240828応急処置アップデート Q and A 20 『膝の骨折で気をつけることは』

 
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救急の周辺

応急処置 Q and A

2023/11月号(2023/10/11発行号)p58-9

膝の骨折で気をつけることは

目次

Q

体育の授業、バスケットボール中に発生しました。高3年男子が他の生徒と接触して自分の膝に相手の足が接触して(蹴られたような状況)、膝を負傷しました。体育教員も引率して保健室で冷やして膝の状況を確認し、冷却をしながら保護者へ連絡して迎えに来ていただきました。

膝を曲げられない状況と痛みがあり、迎えにきていただいた母の軽自動車の後部座席に膝を伸ばした状態で乗せて、病院の受診を勧めました。

診断結果:膝蓋骨が4つに割れており、地元の整形外科医院を受診したが、大きな総合病院へ紹介となり入院と手術となった事例でした。

後日、父より痛がってかわいそうだったことや、車での移送は大変だったこと、総合病院への搬送が遅れ手術まで時間を要したことなど、救急車の要請をしてほしかったとの連絡があり反省しました。

膝の負傷で気をつけなければいけないこと、見立てについてのご意見や、整形外科医院か大きな総合病院へすぐに搬送したほうが良いのかのご意見をいただけると助かります。

A

(1)膝であっても基本的な処置は他の骨折と変わりません。固定してそれ以上の損傷を起こさないように固定すること、必要なら冷却して痛みを取ることです。

(2)「総合病院への搬送が遅れたから手術まで時間を要した」のは保護者の勝手な思い込みです。骨折では部位が腫れていると出血が多くなり手術しづらいことと、適切な道具を手配するのに時間を要することから、手術は受傷の翌日以降に待機的に行われます。

解説

2023年3月号のこの連載では「前十字靭帯損傷」について解説しました。今回は骨折について解説します。

1.膝関節と膝蓋骨(001)

  

膝蓋骨は「皿」と呼ばれていますが、実際には皿ではなくどら焼きのような形をしています。頭側は大腿四頭筋腱を通じて大腿四頭筋が付着しており、足側は膝蓋靱帯が付着しています。膝を伸ばすときには大腿四頭筋が収縮しますが、このときに力の方向を変えてスムーズに膝が伸びるようにするのが膝蓋骨の役目です。

2.膝蓋骨骨折(002)

固い面に強く膝頭をぶつけることで膝蓋骨は骨折します。膝蓋骨は上下から引っ張られて存在しますので、2つに割れた場合は骨片は上下に離れてしまいます。また強大な力により3つ以上の骨片に分かれる場合もあります。

症状としては痛みにより膝が自力で動かせなくなります。骨折部は腫れと圧痛があり、症例によっては外から骨折線が窪みとして触れることがあります。

3.応急処置と治療(003)

外傷機転、膝蓋骨に一致する痛み、自力では膝が動かせなくなることから判断は容易です。応急処置はシーネなどの長い副木で膝を真っ直ぐにして固定します。痛みに対しては冷却します。膝蓋骨が折れても内出血はそれほど多くはありませんので血圧は保たれます。

Aで述べたように、医学的な面からは救急車を呼ぶ必要はありません。血圧は低下しないこと、緊急手術の対象ではないことがその理由です。でも骨折とわかっているのでしたら救急車を呼ぶ社会的適応はあるでしょう。

治療は、骨片が離れずにくっついている場合は手術を行わずに固定だけで骨の接着を待ちます。骨片が2つでも離れている場合や骨片が3つ以上の場合は骨を針金で固定する手術を行い、半年以上経ったらその針金を抜去する手術を行います。

4.膝周囲の骨折(004)

膝間接は、頭側の大腿骨と足側の脛骨で構成されています。膝間接内で骨折が起きた場合は膝が痛みで全く動かせなくなり、膝が高度に腫れます。また膝蓋骨骨折も合併することが多いようです。応急処置は固定と冷却。関節面の骨折は可動域制限(膝が満足に曲げ伸ばしできなくなる)や下肢の変形(O脚やX脚)が懸念される、重大な骨折です。

膝の上、大腿骨や下腿(脛骨・腓骨)の骨折では、骨が太いため内出血量も多くなります。特に大腿骨骨折では血圧低下を来すことがあります。変形を見たら救急車を呼び、救急車が来る間に(1)そのままの形で待てるなら固定せずに救急隊の処置を待ち、(2)動かす必要があるなら固定して安全な場所に動かして救急隊を待ちます。

養護の先生が経験した症例

小6男児。

運動会の種目「よさこいソーラン」の練習で、膝を横に動かす動作が繰り返しありました(反復横跳びのような、膝に負担がかかるような動き)。練習中は何事もなかったが、教室に戻ってきて、普通に歩いている時にいきなり倒れこみました。

すぐに私が呼ばれ、教室へ行き、状況を確認すると、本児が膝の付近の痛みを訴え、触ると膝蓋骨が本来の場所ではない横に移動していました。すぐに救急車を要請し、病院へ搬送。結果、膝蓋骨の脱臼で、「よさこい」の激しい運動が誘因し、もともと本児の膝蓋骨を押さえる機能が弱い(緩い?)ので、ゆくゆく手術が必要だと言われました。

その後、脱臼したのを元に戻してもらい、別の病院で改めて手術を実施しました。

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