山田脩:心電図モニターにおける筋電図混入要因の研究

 
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山田脩、梅田広行、松本達雄、 玉川進:心電図モニターにおける筋電図混入要因の研究。プレホスピタルケア


心電図モニターにおける筋電図混入要因の研究

山田脩1、梅田広行2, 松本達雄3, 玉川進4
1旭川市南消防署豊岡出張所, 2旭川市北消防署救急第2係、3旭川市北消防署永山出張所、4旭川医科大学第一病理学教室

著者連絡先
山田脩:やまだ おさむ
旭川市南消防署豊岡出張所:救急救命士
旭川市豊岡4条3丁目7-1
TEL 0166-31-4603

はじめに

 心電図モニターは患者の状態把握と経過観察に必須である。
 救急隊員は現場から病院到着までの限られた時間で問診を行い身体所見を取り心電図をチェックしなくてはならない。病院内での心電図検査のように、検査前に数分の安静を求めることは不可能である。問診や理学所見を取りながら迅速に心電図のチェックを行うためには、患者のどのような動作でアーチファクトが出現するか知っておくべきであると考えた。
 今回、患者由来のアーチファクトとして最も遭遇しやすいと思われる筋電図を体動によって心電図に混入させ、どの体動により筋電図が混入しやすいか、またどんな患者で起こりやすいかを検討した。

対象と方法

 研究の目的を承諾した旭川厚生病院整形外科・形成外科・耳鼻科に入院中の入院患者18名を対象とし、全く運動制限のない群(自由群)9名と疼痛等により運動制限のある群(制限群)9名に分類した。
 心電図の記録には日本光電社製ライフスコープを用い、近似第II誘導を記録した。対象者に所定の行為を実施してもらい、その時の筋電図混入の状況を調べた。所定の行為は以下の通りである:仰臥位から腹臥位への体位変換、仰臥位から座位への体位変換、座位から立位への体位変換、腕をばたつかせる、足をばたつかせる、上体をひねる、全身の筋を緊張させる、首を振る、嘔吐 ・咳を模倣する、深呼吸する、話す。
 筋電図混入によりP波が判別できないものを(+)それ以外を(-)とした。患者自身の運動制限により検査できなかったものは空欄とした。

結果

 結果の一覧を表1,2に、まとめたグラフを図1に示す。
 自由群・制限群ともに仰臥位から腹臥位への体位変換で全例が(+)であった。また、座位と立位への体位変換、腕をばたつかせる、上体をひねる、で両群とも(+)の割合が7割以上であった。それに対し、首をふる、深呼吸する、話す、では(+)の割合が両群とも4割未満であった。
 自由群と制限群との比較では、足をばたつかせる、筋緊張、首を振る、嘔吐・咳の動作で自由群で30%以上(+)が多かった。
 

筋緊張や全身を動かす動作では、ようやくQRSがわかる程度で(図2)心電図の判定は困難であった。

考察

 心電図モニター時のアーチファクトの原因には大きく2種類がある。一つは機械的な原因によるもので、リード線の断線や電極と皮膚との接触不良がそれに当たる。これらはリード線を交換し電極を付け直すなどの対処によりアーチファクトの除去が可能である。もう一つは患者自身に原因があるもので、筋電図の混入や体動による心電図の基線のゆれがそれに当たる。筋電図も基線の揺れも心電図の判読に支障を来すが、とりわけ筋電図はP波やPRS波の判読を不能にさせる点で混入を避けるべきである。今回私たちはこの筋電図に焦点を当て、どのような体動により筋電図が心電図に混入するか研究した。
 今回の研究では、筋電図の混入は全身運動である体位変換のみならず、心電図電極直下の筋運動である上体ひねりや、電極から遠い下肢の運動でも観察された。多くは振幅の小さい波形であったが、症例に依ってはQRSの判読ができないものもあった。逆に心電図電極近傍の筋運動であっても、首をふることや深呼吸では筋電図の混入は少なかった。基線の揺れは体位変換などの全身を動かす動作に見られたが、基線が揺れてもQRSの判読は容易で心拍数の確認ができた。このことから、心電図をモニターする上で患者に対して大きな動作を禁じるべきではあるが全ての動作を禁じる必要はなく、こちらからの質問に答える程度の動作は支障がないことが分かった。このことは、異常な心電図をチェックしながら素早く問診を行う上では意味があると考える。
 また、運動制限のある患者の群では運動制限のない患者の群に比べ筋電図混入の割合が少なかった。今回対象とした制限群の患者は整形外科入院中の患者で、腰痛や上腕骨折など、体動制限の原因は一様ではなかった。しかし、いずれの原因であっても運動制限のある患者では運動制限のない患者に比べて筋電図の混入の可能性は少ないことが分かった。運動制限のある患者は、無意識に痛いところをかばうため、意識的動作で力を入れることができなかったためと思われる。また、同じ動作によっても患者によってP波判別の可能な例と不可能な例があった。これは患者によって力の入れ具合が同一とは限らず、さらに個々の正常心電図も同一でないためと考えられる。
 急性心筋梗塞の患者では致死的不整脈出現に備えて現着時から中断なく心電図モニターを監視する必要がある。その場合であっても筋電図が混入しない程度の動作は可能である。
 今回の結果から、無意識の体動や痙攣によるアーチファクトを防ぐことは困難であるが、意識のある患者には、少しの間で良いから静穏状態でいてもらうことが正確な心電図を得るには必要であるといえる。

結論

1) 心電図への筋電図の混入は体位変換時のみならず、腕をばたつかせたり足をばたつかせるだけでも高率に認められた。

2) 首を振る、深呼吸する、話すといった軽い動作では筋電図の混入する割合は少なかった。
3) 運動制限のある患者では運動制限のない患者に比べ筋電図の混入する割合は少なかった。
4) 無意識の体動や痙攣によるアーチファクトを防ぐことは困難であるが、意識のある患者には、少しの間で良いから静穏状態でいてもらうことが正確な心電図を得るには必要である。

表1 運動制限のない群(自由群)の患者背景と研究結果。+:p波の判読不可能。=:p波の判読可能。

表2 疼痛等により運動制限のある群(制限群)の患者背景と研究結果。+:p波の判読不可能。=:p波の判読可能。

図1 動作による筋電図出現頻度

図2 47才男性 中耳炎で体動制限なしの患者において、筋緊張により記録された心電図波形。筋電図の混入が著明である。


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