月刊消防 2019年3月号
救助の基本+α(33) 「救助資機材の点検」
目次
【はじめに】
今回の救助の基本+αを担当させて頂きます、北海道留萌(るもい)消防組合留萌消防署の梅村廣太と申します。宜しくお願い致します。今回のテーマは「救助資機材の点検」について、代表的な資機材を取り上げ解説します。私自身、まだまだ勉強中の身ですので、点検に共通する部分について、基本を復習する機会となれば幸いです。
ただ、各所属によって導入している資機材は異なり、メーカーにより点検方法が異なる部分もあるため、一概に「この点検方法である。」と言い切ることはできないため、詳細についてはメーカー発行の説明書やメーカーの指示に従ってください。
【資機材の点検】
資機材の点検は、見た目の古さや使用年数に関係なく、劣化や破損を発見しなければいけません。また、確認するべきポイントを間違えてしまうと、重大な事故に繋がる虞もあります。資機材を安全に使用するためにも点検は必要不可欠です。
1.ロープ類
救助現場において、要救助者の確保や救出、資機材の吊り上げや固定等に使用されるロープ。目視するだけでなく、実際に触れながら点検を実施する必要があります。
○目視による点検のポイント例
・摩耗や破断の有無
・摩擦熱などによる溶け等の有無
・汚れや砂等の付着の有無
・紫外線、薬品の付着等による変色の有無
○接触による点検のポイント例
・柔軟性や径の違いの有無
今は従来の三つ打ちロープだけでなく、カーンマントル構造のロープを導入されている消防本部がほとんどであると思います。カーンマントル構造のロープは、内芯の状態が目視で確認しづらいため、ロープを折り曲げ、異常な変形がないかどうかを確認するピンチテスト等で確認することも必要です。(001)
001
ロープを折り曲げ異常がないか確かめるピンチテスト
テープスリングもロープと同様の目視による点検を実施しますが、縫い合わせ部分やテープスリング中心の糸のほつれや破断がないかも確認する必要があります。(002)
002
テープスリングの目視点検
著しい摩耗・破断が認められるものや摩擦熱等により溶けがあるものに関しては使用を中止し、廃棄します。小砂等の付着があった場合は洗浄し取り除きます。また、各消防本部において定められている基準があれば、その基準に準じた点検や廃棄をしてください。(003-005)
003
ロープの目視点検
004
著しい摩耗・破断や摩擦熱等により溶けがあるものは廃棄する
005
付着物洗浄し取り除く
2.カラビナや滑車等
カラビナや滑車等も目視、接触での点検をする必要があります。接触による点検は機能的な問題がないかも確認します。(006-009)
○目視による点検のポイント例
・著しい変形や亀裂、摩耗の有無
・汚れや小砂等の付着の有無
○接触による機能点検のポイント例
・可動部分の動作不良の有無
こちらも著しい変形や摩耗が認められる場合、使用を中止し廃棄します。また、小砂等が付着していた場合は、洗浄し取り除きます。
006
カラビナの目視点検
007
可動部分の動作の点検
008
スリーブ(安全環)の点検
009
滑車の点検
リギングプレートやエイト環なども目視で変形や亀裂、摩耗がないかを確認します。アイディなどのカムが付いている資機材は、各可動部分やハンドルの変形、動作不良がないか、カムの変形やスパイクの摩耗の有無を目視で確認し、作動不良がないかを確認することが必要になります。(010-012)
010
カムの点検
011
ハンドルの点検
012
変形・摩耗がないか確認
3.油圧式救助器具
交通事故救助等で使用する機会が多い油圧式救助器具。エンジンユニットを使用して駆動させる資機材と、バッテリーを使用して駆動させる資機材があります。(013)いずれも各消防本部で導入されているメーカーは様々であると思いますので、詳細な部分は取扱説明書等で確認をして下さい。また、各保有資機材について、機械器具管理規程等が定められている消防本部は、規程に則り点検を実施して下さい。
○目視による点検のポイント例(写真3-6~3-9)
・エンジンユニットやバッテリーの残量は適当か
・高圧ホースの亀裂や変形の有無
・スプレッダーアームやカッターのブレード等の作動部分の変形や歪み、破損の有無
・カップリング部の変形や破損の有無
・各付属パーツの変形や破損の有無
・作動油の量は適当か 等
013
油圧式救助器具
014
目視による点検
015
高圧ホースの点検
016
バッテリーの残量の点検
017
作動油の量の点検
○接触による機能点検のポイント例(018-022)
・操作ハンドルの動作不良の有無
・可動部分の動作不良の有無
・可動部分のガタつきの有無 等
018
接触による機能点検
019
操作ハンドルの点検
020
可動部分の動作具合の点検1
021
可動部分の動作具合の点検2
022
可動部分のガタつきの点検
4.エンジンカッター、チェーンソー
火災時の排煙活動や、施錠された金属扉の開放等、破壊活動に使用される頻度の高い資機材です。ブレードやチェーンで直接切断していくため、消耗の度合い等のチェックは欠かせません。
○目視による点検のポイント例
・燃料残量は適当か
・ブレードやチェーンの変形や破損、摩耗、亀裂の有無
・ブレードガードやガイドバー等の変形や破損、ガタつきの有無
・スターターロープの状態
○接触による機能点検のポイント例
・全てのナットやネジ類が確実に締まっているか
・停止スイッチやトリガー等の動作不良の有無
・作動時の異音や異常振動等の有無 等 (023-026)
023
チェーンソーの点検
024
ブレードやチェーンの変形や破損、摩耗、亀裂の有無を見る
025
エンジンカッターの点検
026
動作状態の点検
5.3連梯子
高所や低所への進入や要救助者の救出で使用頻度の高い資機材です。このシリーズの3連梯子編でも破断例が提示されていました。事故を未然に防ぐためにも点検は重要な役割を担っているのは言うまでもありません。
○目視による点検のポイント例
・梯体や各溶接部の変形や破損の有無
・掛け金の変形や破損の有無
・滑車の変形や破損、摩耗の有無
・引き綱の状態
○接触による機能点検のポイント例
・可動部分の動作不良の有無
・掛け金やセンサーの動作不良の有無
・梯体の異常な歪みの有無
・付属資機材の異常の有無 等 (027-031)
027
3連梯子の点検
028
梯体や各溶接部の変形や破損の有無の点検
029
可動部分の動作の点検
030
センサーの点検
031
付属資機材の点検
【最後に】
いつ何時、どのような災害が起こるか分かりません。多種多様な災害に、保有している資機材で対応する中で、事故なく、安全に任務を遂行するためにも、点検の持つ意味はとても重要であると言えます。普段から五感を使い点検・確認を行うことで、小さな異常にも気付くことが出来るのではないでしょうか。
北海道では厳寒の中での活動も珍しくありません。油圧式救助器具などは、低い外気温に長時間晒された使用すると、油圧作動油が冷えて硬くなってしまったり、バッテリーの持ち時間が通常よりも短くなることがあります。機械器具の微妙な変化に早期に気づくためにも、普段から資機材の点検を通じて、状態を把握するよう努めています。
【プロフィール】
著者:梅村 廣太(うめむら こうた)
所属:留萌消防組合留萌消防署消防課警防係
出身:北海道留萌市
消防士拝命:平成24年4月
救命士合格:平成24年4月
趣味:水泳、サイクリング、楽器演奏
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