月刊消防 2019年5,6,7月号(3ヶ月連続)
月刊消防「救助の基本+α」
「震災対応要領」
目次
はじめに
埼玉県の入間東部地区事務組合消防本部警防課の濱崎と申します。この度は、全国の救助隊員をはじめ、多くの消防職員に大変人気のコーナーである「救助の基本+α」に当消防本部(入間東部地区事務組合消防本部)の救助技術のひとつ「震災対応要領」について、掲載していただき大変ありがとうございます。また、昨年10月に当消防本部は高度救助隊の発足に伴い、本コーナー「救助の基本+α」の担当者であります独立行政法人国立病院機構「旭川医療センター 医学博士 玉川 進 先生」よりお声がけを頂いたことをきっかけに、本誌面のコーナーにて当消防の救助技術をご紹介させていただくこととなりました。
消防本部の紹介
入間東部地区事務組合消防本部(旧 入間東部地区消防組合消防本部)管内(面積49.67㎢)は、埼玉県の南西部に位置し、首都圏から30キロメートルに位置する富士見市・ふじみ野市・三芳町の2市1町から構成され、埼玉県を代表する1級河川の「荒川」を挟み東には、さいたま市、西は所沢市、南は志木市・新座市、北は川越市に接し、荒川低地を擁した火山灰土からなる、関東ローム層の平坦な地形からなる東京のベッドタウンとして発展した地区であり、管内人口は約26万人、消防組織は1本部・2消防署・3分署で、そのうち西消防署に高度救助隊、東消防署に特別救助隊を配置、消防職員数は281名で、専任救助隊員は30名、消防団3本部23分団、消防団員305名を配備し災害に備えています。
写真(A)入間東部地区の位置
震災対応型訓練場
今後30年内に首都直下地震、南海トラフ巨大地震等の発生が懸念され一度発生すれば当管内にも相応の被害が出ることが想定されています。これまでにも日本各地で起こった大地震により倒壊や生き埋め等の被害が多発している状況を踏まえ、当消防本部としても震災にどのように対応するかが大きな課題となっています。そこで、当消防本部は管内に瓦礫倒壊建物模擬訓練場を持つ日本救助犬協会と連携し、同訓練場において震災対応型合同訓練を定期に重ねています。平成30年5月には当該訓練場を同協会の承諾のもと、随時訓練場として開設し高度救助隊が保有する高度救助用資器材を活用した各種想定訓練を行っているほか、当消防本部の全隊が訓練可能となっています。これにより、より実践に近い訓練環境下で各隊が訓練を重ね、指揮隊を中心とした想定訓練の実施や、日本救助犬協会との連携訓練を行い大規模災害時に人力や機械だけでは捜索しにくいケースを想定した、救助犬の投入による震災対応型捜索救助技術への取組みも行い、震災時における救助技術への相互錬磨を行っています。
紹介する訓練について
救助技術「震災対応要領」は、いかに『リアリティーある環境』実践に近い状況で訓練を重ねることができるかが重要で、先に紹介した訓練場には瓦礫やコンクリートヒューム管、埋没車両、倒壊座屈建物等が設けられていることで、災害現場に近い状況で訓練を展開できるようになっています。これまで震災対応訓練を実施する際は、訓練隊員がブリーチングするための鉄筋コンクリートボード片やRマット、長机や単管パイプ等を寄せ集め、工夫して環境を作り訓練を行っている状況でありました。この部分については多くの消防本部も同様に震災対応訓練を行う上で苦慮しているところであると感じているところ、兼ねてから当該訓練場の開設は震災に関する訓練の充実に繋がることを期待し、担当者として事務を進めてきました。さらには高度救助隊の発足も重なり、当該訓練に拍車がかかっているほか、現在では毎月1回の日本救助犬協会との各種想定訓練や意見交換及び自隊訓練に励んでいるところです。
そこで、震災対応要領のうち、3つの項目(1.指揮進入要領 2.PPEの着装要領 3.人的捜索方法)」について、掲載をさせていただきます。なお、内容については、全国の消防の皆様方が実践している方法が多くあるなか、現在の当消防本部の手法になりますが少しでも消防の一助となればと思い紹介させていただきます。
