ツーウェイチューブ挿入に関する臨床研究

 
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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


目次

原著・投稿

ツーウェイチューブ挿入に関する臨床研究

 

北海道・留萌消防組合消防本部

中路和也・三好正志・梅澤卓也・柴崎武則
留萌市立総合病院麻酔科
玉川進
留萌市立総合病院院長
西條登
著者連結先:〒077 北海道留萌市高砂町3−6−11
1 はじめに ツーウェイチューブは盲目的に挿入でき、ラリンゲアルマスクのように頭位変換も必要ないことから救急救命士に広く使用されている。ところが実際にツーウェイチューブを盲目的に挿入してみると、基準である挿入マークに達しなかったり、かなり抵抗を感じ食道穿孔が懸念される症例にすら遭遇することがあった。

そこで、ツーウェイチューブの安全な挿入と、日本人向けに太さ長さを改良したSAタイプの挿入適応範囲に関する臨床的研究を行ったので報告する。

2 調査対象及び方法 この臨床研究は、留萌市立総合病院において救急救命士の生涯教育研修時に行われ、医師が医療行為を、救急救命士が計測他を行った。

身長が145〜165cmで頭頚部に異常を認めず、全身麻酔下で2時間以内の手術が予定された患者(標準タイプ使用男性3例、女性9例、SAタイプ使用男性4例、女性13例)を対象とし、医師が本研究の目的と危険性を十分説明し患者から同意を得た。手術室入室後、仰臥位で全身麻酔導入、X線透視下でツーウェイチューブを挿入した(写真)。

写真1拡大

チューブ内圧、換気量、呼気終末炭酸ガス分圧の測定はオメダ社呼気ガスモニター5250RGMを、咽頭カフ内庄測定は水銀柱血圧計を使用した。

統計処理は各項目に記す方法を用い、P<0.05を有意差ありとした。以下の5項目の調査を標準タイプ・SAタイプ(以下、標準・SA)に分けて実施した。

1)頭部ポジションと挿入の難易度について
X線透視下で患者の頭頚部側面を観察しながら説明書1)に従って下顎と舌根を垂直に持ち上げツーウェイチューブを挿入した。はじめに患者の頭部を持ち上げ前屈位にて挿入し、最後に後屈位とし挿入した。挿入時に抵抗を感じた場合には頭位を変換して挿入した。強い抵抗があり、透視で挿入が危険と判断されたときには挿入を中止した。
評価は、
0:スムースに挿入できる
1:やや抵抗がある
2:かなり抵抗がある
3:挿入不能
の4段階とした。統計処理には評価をそのまま点数化しWilcoxons signed rank testを用いた。

2)チューブ挿入マークと門歯部の位置について
透視で良好な位置を確認した時点で、正中位での口側チューブ挿入マークと門歯部(門歯もしくは相当する歯列弓)の距離を測定した。統計処理にはSpearmans correlationcoeficientを用いた。

3)咽頭カフ容量と咽頭カフ内圧、チューブ内圧、リーク率について
手術開始後、循環動態が落ち着いた時点で咽頭カフ内の空気をすべて吸引排除したのち、基準量(標準:100ml、SA:85ml)における咽頭カフ内庄、チューブ内庄、リーク率を記録した。さらに空気を加減して各値を記録した。リーク率(%)=(1−呼吸量/吸気量)×100とした。

4)血液ガス分析について
3)で示した測定が終了した直後に橈骨動脈から動脈血を採血して血液ガスを測定した。また採血中の呼気終末炭酸ガスを記録した。標準では、手術室入室直後に大腿動脈からも採血した。統計処理にはStudent’s paired ttestを用いた

5)手術中の状態と手術後の咽頭痛について
手術中を通して顔のうっ血と舌のチアノーゼを観察した。チューブ抜去の前後に嘔吐した症例と、チューブに付着した血液の有無を観察した。
評価は、
(−):出血なし
(±):チューブに出血を認めるが口腔内吸引で出血を認めない
(+):チューブと口腔内吸引で出血を認める
の3段階とした。(+)を有意の出血とした。
術後1日日に患者と面接し、その時点での咽頭痛の程度を問診した。評価は、
(−):痛みなし
(±):違和感
(+):喋下痛の3段階とした。(+)を有意の咽頭痛とした。

