手技120: 泣こよっか、ひっ跳べ(第1回) 適切な接遇

 
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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第1回

適切な接遇

Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合大笠分遣所

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


写真1 南薩地区消防組合

皆さん、はじめまして。私は鹿児島県の薩摩半島西南のかつお漁港・かつおのビンタ(頭)料理で有名な枕崎市、仏壇とお茶の産地・知覧特攻基地が有名な南九州市、サンドクラフト砂の祭典とサイクリングのまち・杜氏の古里がある焼酎産地の南さつま市の三市を管轄する南薩地区消防組合(写真1)の救急救命士です。海と山に囲まれた本土南端のすんくじら(端っこ)から、今回、私の救急活動での経験を通して、常々考えていることや実践していることを述べる機会を頂きました。新人救急隊員の皆さんへのアドバイスとして、現場活動のなかで、少しでも参考になれば望外の幸せです。

一年間の目標

 多様な傷病者に接するものの救急隊員に許された行為は限られています。行えることは、バイタルサインの測定と観察が主であり、その結果に合わせた処置と病院の選定が付加されます。また、救急隊員が傷病者にできる処置のうち、傷病者の容態を劇的に改善し得るのは除細動のみです。

 救急業務においては、バイタルサインの測定と、視診、触診、聴診といった観察を確実に行うことが最重要事項と言っても過言ではありません。そのために、「正常な状態を判断できる」「基礎的な医学知識を身に付ける」「基礎的なスキルを身に付ける」などの、基本をしっかり習得することが大切です。救急隊員であれば、誰もが同じ活動を行えるような基本的なスキルを学び、基礎知識を確認しましょう。

地元、鹿児島の言葉や習慣を交えてお伝えしたいと思います。

 皆さん、「泣こかい、跳ぼかい、泣こよっか、ひっ跳べ」の心意気で、1年間、きばって(頑張って)行きましょう。


はじめに

病院前の救急活動は、悲惨な事故現場や、突然の発病に動揺した家族、関係者が見守る急病人のいる場所など、特殊な環境下に置かれています。心肺停止症例や致死的な重症外傷からタクシー代わりと思われるような救急要請もあり、まさに臨機応変な対応が求められます。

救急隊の活動は、救急隊長を中心に救急隊員と機関員がそれぞれの役割を分担して傷病者へチームで救護にあたります。また、それぞれが状況を把握し、的確な時間に、適切な観察と処置・病態に応じた病院選定を行うことが、理想的な救急活動となります。
救急隊が傷病者や関係者からの情報聴取は、必要な観察や処置を行うに当たってとても大切な手技であり、その聴取をおこなうためには適切な接遇とコミュニケーションが必要です。今回は「適正な接遇」「コミュニケーションスキル」について触れてみます。

接遇とコミュニケーション

救急活動の中での接遇とは一般にいうそれの範囲を超え、傷病者への対応、家族、関係者等への対応を指し、活動を行ううえで重要な意味を持ちます。なぜならば、救急隊が対応するのは病気、ケガ等で助けを求めている弱者であり、、通常の心理状態ではないからです。したがって、救急隊員が傷病者やその他の家族、関係者と接する場所では、言動に留意することはもちろんのこと、相手の立場に立ち、相手の利益になるように対応することが必要です。しかしそれは、相手の言いなりに行動することではありません。可能な限り希望に沿えるよう努力はしますが、活動を適正に執行するうえで必要な内容は十分な説明を行い同意を得ることも、また時には毅然とした対応も必要となります。

救急活動の中で気付いたこと

新人隊員さんや現場経験の浅い、隊員さんの現場活動で気づく事は、コミュニケーションがうまく取れていないと言うことです。

写真2 傷病者の配慮に乏しい

バイタル測定や被覆や固定の処置をする時に、なれない観察や処置に集中するあまり、傷病者への配慮に乏しく、黙々と処置を行っている姿を見かけたり(写真2)、

写真3 傷病者の痛みに気付かない

理解しにくい専門用語で説明し、事務的な動きでモニターを装着していたり、傷病者が痛みに堪えていることを気付かずに処置に没頭している姿を見かけることもあります(写真3)。経験の浅い者にとって、その一生懸命さがマイナスに作用し、平常心を保つのは難しいものです。日常的なコミュニケーションも決して簡単ではありません。

救急現場では、傷病により身体的・精神的に大きなダメージを受け、パニックに陥っている傷病者や家族とのコミュニケーションが中心となります。傷病者や関係者とのコミュニケーションは救急活動の中でとても重要なのです。なぜなら、傷病者とのコミュニケーションができなかったら、観察がスムーズに行えなくなりますし、観察にもとづく処置も十分に行えず、収容先の選定にも苦慮することになるからです。