ここまで濱崎仁 執筆
写真(C)
氏名:濱崎 仁(はまざき じん)
■所属
入間東部地区事務組合消防本部警防課
■消防士拝命日
平成9年4月1日
■現職拝命日
平成27年4月1日
■派遣等
・埼玉県消防学校救助科助教官
・埼玉県防災航空隊
・消防大学校 緊急消防援助隊教育科 航空隊長コース
・消防大学校 救助科
■趣味
家族とお出かけ・アウトドア
ここから今村隆二 執筆
氏名:今村 隆二
■所属
入間東部地区事務組合 西消防署 第2担当高度救助係
■出身地
埼玉県
■消防士拝命日
平成11年4月1日
■現職拝命日
平成28年4月1日
■趣味
サッカー、子供と遊ぶこと
1 捜索活動
(1) 日本救助犬協会災害救助犬との連携捜索
救助犬は要救助者のストレス臭等の浮遊臭を感知し、動けずに同じ場所に留まって、呼吸はしているが声が出せない等の状態であっても捜索する事ができます。
さらに、救助犬の嗅覚が人間の100万倍以上ということと、救助犬の機動力からよりスピーディーに捜索し多くの要救助者を救出するためには有益であると考え、日本救助犬協会災害救助犬との連携捜索に積極的に取り組んでいます。
・ 救助犬捜索のメリット・デメリット
メリット
1. 迅速性・・・嗅覚での捜索は消防救助隊の捜索よりも要救助者の特定が早い。
2. 携行性・・・救助犬は自ら移動するので、資器材搬送等がない。
3. 遠隔操作性・捜索現場では救助犬が自ら捜索するので、人間に危険が及び難い。
デメリット
1. 風向き・・・風上からの捜索の場合、難易度が上がる。
2. 天候・・・・雨等が降っている(湿度が高い)場合、捜索の難易度が上がる。
3. 集中力・・・気温等の環境に左右されやすい。
4. 上記デメリットから、ハンドラーが的確に判断する。ハンドラーのストレス。
また、ハンドラーに消防職員が安全管理員として張り付き、ハンドラーのストレス軽減を図り、的確な判断を下すことができる環境を作り、消防がハンドラーと救助犬を完全に管理しデメリットを最小に抑えることが重要です。
写真1(ハンドラ―に消防職員が安全管理員として張り付いている)
・ 救助犬の部隊編成と高度救助隊の判断
救助犬は3頭ハンドラー3名+隊長が1チームとなって捜索をします。1頭が行方不明者発見反応を示した場合は、同場所へもう1頭を確認に行かせます。自隊は救助犬2頭が反応した場合、要救助者位置特定と判断し、テクニカルサーチに移行し生命兆候を取り確実情報とし、救出活動に切り替え活動します。また、日本救助犬協会は東北大学の研究チームと協力し、救助犬に最先端のウェアラブル端末(サイバー救助犬スーツ)を装着させ、GPS・カメラ・マイク・加速度計を搭載しリアルタイムでタブレットに入ってくる救助犬の心拍数や軌跡、距離等も重要な情報と位置付け判断材料としています。
写真2(サイバー救助犬スーツを着装した状態の救助犬
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連携活動におけるポイント
1. 風上から捜索する場合、隊員(人間)は可能な限り離れる。
2. 風下から捜索する場合、ガス測定器、熱画像直視装置を携行した隊員が安全管理員として随行し、確実な危険予知を実施する。
3. 救助犬の反応がない場合は隊員によるベーシックサーチを実施し確実情報として転戦する。
4. 捜索は情報が全てであるため、救助犬協会と消防が確実に情報共有するために、合同前線指揮所を設営する。
写真3 (合同前進指揮所にて情報を共有している)
(2) ベーシックサーチ
捜索においてはまず2つ段階があります。
・ 受動段階
- 現場状況の情報収集・・関係者からの情報や建物構造また地図や図面等を活用する。
- 情報を元にした計画・・捜索範囲の確定や優先順位を決定する。
- 計画に基づく人員配置・・効率的な人員配置を実施する。また各担当配置場所の活動時 間の決定をする。
・ 積極段階
1. 現場状況に合わせた捜索活動(ベーシックサーチ)