3 結果 標準の1例で挿入不完全のためラリンゲアルマスクに変更した。また、標準1例とSA2例では手術途中、時間経過を考慮し気管内挿管に変更した。1)頭部ポジションと挿入の難易度について(図1)
標準・SAともに、前屈位では全例挿入不可能であった。中立位では半数以上で挿入可能であり、後屈位では標準の1例を除き挿入可能であった。

図1拡大

2)チューブ挿入マークと門歯部の位置について(図2)
標準では、挿入マークより平均2.7cm下に門歯部があった。挿入マークに達した症例はなかった。SAでは、挿入マークより平均0.5cm下に門歯部があった。挿入マーク内で固定された症例は3例であった。固定位置は身長、体重に関係がなかった。

図2拡大

3)咽頭カフ容量と咽頭カフ内圧、チューブ内圧、リーク率について(図3)
標準では、基準咽頭カフ容量100mlで咽頭カフ内庄は230mmHgと高かった。チューブ内庄は、咽頭カフ容量に比例し上昇した。リーク率は、咽頭カフ容量110ml時に最低となった。
SAでは、チューブが細くなったため身長150cm以上の患者ではX線透視下で喉頭部への圧迫のないことが確認できた。咽頭カフ内圧は、咽頭カフ容量85ml未満で低下した。チューブ内庄は、咽頭カフ容量に比例し上昇した。リーク率は、咽頭カフ容量115mlで最低であった。

図3拡大

4)血液ガス分析について(図4)
標準・SAともに測定終了時、動脈血炭酸ガス分圧と呼気終末炭酸ガス分圧はほぼ一致した。

図4拡大

5)手術中の状態と手術後の咽頭痛について(表)
術中の顔のうっ血はなく、舌のチアノーゼ所見は、SAで2例みられたがチューブ抜去後速やかに消失した。嘔吐した症例は抜去前に標準で1例、SAで3例、抜去時の有意な出血は標準で3例、SAで1例あった。術後の有意な咽頭痛は標準で2例あった。

表拡大

4 考察1)頭部ポジションと挿入の難易度について
前屈位の場合では、全例でチューブ先端部が咽頭後壁に当たり抵抗が大きく挿入は不可能である。基本は中立位であるが2)この場合でも後屈位に頭部ポジションを変更すると容易に挿入可能となった。SAは標準より細く柔らかいため、チューブ先端が咽頭後壁に当たると容易に曲がり抵抗が減少し、力の方向が変わるため、標準に比べて中立位であっても頭位変換することなくスムースな挿入ができた。しかし、SAでも中立位で2例挿入不可能の症例があり、頭部ポジションを後屈位にすることにより容易に挿入できた。鈴木ら3)も抵抗を感じた場合にはやや後屈にすると挿入が容易になると報告している。透視で挿入経路を確認すると、チューブの琴曲と頚椎の琴曲、食道の向きが後屈することによって一致することがわかった4)。これらの結果より、ツーウェイチューブであっても可能な限り後屈位で挿入すべきと考えられた。また、標準で盲目的挿入で気管内挿入することは太さ(14.5×13.8mm)、チューブの彎曲、角度から不可能と考える。

なお、本研究の対象はすべて手術患者であり、安全で愛護的な挿入を第一に考えたため挿入不可能が高率となったと考えられる。

2)チューブ挿入マークと門歯部の位置について
ツーウェイチューブでは挿入マークが唯一の深さの基準である。しかし、標準で門歯が挿入マークに達したのは1例もなく、標準より15mm短いSAでも3例にとどまった。150cm以上の患者に対してもSAで対応できることが分かるが、その反面挿入マーク内固定の確率が低いため、挿入マークまで押し込むことは気管や食道損傷の可能性があり危険である。挿入時の探さは身長、体重に関係がないため、それらも探さの基準にならない。

