200617知っておきたい マスコミではあまり取り上げられない 新型コロナウイルス(COVID ‐ 19)情報 (旭川医療センター病理診断科 玉川進)

 
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救急の周辺

近代消防 2020/5月号, p69-73

知っておきたい マスコミではあまり取り上げられない 新型コロナウイルス(COVID ‐ 19)情報 (旭川医療センター病理診断科 玉川進)

 

近代消防

新型コロナウイルス:マスコミではあまり取り上げられない情報

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新型コロナウイルス(WHO:COVID-19、国際ウイルス命名委員会 SARS-CoV-2)が世界中で猛威を振るっています。日本国内の感染者は1,953人、全世界での感染者は約69人(厚生労働省 2020/3/30公表)です。ここでは、マスコミがあまり取り上げない情報を中心にお届けします。

目次

1.コロナウイルスとは

一本鎖プラスRNA(リボ核酸)ウイルスです。

ウイルスの基本的な構造は遺伝子とそれを保護する膜からなります。自分自身で増殖する能力はなく、他の細胞に遺伝子を注入することでその細胞内でウイルスが作られます。出来上がったウイルスは宿主を壊すことなく細胞外に放出されます(001)。

001

ウイルスが感染・増殖する仕組み

(1)遺伝子

ウイルスは持っている遺伝子によりDNA(デオキシリボ核酸)とRNAの2種類に分けられ、RNAウイルスの場合はさらにブラス・マイナス・2本鎖に分けられます(002)。DNAウイルスの場合は宿主細胞の膜を突破し、核膜も突破して核内でRNAを作って、次に自分の体を作ってという過程を経ますが、RNAウイルスの場合は細胞膜を突破するだけで自分の体を作り始めることができます(003)。その代わりRNAはDNAに比べ簡単に分解されます。RNAのプラスとマイナスというのは、プラスはRNAから直接タンパクを作ることができる(=メッセンジャーRNA(mRNA)と同じ)のに対して、マイナスでは一度鋳型を作ってからタンパクを作り出すものです(004)。マイナスRNAウイルスの代表はインフルエンザウイルスです。RNAで2本鎖を持っているウイルスもあり、代表は乳児冬季下痢症の原因であるロタウイルスです。

002

ウイルスの分類。コロナウイルス はRNAプラスに分類される

003

上:DNAウイルスは核内に遺伝子を送り込む必要がある

下:RNAウイルスは細胞質内でウイルス複製を行う

 

004

プラスはすぐに複製にかかることができる。マイナスは一度プラスRNAを作ってから複製を行う

(2)構造

テレビでは大きなトゲを持った特徴的な形として紹介されています。そのトゲが王冠crownに見えることから、王冠のギリシャ語であるcoronaと名付けられました。ストーブやガス湯沸かし器の株式会社コロナ、1957年から2001年まで販売が続いたトヨタ自動車株式会社のコロナも同じ由来です。

ウイルスの断面は005のようになっています。脂質二重膜のエンベロープ(外套)の表面にスパイク(トゲ)、エンベロープ蛋白、メンブレン(膜)蛋白があります。内部にはRNAを入れています。ですがこの005では理解しにくいので、ここでは006のような二重膜構造で表記することにします。

005

コロナウイルスの構造

006

このように書いた方が理解しやすい。膜を2つ持っているのが特徴

(3)コロナウイルスの仲間

自然界ではありふれたウイルスで、様々な動物に感染を起こします。ヒトを含めたほとんどの動物では軽度の風邪症状や下痢症状を示すだけです(007)が、たまに致死的な病気を引き起こします。また種特異性が高く、動物のコロナウイルスがヒトに感染することはまずないとされています(008)。

ヒトに感染するコロナウイルスは今回の新型コロナウイルスを含めて7種類あります。2002年に世界的に大問題となったSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスはコウモリのウイルスがヒトに感染したもの、2015年に韓国で36人の死者を出したMARS(中東呼吸器症候群)はラクダのウイルスがヒトに感染したものです。残りの4つは風邪症状を起こすウイルスです。今回のCOVID-19の遺伝子解析ではコウモリ固有のコロナウイルスから変異した可能性が指摘されています(009)。