人的基本捜索で、声・音などの反応を待つ方法。ラインヘイリング及びサークルヘイリング等を実施し、捜索範囲の中から要救助者のある程度の位置を特定する。
2.人員増員及び資器材の投入(テクニカルサーチ)
技術的捜索で、高度救助用器具を使用し、さらに正確な要救助者の位置特定を行う。
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ヘイリングシステムとは
捜索の基本活動要領 (ラインヘイリング)
捜索範囲のスタート地点に隊員を3人から10人横列に並ばせ、各隊員は3mから6mの間隔に配置をします。3mずつ前進し呼びかけ担当の隊員がトランジスタメガホン等を活用し数回呼びかけサイレントタイムを実施します。サイレントタイム中は声や物音に対してより注意して耳を傾けます。物音等が聞こえない場合は再び3m前進します。途中でボイド(空間)を発見したらより注意深く耳を傾けます。必要があれば呼びかけを行います。
捜索範囲の状況によっては、捜索範囲を円で囲むように隊員を配置した方が効率的に捜索できることもあります。円で配置した後に、同じ様に3mずつ前進しながら捜索にあたります。この方法をサークルヘイリングと呼びます。
(物音等が聞こえた場合の対応)
聞こえた隊員はその場で声を出さずに手を挙げ聞こえた方向へ指でさし、ほかの隊員はそのまま前進します。また別の隊員が物音を聞いた場合、前者の隊員と同じ行動をします。3人以上の隊員が指をさすまでヘイリングを実施し続けます。3人以上の隊員が物音を聞いた指をさす方向の接点周辺がポイントになり優先的な捜索またはテクニカルサーチに切替をします。
(3)テクニカルサーチ
テクニカルサーチとは、捜索資器材を活用した捜索のことです。ベーシックサーチや災害救助犬による捜索である程度の位置を特定し、さらに正確な位置や生命兆候等の詳細な情報を得るためにテクニカルサーチを実施します。自隊は、捜索資器材として地中音響探知機や、画像探索機Ⅰ型、画像探索機Ⅱ型などを保有しています。
・ 地中音響探索機での捜索
地中音響探索機(デルサーLD3)は一次捜索や二次捜索で使用し、要救助者が発する通常では聞き取ることのできない小さな信号をセンサーで感知しヘッドフォンで聞き取り、要救助者が座屈倒壊した構造物内などに存在するのかどうかを判断し、おおよその位置を特定します。
要救助者の存在と位置が確認されたら場所のマーキングや周囲の安全確保を行います。
要救助者の位置の特定では、崩壊した構造物が山状に堆積しているならば、瓦礫の1番上から開始するのが最も効果的です。瓦礫の頂点にセンサーを設定し、その周囲に別のセンサーを設定し要救助者の位置を特定していきます。要救助者からの反応を確認したときは、言葉でなく手を挙げて全体に周知させます。
また、センサーは1列に設置するのが効果的とされていますが、当消防本部は、振動センサーが2個の保有となっているので、状況によってはマーキングやロープなどで区画をし、対角に振動センサーを置いて捜索することもあります。
隊員が瓦礫内に進入する際にも地中音響探索機を設定しておけば、振動センサーの反応により、進入した隊員の位置を把握することができます。
・ 画像探索機Ⅰ型・画像探索機Ⅱ型
地中音響探索機で要救助者の位置がおおよそ特定できれば画像探索機を瓦礫内に挿入します。画像探索機Ⅰ型は画像、マイク集音、温度測定、ガス測定、空気の送気をすることが可能なので、要救助者の周辺の環境状況及び要救助者の状態を把握する活動に移ります。要救助者を発見したときは、静止画または動画を撮影し、隊長及び隊員間で確認することができます。空気の送気は、要救助者の周囲にフレッシュエアーを送り呼吸をしやすくし又、要救助者の体に空気を吹き付けて、体動の有無による生命兆候の確認をします。また、送話の機能はついていませんが、救助者側からの声による呼びかけが届き、画像探索機のモニターに要救助者の体の一部、例えば指先が確認できているならば、「圧迫していたら指を動かしてください。」というような呼びかけを実施し、反応があれば救助者が視認していなくてもクラッシュシンドロームを疑います。