3)咽頭カフ容量と咽頭カフ内圧、チューブ内圧、リーク率について
標準では、咽頭カフ内庄100mlまでは咽頭カフ容量に比例して増加し、リーク率も低下した。これは咽頭壁に密着する度合いが咽頭カフ容量に相関しているためであろう。ところが、110ml以上になると、咽頭カフ内圧は上昇しているのにリーク率も上昇している。チューブ内圧が上昇していることと透視所見からカフが咽頭口を狭窄したためと考えられた。エアリークの多い場合にはカフ容量を増加させると報告があるが、過度のカフ容量はかえってリークを悪化させる5)ことになり注意が必要である。

SAでは、X線透視下で、85mlの空気を注入した咽頭カフを観察したところ充分に膨らんでいた。また、舌骨部の圧迫も認められず、気管送気口の閉塞を起こす可能性は少ないと考えられる。SAはチューブが細くなったため、標準と同じカフ容量にしてもカフの直径は小さくなる。標準の最小リーク率に達するためには咽頭カフ容量基準の85mlに20〜30ml増注し、咽頭壁での密着度を増すことが必要となる。

4)血液ガス分析について
動脈血炭酸ガス分圧と呼気終末炭酸ガス分圧がほぼ一致することは、充分な換気量が確保されていることを示している。適切な位置で挿入完了し、胸部聴診により換気が確認できれば気道確保は適切に行われていると考えてよい。

5)手術中の状態と手術後の咽頭痛について
標準では10例中3列で有意な出血が見られたのに対して、SAでは1例であった。SAではチューブが柔らかく細くなったため、挿入時の抵抗が少なくなり出血も抑えられたとみられる。後屈位にすることにより、さらに挿入がしやすくなるため出血を来す可能性は最小となる。舌のチアノーゼは2例で認められたが、ともに挿入後2時間以上を経過した時点であった。2時間以内の処置であれば静脈潅流の障害は少ないと考えたが、心停止や極端な低血圧の患者では容易にうっ血する可能性があり3)、チューブの挿入時間はできる限り短くするべきである。術後の咽頭痛は標準で2例みられた。違和感も含めると7例であるが、気管内挿管によっても大部分の患者で咽頭痛を経験する6)ことを考えると、特に多いとはいえない。盲目的挿入であっても頭位を変換することによって愛護的な挿入は可能であると思われる。

5 結論 盲目的挿入のツーウェイチューブは後屈位によると容易に挿入完了でき、迅速かつ有効な換気が可能である。また、SAが身長150〜165cm未満までの患者に対しても充分な効果が期待できることも判明した。しかしながら、標準は全例で、SAですら大部分が、挿入マーク内に固定されないことは問題である。救急現場での安全性と確実な気道確保のため、早急に挿入マーク基準が改善されることを望む。

なお、本稿の一部は第24回日本救急医学会総会救急隊貝部会にて発表した。

【文 献】
1)日本光電:食道閉鎖式コンビチューブ取扱説明書.1995
2)杉山頁:救急医療器具を使いこなす・気道確保のための器具.救急医療ジャーナル1994;2(6):74−79.
3)鈴木孝,須藤和則,廣田幸次郎,他:コンビチューブによる人工呼吸管理症例.プレ・ホスピタル・ケア1994;7(2):39−44.
4)中路和也,梅澤卓也,三好正志,他:ツーウェイチューブ挿入困難の1例・その原因と対応策について.プレ・ホスピタル・ケア1997;10(1):45−46.
5)梅澤卓也,中路和也,三好正志,他:ツーウェイチューブ挿入におけるカフ容量とリーク率の変化.プレ・ホスピタル・ケア1996;9(4):51−53.
6)天羽敬祐,山村秀夫:吸入麻酔法.山村秀夫編.臨床麻酔学書.金原出版,東京,1978,PP507−560.


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06.10.28/4:15 PM





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