月刊消防 2024/03/01 p26-32
「救助の基本+α」
第91回都市型救助「山岳救助技術を都市型へ」
目次
はじめに
今回、月間消防「救助の基本+α」シリーズを担当します、佐倉市八街市酒々井町消防組合消防本部(千葉県)救助隊長の西田哲也と申します。(令和4年度)
当組合は、千葉県北部の印旛地域に位置し、管内人口は約26万人を擁しています。
地域の特徴としては、東京都心のほか、県庁所在地である千葉市中心部や成田国際空港といった首都圏要所へのアクセスに優れた都市環境であるとともに印旛沼をはじめとする豊かな自然環境にも恵まれた多様性のある地域となっています。職員定数は415名(救助隊員資格者数は救助隊長以下93名)、2市1町を1消防本部4消防署5出張所の組織体制で地域の安心安全を守っており、救助体制を強化すべく、救助部隊2隊(高度救助隊1隊、特別救助隊1隊)及び救助資器材を搭載した消防隊を2隊配置、更に、国際消防救助隊登録消防本部として日々訓練を重ね国内外の災害に対しても準備しています。
都市型救助について
平成18年12月に都市型救助(山岳救助)資器材を新規導入後、平成21年3月の救助工作車Ⅲ型への更新に伴い、更に資器材を増強し充実させたことから、ロープレスキュー基本マニュアルの作成、TRR(テクニカルロープレスキュー)受講等の準備を始め、現場活動では三打ちロープレスキューと都市型ロープレスキューのどちらでも活用できる併用型を取ってきました。平成27年2月の高度救助隊発隊後に、これまでの併用型を一本化し、完全都市型ロープレスキューへ移行、平成19年度消防救助技術高度化検討会資料やロープレスキュー講習等から当組合活動要領のマニュアル化を進め、年間訓練計画にも盛り込み全救助隊員のスキルアップを図り、翌年の平成28年度から県消防学校救助科へロープレスキュー教育支援として隔年で出向し、各隊員のモチベーション向上にも繋がっています。
ロープレスキューに対する自身の考えは、山岳救助技術の都市(地域)型救助への活用であり、山岳救助のメリットを活かしつつ、受講隊員の意見を反映、検証、検討し、救助活動のSSS(Simple・Safety・Speedy)を基に我々の地域事情等に適したマニュアルを作成し、更新「進化」させ、全救助隊員に共有して行くことを目標としています。
そこで、2年前から救出時のロープにかかる荷重の割合をメインロープ100%、ビレイロープ0%から2本のロープに50%ずつ均等な荷重がかかる救出方法への変更、外部有識者等を招き、検証、検討の結果、最も現場活動実績のある「はしご水平救助第2法及びはしごクレーン救助」の2種類の活動(設定)要領を4署にて統一化したものを紹介します。
救出活動及びシステムの設定は、基本的に隊長以下5名体制で実施し、三打ちナイロンロープでの設定要領を基本としています。また、ヒューマンエラー防止の観点から下部支点の設定要領は、はしご水平救助及びはしごクレーン救助ともに同様の設定としました。
•はしご水平救助第2法
使用資器材は、三連はしご、クロスバー、救出用ロープ(セミスタティック50m又は100m)、テープスリング、カラビナ、プーリー(スイベルプーリー等)、下降器(ID’S)、レスキューセンダー等となります(写真3)
(写真3:はしご水平救助資器材一覧)
(1)上部支点の作成
はしご上部横さんにテープスリングを結着し、カラビナ及びプーリー(スイベルプーリー)を掛け、上部支点とします。(写真4)
(写真4 はしご水平救助:上部支点)
(2)下部支点の作成
はしごの最下段にテープスリングとカラビナを掛け、下降器(ID’S)を取り付け、プライマリロープ及びセカンダリロープを設定します。(写真5)
(写真5 はしご水平救助:下部支点)
(3)救出要領(上部)
クロスバーは、カラビナにて支管に取り付け、頭部及び足部側の担架結着はブライド
ルではなく、ロープとプルージックコードで長さ調整を可能としています。(写真6)
(写真6 はしご水平救助:上部救出要領)
(4)救出要領(下部)
要救助者を開口部から屋外に搬出することが大きなポイントであることから、要救助者を担架へ収容後に三倍力システム(レスキューセンダー、ロールクリップやアッセンション等にて倍力設定)を作成し、写真7の様にツーテンションロープシステムにて引き揚げます。(写真7)
(写真7 はしご水平救助:下部救出要領①)