007

ヒトを含めたほとんどの動物では軽度の風邪症状や下痢症状を示すだけ

008

種特異性が高く、別の種に感染することはまずない

009

COVID-19はコウモリのコロナウイルスから変異した可能性がある

2.新型コロナウイルス感染症

感染症は、致死率が高いほど感染しづらく、致死率が低いほど感染しやすくなります。例えば致死率50%のエボラ出血熱は症状が出現するまでは感染力は持たず、感染者もしくは死体の血液や体液に触れることによって感染します。一方、冬に流行するインフルエンザで死亡することはまずありません(010)。

(1)感染経路

飛沫感染(011)と接触感染(012)です。空気感染(013)は可能性は論じられていますがはっきりしていません。。

1)飛沫感染(011):感染者の痰やつばが咳や発声によって飛ばされ、それを健常人が鼻や口から吸い込むことで感染します。人が密集し換気の悪い場所が危険です。3月には大阪のライブハウスで集団感染が報道されました。

2)接触感染(012):感染者がウイルスをドアノブなどにつけた後で、健常人がドアノブを触れることで感染するものです。

010

致死率が高いほど感染しづらく、致死率が低いほど感染しやすい

 

011

飛沫感染

012

接触感染

013

空気感染。空気感染を起こすのは結核など3種類の病原体が知られるだけ。

(2)潜伏期間

WHOによれば1-12.5日、多くは5-6日とされています。

潜伏期間中の患者が感染能力を持っているかは不明ですが、可能性は低いと考えられています。

(3)症状と死亡の特徴

1)日本の例

国立国際医療研究センターの症例を紹介します(日本感染症学会2020/2/6)。

————-

33歳女性。湖南省在住中国人。来日4日目に咽頭痛と37.5度の発熱、7日目に咳、頭痛、悪寒が出現。胸部レントゲン写真に異常なし。38℃台の発熱続き、11日目に肺炎像(014)で入院。その時の症状は頭重感、倦怠感、咽頭痛。咳(-)頭痛(-)痰(-)。SpO2がRoomで92%に低下したので酸素投与。来日14日目に解熱。酸素不要。翌日退院。

———-

この論文では33歳中国人女性、54歳帰国男性、41歳帰国男性の例を示しています。共通するのは

・初発症状は普通の風邪と変わらない

・熱は高くても38.7℃で、経過中は37.5℃あたりをうろうろする(015)

・発熱は4日以上続くが8日目には解熱する

014

症例で見られた肺炎像。青い部分が「浸潤影」と呼ばれる肺炎像

015

症例の発熱の経時的変化。日本感染症学会2020/2/6症例報告から引用。この患者は38.5℃まで熱発した。

2)中国の確定4万4672例

China CDC Weekly 2020;2(8):113-22

・軽症例が80%以上

・30歳から79歳までで87%。39歳以下は少ない(016)

・全死亡率は2.3%。ただし2019年中に発症した患者の死亡率が14.4%であり2020年2月以降は0.8%

・死亡率は年齢とともに高くなる。60代で3.6%、70代で8%、80歳以上で15%(017)

・男性の死亡率は2.8%、女性は1.7%

・死亡の危険因子は心血管疾患>糖尿病>慢性呼吸器疾患>高血圧>癌

016

中国における患者の年齢分布。China CDC Weekly 2020;2(8):113-22から引用

017

中国における年齢別死亡率。China CDC Weekly 2020;2(8):113-22から引用

(4)検査方法

COVID-19の遺伝子を検出することで感染の確定をします。この遺伝子検査は3月から保険適応になりました。しかし受けられるのは都道府県が指定した病院で、医師が新型コロナを強く疑った場合のみです。

喉や鼻から粘液を採取し→それを遺伝子増幅装置にかけ→一定の量まで増幅できたら→感染決定、となります(018)。ところがこの方法での陽性率は7割程度とされています。感染者が10人いても3人は感染なしと判断されます(019)。3月中に実用化される、30分で検査終了という方法も遺伝子を増幅することに変わりはありません。一度陰性になった患者が再び陽性になるのは採取方法のエラーだと私は考えます。

・採取時期:発症初期ではウイルス量が少ないので感染していても陽性にならない可能性があります。

・採取方法:痰からは良質の遺伝子が採取できますが、痰が出ない人には質の劣る鼻咽頭ぬぐい液を使います。

・保存と搬送:RNAは簡単に分解されます。病院内では-80℃に保存しRNAは分解されませんが、搬送は日本郵便が4℃環境のもと陸送で東京へ送るため分解が進む可能性があります。

