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田舎の消防職員の小さな一歩



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AEMLデータページから引っ越してきました

HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


[わたしの意見] 投稿

【田舎の消防職員の小さな一歩】

大井 雅博 紋別地区消防組合消防署興部支署
〒098-1607 北海道紋別郡興部町字興部710番地
tel 01588-2-2136「血圧はどうですか?」
「210/94mmHgです。脈拍は強く60回です。」
「サチュレーションは?変化はありました?」
「83%でしたが酸素投与後に96%まで改善しました。」
「既往症は?」
「高血圧で病院から薬を貰っていたそうですが、ここ数日間服用していなかったそうです。」

救急の現場において、医師と救急隊員との間で日常的に交わされているこのような会 話が北海道の片田舎「興部」(図1)でも聞かれるようになるまでには長い年月を要した。

図拡大

都会と同じようにできるわけがない救急救命士法の施行、救急2課程による拡大9項目の実施など、全国一律の基準で救急業務の高度化が図られ始めて久しい。「法」や「基準」は当然のこととして全国どこの町でも同じように適用され実施されなければならない。しかしながら、「都会」と「田舎」では救急を取り巻く環境に大きな違いがあることは否めない。専従化された救急救命士が高規格救急車に乗って現場に赴き、高度な救急医療が施される救命救急センターへと毎日のように傷病者を搬送している一方、地方では、庶務や経理、予防や警防業務などを日々こなしている職員が、作業服の上に白衣をまとい狭い救急車で満足な装備もなく現場へと急ぎ、当直の医師が1名しかいない小さな町立病院に車を走らせているのである。

この歴然とした格差を目の前にして田舎の消防職員は思うのである。「都会と同じようにできるわけがない。」と。
確かにその通りかもしれない。体制があまりにも違いすぎるのである。だが、そのことを理由に努力を怠っていては、いつまでたっても進歩がないのではないか。救急に関して恵まれていない環境にあっても、職員の「意識」次第では都会の救急隊と遜色のない活動がある程度はできるのではないか。いつからか私は、このような考えを持つようになっていた。

幸いなことに「意識改革」にはお金が掛からない。それならば今日からでも始められる。でも、何をどう変えていけば良いのか?

「救急隊員は“単なる運び屋”ではない!」今まで長い間「救急」といえば語弊はあるが「ただ運ぶこと」となんとなく考えていた。だから血圧を測定することも、聴診器を使用することもしてきていなかった。ましてや病院で医師に傷病者の状態を申し送ることなど、バイタルサインの確認がきちんとなされていない状態では積極的に行われるはずもなかった。では、何のために苦労して250時間にも及ぶ救急医学に関する教育を我々は受けてきたのか。それは・今の救急隊員に求められる能力・を身につけるために他ならない。医学的知識に基づいた傷病者観察、そして適切な処置の実施、医療機関の選定、さらに搬送先病院での医師への申し送りなど、これら全てが正に“今”求められていることである。

ただ、いきなり難しいことを始めようとしても無理がある。我々にもできること、そして欠けていたこと「傷病者観察(バイタルサインの確認)」から始めてみた。最初のうちは気後れしながら傷病者にマンシェットを巻いていた。当然のことだが誰でも初めて行うことに自信など持てない。だが、経験が自信へと変わってきたとき、職員の間に小さな「変化」が生まれ始めた。自分が実際に目にした、耳にした傷病者の観察結果がどんな病態を示唆していたのか、また、その後病院ではどのような処置がなされどういった経過を辿ったのか。医師や看護婦からはどのような評価を得ているのか。いろいろなことが気になってきた。

「病院との連携は必要不可欠!」救急隊員が自己の能力を向上させようと考えたとき、自分が出動した症例に対して疑問を持つことが最も効果のある方法だと思う。しかし、救急の現場で感じた疑問や問題点を消防署の中だけで解消、解決することは不可能である。したがって搬送先病院との緊密な連携無くして救急隊員のレベルアップが望めないことは自明の理である。分かりきったことではあったが、そう簡単なことでもない。「医者は何か別の世界の人」「医療という同じ土俵で話をするには畏れ多い。」といったような意識が少なからずあったからだ。だが、何事も話をしてみないと分からないものである。

ちょうどそのような思いを抱いていたとき、地元の町立病院の院長が看護婦を対象に院内で勉強会を開くとの話を知り合いの看護婦から耳にした。思い切って、「病院での勉強会に救急隊員も参加させて貰えないでしょうか?」と婦長を通じてお願いしてみたところ、院長からあっさりとOKを頂くことができた。医師との間に見えない「壁」を作っていたのは、もしかして我々の方だったのかもしれない。

この勉強会はもともと、町立病院が「ライフスコープ」を購入したことに伴い、院長が看護婦に対して心電図に関する講義を行うという形のものであった。しかし、蓋を開けてみると救急隊員への質問責めで講義が展開され、主役であるはずの看護婦は“そっちのけ”といった感じであった。院長の救急に対する熱意が伝わってくると同時に、我々のレベルが問われているようにも感じられた。

また、病院に足を踏み入れ、話をしてみて初めて分かったことがあった。それは「都会」であっても「田舎」であっても救急隊員に寄せられる「期待」には変わりがないということ、そして、「救命」という同じ目的を持つパートナーとして手を携えていけるということである。

勉強会をとおして・お互いの顔が見えてきた・ことの効果も、少しずつではあるが現れてきた。我々の変化としては、傷病者の観察を積極的に行うようになったこともあり、病院での医師への申し送りを臆することなく行うようになった。また、勉強会に参加する前と比べて、救急隊に対する看護婦の理解が深まったせいか、院内での協力もスムーズに行えるようになった。

救急の地域間格差を解消していければ一部の先進的な地域では、救命率の向上のために病院と消防とが素晴らしい取り組みを行っている。北海道においては道都・札幌市が医療機関と消防機関との新たな連携のあり方の一つとして「救急ワークステーション」の運用を開始し、臨床の場において救急隊員の生涯研修を実施している1)。一方、オホーツク海に面する小規模消防組合・遠軽地区広域組合では、過疎地が抱える課題の一つである特定行為の24時間指示体制を「遠軽方式」という画期的な方法で可能とした2)。

これらの取り組みは、「町」の規模に関わらず「搬送する側」と「受け入れる側」の努力次第で救急業務のレベルアップが可能であることを示唆しているのではないか。

「興部」は今、小さな一歩を踏み出したばかりだ。しかし、一歩前に踏み出さなければ、いつまでも現状を打破することはできない。救急の地域間格差を「職員の意識改革」と「病院との連携」によって少しでも解消していければと願っている。

最後に、病院での勉強会に救急隊員が参加する機会を与えて下さった、興部町国民健康保険病院の阿部俊英院長に深謝申し上げます。

【文 献】
 1)野田 稔:高度な救急業務を目指して─「札幌市消防局救急ワークステーション」運用開始
     プレ・ホスピタル・ケア 1996;9(1):2-3.
 2)山本 正,中村清治:地方における医師からの24時間指示体制の構築について 
     プレ・ホスピタル・ケア 2000;13(1):76-78.


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06.10.28/6:32 PM





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