要救助者が開口部から屋外に出た後、三倍力システムを解除し、下降器(ID’S)の制動力にて吊り降ろします。その際も荷重を2つのシステムに均等(50:50)にすることが重要なポイントとなります。(写真7,8,9)
(写真8 はしご水平救助:下部救出要領②)
(写真9 はしご水平救助:下部救出要領③)
(写真10 はしご水平救助:救出訓練要領)
2.はしごクレーン救助
使用資器材は、三連はしご、※クレーン救出用上部アタッチメント、救出用ロープ(セミスタティック50m、100m)、テープスリング、カラビナ、プーリー(スイベルプーリー等)、下降器(ID’S又はマエストロ)、ストップ、レスキューセンダー等となります。(写真11)
(写真11:クレーン救助資器材一覧)
はしごクレーン救助の設定も基本的に三打ちナイロンロープでの設定とほぼ変わらず、専任救助部隊の2隊については、上部支点にクレーン救出用アタッチメントを使用し、兼任救助部隊である2隊については、アタッチメントを使用せずにテープスリング及びプーリーにて上部支点を設定します。
(1)上部支点の作成
専任救助部隊(高度救助隊及び特別救助隊)の2署は、三連はしご上部にクレーン用アタッチメントを設定し、上部支点は写真12のとおり、はしご最上段にテープスリングを結着しカラビナを掛け、つるべの固定端とします。(写真12)
(写真12 クレーン救助:上部支点)
プライマリロープ及びセカンダリロープをクレーン用アタッチメントに通過させ、動滑車(スイベルプーリー)を設定後、エイトノットにて固定端のカラビナに掛けます。また、兼任救助部隊の2署は、クレーン用アタッチメントは設定せずに、はしご最上段にテープスリングを結着、カラビナ及び固定滑車としてプーリーを設定します。動滑車(スイベルプーリー)を設定後、エイトノットにて固定滑車のカラビナに掛けます。(写真13)
(写真13 クレーン救助:上部支点)
(2)下部支点の作成
はしご水平救助第2法と同様に、梯子の最下段にテープスリングとカラビナを掛け、下降器(ID’S又はマエストロ)を設定します。(写真14)
(写真14 クレーン救助:下部支点)
(3)救出要領
両方のロープに三倍力(はしご水平救助第2法と同様)を設定し、均等に荷重が掛かる状態にします。(写真15)
(写真15 クレーン救助:救出要領)
ツーテンションロープシステムを起用したことで荷重は2つのシステムに分散(50:50)され、シンプルなシステムで引き揚げることが可能となり、万が一どちらかのロープが破断した場合でも、もう一方のロープに荷重されていることから墜落距離が小さくなり、より安全なシステムの構築が可能となりました。また、プライマリロープ及びセカンダリロープともに、全く同じシステムを設定することでヒューマンエラーの防止にも繋がりました。(写真16)
(写真16 クレーン救助:救出訓練要領)
•要救助者救出用担架設定(収容)について
はしご水平救助及びはしごクレーン救助ともに、担架収容要領は同様であり、今回ご紹介させて頂いたはしごクレーン救助についても安全確保のため、ツインレスキューはNGとし、要救助者1名のみの救出としています。(写真17)
(写真17 要救助者担架収容要領)
おわりに
都市型救助資器材を使用した設定、救出要領については、あらゆる消防本部、団体等に於いても賛否両論、様々な意見があるとことを理解しています。当組合では前文でも記載させて頂いた「救助の3S」であるSafety:セーフティーの部分であるシステム設定上のヒューマンエラーの防止を第一と考え、複雑な設定を省きSimple:シンプルを心掛け作成し、4署にて統一、共有することで、各隊員のスキル向上とエラーの軽減が望め、更に、設定時間の短縮であるSpeedy:スピーディーに繋がったと感じています。今後も現状に満足することなく複雑多様化する災害と日進月歩する都市型救助技術に柔軟に対応し、日々検証、検討、訓練を続けて更新「進化」させ、救助技術の向上に努めることが我々救助隊としての使命だと思っています。今回ご紹介させて頂いた救助方法が良くも悪くも皆さんの参考となり、情報交換等から当組合救助隊にとっても+αとなれば幸いです。(写真18)
※写真18:佐倉消防高度救助隊
※写真・プロフィール
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