241023救助の基本+α(90)入東Lader Rescue System「ラダーレスキューシステム」 CSR Hoist Rescue System (低所からの救助システム) 入間東部地区事務組合 佐藤拓美・加藤将吾

 
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基本手技

月刊消防 2024/02/01号 p30-5

入東Ladder Rescue System「ラダー・レスキュー・システム」~早期安静救助を目指して~

CSR Hoist Rescue System (低所からの救助システム)

 

目次

1考案経緯

 
高所からの転落・墜落救助現場において、低所からの救出を行いたいにも関わらず、周囲には強固な支持物がなく支点がとれないこと、消防車両が現場直近まで部署できないことで車両を支持物として利用できないことや車両クレーン等を使えないといった救助現場があるかと思います。このような状況下でも、要救助者を安静かつ安全に救出できるシステムを構築するため考察を重ねた結果、三連はしご、かぎ付はしご及びロープレスキュー資機材を活用し、低所から要救助者を安静かつ水平に引き揚げ救出するシステム、CSRHoistRescueシステム(以下「CSRシステム」という。)を考案しました。
 

2システムの概要

 

⑴CSRシステムの概略(写真4-1)

 
CSRシステムの根幹となるのが三連はしごとかぎ付はしごになります。両はしごの先端をウェビングテープで連結させ、連結部分にオープンスリングで支点をとり引き揚げ用のCSRプーリーキット(4倍力システム)を取り付けます。なお、ビレイロープはかぎ付はしごに設定します。救出開始時は、かぎ付はしごで三連はしごを離ていさせ、CSRプーリーキットを操作すると同時にビレイロ架を水平かつ安静に引き揚げ救出するシステムになります。
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写真4-1
写真4-1
 

⑵CSRシステムが選択される救助現場

 
高所からの転落・墜落助現場において、選択される救助方法は「アリゾナボーテックス」「はしごクレーン救助」「車両クレーン救助」等ではないでしょうか。前述の救助方法を選定する上で、救助現場周囲に強固な支持物がある、もしくは消防車両を直近部署できるなどの地理的条件が揃っていなければなりません。あらゆる救助現場において、訓練場にあるような強固な支持物があることや消防車両が直近部署できる広い道幅で、車両クレーンや車両自体を支点として使えるとも限りません。しかしながらCSRシステムは前述のような悪条件下でも、要救助者を安静かつ安全に救出できるシステムになります。
 

⑶CSRシステムの特徴

 
CSRシステムは「アリゾナボーテックス」及び「ラダーレスキュー」を応用した引き揚げ救助方法で、さらには低所へ進入するために設定した三連はしごや各部資機材をそのまま活用できるといった大きな特徴があります。
 

3使用資機材(三連はしご逆伸てい設定要領の資機材も含む)(写真4-2)

三連はしごかぎ付はしご編み構造ロープ×2
三つ打ち長ロープ×2小綱×1カラビナ×5
オープンスリング×1ウェビングテープイエロー×1
 
写真4-2
CSRプーリーキット(4倍力システム)
 

4システムのメリット・デメリット

 

⑴メリット

 
・強固な支持物が不要
・低所への進入で設定したシステムをそのまま活用できるため、隊員の進入退出並びに資機材の増強が容易で設定が速い
・連結させた三連はしごとかぎ付はしごの基底部を設置させた状態で、要救助者を救出ポイントに引き込むため安全性が高い
 

⑵デメリット

 
・メイン(CSRプーリーキットの引き手)とビレイが上下階に分かれるため密な連携が必要不可欠
・低所までの距離が三連はしごの伸てい長さ(8.7m)が届く範囲のみでしか使用できない
 
 

5活動の流れと詳細設定

 

(1)三連はしご逆伸てい

 
隊員が低所へ進入するために三連はしごを逆伸ていで設定し、隊員2名が低所へ進入します。(「三連はしご逆伸てい設定要領」は割愛する。)

写真4-3
写真4-3
ご支管の適当な位置にカラビナを取り付け、三連はしご確保ロープで巻き結びを作成し、ロープの固定またはかぎ付はしごを保持します。(写真4-3)
 

(2)三連はしごとかぎ付はしごの連結

写真4-44
写真4-44
 

⑶資機材の投入

 
ア 誘導ロープを使用し、活動拠点から低所へバスケットストレッチャーを垂下させた後、一旦ロープを回収します。
(写真4-5)
写真4-5
写真4-5
 なお、以降の活動拠点の設定中に、新入隊員2名は投入されたバスケットストレッチャーに要救助者を収容します。
 

⑷CSRプーリーキット(メインロープ)の設定

 
ア 三連はしごとかぎ付はしごを連結した部分にオープンスリング等でラウンドターンを作成し、CSRプーリーキットを取り付けます。
 
◎ここがポイント!
 