・遺伝子増幅:2の40乗というものすごい量まで遺伝子を増幅をしなければ診断できません。。少量の阻害物質の混入で増幅が阻害される可能性があります。

018

遺伝子検査の方法。(+)は感染陽性、(-)は感染陰性。

019

陽性率7割とは感染者が10人いても3人は感染なしと判断されること

(5)治療

対症療法だけです。熱を下げる、酸素を与えるなど。

3.新型コロナの重症度

(1)ほとんどは軽症

最初の中国からの報告では死亡率が14.4%とMARS並みの危険度でした。しかし日本での死亡率は執筆時点で1.4%です(020)。若年者の死亡はありません。高齢者の死亡患者も持病を持っていることが指摘されています。現在消防で働いている人はむやみに恐れる必要はありません。

020

日本の死亡率は低い

(2)重症化しやすい患者

中国の報告では心血管疾患>糖尿病>慢性呼吸器疾患>高血圧>癌です。それに加えて厚生労働省では透析、免疫抑制剤投与中、抗癌剤投与中の患者で重症化しやすいとしています。

(3)妊娠出産と小児

武漢からの報告では、妊娠中に感染しても経過や重症度は非妊婦と変わらず子宮内感染はなかったとしています。しかしSARSやMARS流行時期に一定の確率で流早産・胎児発育不全・母体死亡の報告があるので感染は避けるべきです。(日本産婦人科学会2020/3/5)

小児に関しては感染例が少なく、症状を含めて不明な点が多いとされています(日本小児科学会2020/2/28)

4.感染予防

新型コロナウイルスが環境でどれだけ生きているかは不明です。他のコロナウイルスでは、20℃のプラスチック状でSARSウイルスは6-9日、MERSウイルスは48時間以上残存するという報告があります。このことを考えると、消毒薬で積極的にウイルスを殺す必要があります。

(新型コロナウイルス感染症に対する感染管理。国立感染症研究所 2020/3/5)

(1)一般的に

感染予防・健康管理と同じです。

・手洗い

・消毒

・混雑した場所を避ける

・睡眠をとる

(2)救急隊として

1)患者には

・サージカルマスクを着用させる

・移動を最小限にする

・関係者の救急車同乗はさせない

2)救急隊員は

・標準予防策+接触・飛沫予防策を行う(021)

・救急車内を十分換気する:車載の空気清浄機にウイルス死滅効果は期待できませんしウイルスを捕捉する効果は全くありません。患者周辺の窓が開かないのなら運転席・助手席の窓を開けて換気すべきです(022)。

・消毒する:アルコール(023)・次亜塩素酸(024)のいずれも良く効きます。ノロウイルスと異なり、コロナウイルスの膜はアルコールでよく溶けます(025)。また石けんにも弱い(026)ことが示されています。

021
標準予防策+接触・飛沫予防策

022

救急車内を十分換気する

023

アルコール製剤の一例

024

次亜塩素酸製剤の一例

 

025

コロナウイルスの膜はアルコールでよく溶ける

026

石鹸でもコロナウイルスは死滅することが示されている

5.最後に

中国での患者発生はすでにピークを過ぎましたが、日本ではまだピークがいつになるのか見えない状況です。

新型コロナウイルスの検査を誰にでも行えばおそらく若年者を中心に多数の患者が見つかるでしょう。例えば、北海道は確定患者が70名の時点で潜在的患者は941名と発表されました。しかし私は現在の検査体制で十分と考えています。その理由は、(1)8割以上はただの風邪で終わる(2)見つかれば入院させなければならないためです。現在当院でも「検査しろ」と要求する患者に時間を取られているのに、軽症の入院患者で病院が溢れることになれば医療は崩壊します。

この原稿が世に出るときでもまだ新型コロナウイルスはマスコミを賑わしていると思われます。読者の皆様はどうか感染しないように気をつけてください。また、デマに惑わされてないこと。信頼できるソースから正しい情報を得ることを心がけましょう。

6.付記

嗅覚や味覚の異常が出現することが指摘されています。しかしこれは一般の風邪でも生じます。発熱・咳・だるさがなければ病院へは行かずに2週間不要不急の外出を控えるよう日本耳鼻咽喉科学会では呼びかけています

 

参考文献

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症に関するQ and A https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#Q&A

国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html#class0

WHO Coronavirus disease 2019 https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019

特別な文献は本文中に記載している

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