、その 後潰瘍性大腸炎や喘息、乾癬、クローン病が適応 症として認可された。
アトピー性皮膚炎への 適応は2021年なの で最近の ことである。 15歳、もしくは12歳以上に投与でき、安全性も高い。皮膚症状の 改善も期待できるがかゆみの 軽減の 効果の 方が大きい。問題とな るの はその 値段で、保険で3割負担だと一ヶ月で4万円以上の 出費 となる。
どんどん薬 は出てくるがみな高価
新しい 薬 は遺伝子レベルの 研究から生まれたもの ばかりで、みんな がみんなとても高価である。癌の 時の 免疫チェックポイント阻害剤 がその 最たるもの だが、アトピーの 薬 もなかなかもの もである。 私も含めて、いつ病気になるかわからない。 国民皆保険の 日本であっても、病気になる時の ためにちゃんとお金 を貯めておこう。
文献
1)Jama 2023 Jul 18; 330(3):228-37
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