メインロープ操作員(CSRプーリーキットの引手)は、出来る限りシステムの安定を図るため、三連はしごの表側で、基底部を足で保持しながらメインロープを操作します。その際、ロープの屈折や緩衝を最低限にするために以下の設定を行います。

写真4-6
写真4-6
 

⑸各ロープの最終設定

 
ア かぎ付はしご側のロープをビレイロープとし、ロープの先端にフィギュアエイトオンアバイトを作成し、最下段から一マス一周して最上段と一段目横さんの間に通しカラビナを取り付けます。(写真4-7)
イ 誘導ロープの端末を活動拠点に残し、ロープバックを投下します。誘導ロープの端末に、ビレイロープの先端とCSRプーリーキットの下側のカラビナを取り付けた後、進入隊員は誘導ロープでCSRプーリーキット及びビレイロープを低所へ引き込みます。(写真4-8)
 
ウ 進入隊員は、要救助者を収容したバスケットストレッチャーのリッターハーネスO環に引き込んだCSRプーリーキット及びビレイロープを取り付けます。さらに、バスケットストレッチャー頭部側に誘導ロープを設定します。(写真4-9)
 
 

⑹要救助者の救出

 
ア 活動拠点に、三連はしご確保ロープ保持員及びエッジマンが2名、かぎ付はしご及びビレイロープ操作員1名の計3名、低所には、三連はしごで進入した担架誘導員1名、三連はしご保持(前保持)及びCSRプーリーキット操作員1名の計2名を配置します。
 
イ 指揮者の「救出始め、はしご離せ。」の号令で、かぎ付はしごを押し出し、三連はしごを離ていします。バスケットストレッチャーを引き揚げるのに十分な離隔距離を確保できたならば、ビレイロープ操作員はかぎ付はしごの石づきを設置させて足で抑え、エッジマン2名はかぎ付はしご及び三連はしご確保ロープを保持し、はしごの安定化を図ります。(写真4-10)
◎ここがポイント!
 
離隔距離を確保した際に、三連はしごとかぎ付はしごの連結点の内角が60度~90度で納まる範囲内で離ていします。その範囲から外れるとはしごが不安定になり転倒する危険性が生じるので、担架を引揚げる前に最終確認をすることが重要になります。
 
ウ 指揮者の「はしご安定よし、ロープ引け。」の号令で、メイン、ビレイロープを引きバスケットストレッチャーに収容されている要救助者を引き揚げます。バスケットストレッチャーが地切りした段階でCSRシステムの最終点検を実施します。(写真4-11)
エ最終点検実施後、指揮者の「救出継続、ロープ引け。」の号令で、要救助者を最上部まで引き揚げます。(写真4-12)
◎ここがポイント!
 
CSRプーリーキット(メインロープ)を引く際、なるべく三連はしごに沿うようにロープを引かなければ三連はしごが転倒するなどシステムの崩壊につながるため十分注意して操作をします。また、CSRプーリーキットの引き方及びビレイロープの張りを一定に保ち、支点に対して衝撃荷重をかけないようにして要救助者を引き揚げることが重要になります。
 
担架を地上の救出ポイントに引き込める位置まで引き揚げた後、ロープの操作をすることなくかぎ付はしごを引き込むだけで、担架は救出ポイントに到着します。その際に、かぎ付はしご操作員はビレイロープをかぎ付はしごの横さんに結着することで、ビレイロープを操作することなく安全に引き込むことが可能です。(写真4-13)
オ 指揮者の「はしご戻せ。」の号令で、かぎ付はしごを後方へ引き込み三連はしごを架ていさせると同時にエッジマン2名で担架を保持し、救出ポイントまで引き寄せます。バスケットストレッチャーが安定したならば救出完了となります。(写真4-14)
 
 

6参考

(1)横さんにかかる荷重の検証

 

写真4-15
写真4-15
※当消防本部が保有している三連はしご(関東梯子チタン製型式KHFL-CT-87一局所許容最大荷重150㎏)と、かぎ付きはしご(関東梯子チタン製型式KHFL-CT-31一局所許容最大荷重130kg)を用いての検証になります。
 