私も救急救命士になりたての頃、張り切って救急現場に臨むのですが、関係者から情報を得る時や傷病者からの問診がスムーズに行えませんでした。傷病者に「いっからそげんあっとな?」「どこが痛かな?」など尋ねても、なかなか返事は返って来ません。それどころか、黙り込むこともたびたびありました。どうやったらうまく問診できるだろうと悩んでいる時、「隊長は、現場じゃ顔が怖いですよ、鬼のごっ怖い顔していますよね」「そうそう、シイサーか鬼瓦みたいじゃっど」と言われて、思い当たることがあったのです。問診が上手にできずに、観察も思うように行かないで黙り込んでいた傷病者が、病院へ着くと優しく話しかける看護師さんやお医者さんへ安心したのか、堰を切ったように症状を喋り出していました。

どうやら現場での私は緊張から、目がつりあがり鬼のような怖い顔で接遇していたようでした。関係者は委縮して話せずに、傷病者は伝えたい症状も言えないまま、黙って病院まで苦しさを耐えていたのでしよう。勢い込んで現場に来た救急隊に安堵を覚えるどころか不快感を与えていたのでした。

非言語コミュニケーションのポイント

人と接するとき、「人は見た目で九割決まる」、表情・態度が6割、声音(口調)が3割、「何を話したか」という話の内容を言語表現が1割と言われています。救急隊も活動以前に、次に挙げるような、社会人として必要なマナーを身につけておきましょう。

1,服装・表情・しぐさ(コミュニケーションを円滑に図れる環境を演出する)

写真4 救急隊員服装

第一印象はきわめて重要です。最初の数秒で与える救助者の印象により、コミュニケーションが成功するか否かが決まります。だらしない服装の着用、ひげ、口臭、不要な香料の使用はマイナス印象を与えます(写真4)。

身だしなみに加えて、姿勢や身のこなしも重要です。救助者は笑顔や自信ある態度、適正な歩幅と早さなどを心がけ、傷病者に、「この人なら助けてくれる」という印象を与えるようプロとして普段からの努力が大切なのです。

2、距離・スタンス(相手の置かれている状況を把握する)

距離もまた大切な要素です。離れ過ぎれば共感的態度が取れませんし、逆に近過ぎては圧迫感を与えてしまいます。コミュニケーションをとるのに、より適正な距離は40-100㎝と云われて、ちょうど腕の長さの2倍くらいの距離です。

写真5 距離・オープンスタンス

手を広げて伸ばしたリラックスした姿勢は「オープンスタンス」(写真5)といい、自信があり、すべてを受容する意味を持っています。

写真6 クローズドスタンス

一方、「クローズドスタンス」(写真6)はその反対で、胸の前で腕を組み、首を少しかしげるような姿勢は、否定的な態度となります。

3、目線の高さと位置・アイ・コンタクト(相手のレベルを客観的に判断する)

写真7 目線の高さ・アイ・コンタクト

さまざまなメッセージを傷病者に送る際、必ず傷病者の横に座り、目線の高さを合わせることが必要です(写真7)。上から見下ろすと威圧的で、傷病者を服従させようとするサインとなり、下から見上げるのは、何かを懇願するような意味を持ちます。とくに高齢者は注意が必要です。

「眼は口ほどにものを言う」と昔から言われるように、アイ・コンタクトはコミュニケーションの手技として重要です。傷病者の病歴等を聴取するときには、アイ・コンタクトを多用すべきでしょう。

4、身体接触・ボディー・タッチ

写真8 ボディー・タッチ

ボディー・タッチ(写真8)はさりげなく手で傷病者に触れるようにします。自分の体温を伝えるだけで、傷病者は安心するものです 。ただし、いきなり体を触れられれば、誰でも不安を覚えます。傷病者に体を触れることを説明してから行うことが大切です。

言語コミュニケーションのポイント

適切な言語表現さえ身に付けていれば、救急の業務として求められている短時間でのコミュニケーションが円滑に完結することが可能となります。

1、傷病者に呼びかける時は名前で呼ぶ
2、傷病者に対して適切に反応する
3、声をかける際は、大きさを調節する
4、プロとして適正な声の大きさを保ちつつ、気持ちを込めて話しかける
5、観察や処置を行うときは、これから何をしようとしているのか、なぜそうするのかを説明してから実施する
6、親しみを忘れず、自信を持った態度で臨む

また次の事柄に留意することも大切です。

1、話しすぎない
2、情報を与えすぎない
3、断定しない
4、相手を個人的な主観を入れて軽く見たり、否定したりしない

写真9 クローズドクエスチョン

私は傷病者に質問するとき、わかりやすい言葉で、答えやすいような尋ね方を心がけています。救急車内に収容するまでは、答えや主訴を短時間で導ける、「はい」、「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョン(写真9)を、

写真10 オープンクエスチョン

車内収容から病院到着までは、オープンクエスチョン(写真10)を用いて自由に答えさせ、安心感を持たせることで、隠していたり、忘れていたことを導くように努めています。

的確に情報をまとめて伝えられることができ、相手の伝えたい情報をしっかり聞く耳をもてるほうが、コミュニケーションスキルは高いといえます

相手の立場に立ち、心を込めて、相手に満足を与えることができる優れたコミュニケーションスキルを持つ者こそ、傷病者が選ぶ「よい救急隊員」ではないでしょうか。


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09.5.8/8:48 PM

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