 
イ「写真4-17」は、前述の要救助者をCSRプーリーキットで引き揚げた瞬間にかかる最大荷重の数値で、「106㎏」を示しています。
写真4-17
写真4-17
 

⑵検証結果

 
測定した検証結果から、要救助者の体重が約74㎏だった場合、横さんにかかる最大の負荷は106㎏で、1局所最大許容荷重を下回っている結果となり、横さんにかかる荷重は「(要救助者の体重+使用資機材の重さ(バスケットストレッチャー、リッターハーネス及びCSRプーリーキット))×約1.25倍(4倍力システムで引き揚げるため)」の荷重がかかることが分かりました。
◎ここがポイント!
当消防本部が保有する資機材の一局所最大許容荷重を鑑みると、体重90㎏以内の要救助者であれば、前述の計算式に当てはめ「(要救助者体重90㎏+使用資機材14㎏)×1.25=130㎏」となり、CSRシステムを活用しての救出が可能となります。しかし、衝撃荷重を掛けてしまうと許容最大荷重を超えてしまうため、メインロープを引く力をなるべく一定にするとともに、ビレイロープの余長を最低限に保って操作することが重要になります。
 

以上 加藤将吾

■氏名
加藤将吾(かとうしょうご)
■所属
入間東部地区事務組合西消防署第2担当高度救助係
■消防士拝命日
平成29年4月1日
■救助隊員拝命日
令和2年4月1日
■出身地
埼玉県
■趣味
ウエイトトレーニング

おわりに

今回使用したかぎ付はしごは、関東梯子KHFL-CT31チタン製(一局所許容最大荷重130kg)になります。注意点として、一般男性の体重が概ね70kgだとすれば、横さん一点を折り返し支点として吊り下げた場合、その支点には約140kgの合力が発生し、さらに担架や資機材等の重量を含めると許容荷重を大きく超えることになります。また、はしごに対してベント(屈曲力)を加えることは、はしご本来の使用目的とは異なり、はしごやその支持物に極度の負荷を与え、場合によってはシステムの崩壊に繋がってしまいます。特に、スタティックロープを使用した場合は、伸び率が低いことから衝撃荷重の働きに十分注意が必要です。これらを念頭に置いた上で、補強や荷重分散等の適確な処置を施しながらシステムの構築を図ることが最も重要だと考えます。

本企画を通して、新しい救助システムの考案には、如何にしてその危険性の存在に気付き、より安全でシンプルな操作方法を見出すことができるかが鍵になると感じました。また、それは災害現場においても同様であり、指揮者は常にその場に応じた臨機な判断力と応用力が試されるものだと思います。

私たちは、今後も複雑多様化する救助事象に対応するために、日々努力を重ね、成長していかなければなりません。そのためには、職員一人一人の探求心と行動力が最も重要であり、何よりもその情熱の塊が、現状を大きく変えていく原動力であると考えます。誰か一人がスーパーマンでも駄目なのです。今回の執筆は、各隊員にそれぞれ1種類ずつ受け持ってもらいましたが、そうすることで、もっと効果的な方法はないか、どこに危険が存在するかなど、個人レベルで更に深く追求する機会となり、各隊員の責任感と創造力を大いに養うきっかけになったのではないかと思います。また、隊員間や小隊間で繰り返し検討を行うことで無駄が省け、より安全かつシンプルな救助システムの考案に辿り着くことができました。本企画を通して、私は個の力だけではなく仲間同士が助け合い協力し合ってこそ、より大きな発見があり、最大限の成果を導き出すことができるものと、改めて実感しています。

最後に、職場の上司をはじめ、周囲の理解と協力なしには、本企画の実現に至ることは不可能でした。この場をお借りして改めて感謝を申し上げます。

本当にありがとうございました。

どんなに時代が変わろうとも、人の命の尊さに変わるものなど決して他にありません。消防救助隊に与えられた使命「人命救助」を全うするため、今後とも日々探求心を胸に、引き続き精進して参ります。

(写真4-18)
入間東部地区事務組合 西消防署 高度救助隊

■氏名
佐藤 拓美(さとう たくみ)
■所属
入間東部地区事務組合 西消防署 第2担当高度救助係 係長
■消防士拝命日
平成12年4月1日
■現職拝命日
令和2年4月1日
■出身地
埼玉県
■派遣等
・埼玉県消防学校教務担当
・消防大学校救助科第77期
・レスキュー3ジャパン・テクニカルロープレスキューテクニシャンコース修了
・JTFラダーレスキューシステム講習修了
■趣味
トライアスロン

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