画像探索Ⅱ型は、棒状の形状で、画像探索機Ⅰ型ではできない送話をすることができ、搬送や設定も容易なため早期に設定し、状況に応じて使い分けます。
・ テクニカルサーチのポイント
1. 小さな信号の聞き取りを行うため、サイレントタイムを宣言し実施する。
2. 信号を聞き取ったり、要救助者をモニターで確認した場合は声を出さず手を挙げる。
3. 手を挙げ知らせた後、速やかに録音、録画し複数人で確認した後に確実情報とする。
4. 進入中も設定を継続し、二次災害防止に活用する。
2.指揮進入要領
(1)指揮活動
割り振られた活動現場で、人的及びメカニカルサーチを実施し要救助者の概ねの位置特定が完了した後に、座屈狭隘空間(以下コンファインドスペース「Confined Space, CS」という。)への進入活動へと移行していきます。しかしCS進入する際には様々な環境管理を行わなければなりません。ハザードの状況を細部にわたって情報収集し、状況を確実に観察し危険を慎重に判断して活動する事が必要である。さらにCSCATTT※の体系を基に活動が展開できるように日頃からも訓練に取り組んでいます。
様々な手段を講じて初めて要救助者の元へと向かえる糸口が完成します。それらを把握した上で、活動部隊として部隊長は隊員の役割分担を明確に定めたうえで活動を開始することとが必要となってきます。さらに、他機関との連携も重要となり特に医療関係者(DMAT)からの助言は要救助者の安定した救出に的確なアドバイスが得られます。
※ CSCATTT:大規模災害時の対応体系で災害医療における危機管理手法である。
消防活動と置き換え活用している。
C:Command&Control 指揮命令(他隊他機関との連携)
S:Safety 安全(危険要因の排除)
C:Communication 情報伝達共有(他隊や医療の状況)
A:Assessment 評価(初期活動)
T:Triage トリアージ(救助的トリアージ)
T:Treatment 処置(救急活動及び救出活動)
T:Transport 搬送
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ハザード確認ポイント
1.有毒ガス等は発生しているのか
2.倒壊建物管理(マーキング)は施されているのか
3.火災の接近危険判断
4.ライフライン(電気・ガス・水道)未遮断による危険
5.安定材と不安定材の確認除去
6.鋭利な突起物等が露出していないか
※ ハザード:危険物質・危険障害。
・活動スペースの確保・資器材の準備
まずゾーニングを実施し活動拠点となるスペースを確保することが重要で、資器材集結、隊員の休息場所、情報進入管理板を用いての現場統制と活動プランニングを実施し、余震発生時の一時避難場所は二次災害の危険性ができるだけ少ない場所を選定します。活動局面をホットゾーンと設定しエリア分けを施し、同ゾーン内は必ずPPEの着装の徹底を図ります。
隊員の割振りとしては、初動進入隊員を2名選定し(R1・R2)その他に進入管理隊員、情報進入管理隊員を定め、後着部隊は周囲の安全管理を担い、地震警報器等を活用監視し、全活動部隊の安全担保に全力を尽くします。
(2)進入管理
進入開始時は進入管理員を設定し、進入前に隊員の安全確保のためPPE装着状況を隊員同士のチェックではなくダブルチェックを行い、時間管理を徹底していかなければなりません。さらに進入隊員の活動状況を細かく隊長に常に報告すると同時に、情報進入管理板の隊員は進入隊員別にIN.OUTの時間やCS内で得た情報を細かく記載し、救出方法やメディカルコントロールなどのプランニングを、隊長含め各関係機関と調整を図ることが必要不可欠です。
・情報進入管理板の活用
携行可能なホワイトボードや、コンクリート等を活用して活動現場情報を4分割で記載管理することは、医療関係者に情報提供が必要な場面において、助言や救出プランニングに大いに効果を発揮します。情報進入管理板には各消防本部で様々な記載方法がありますが、入間東部地区事務組合高度救助隊では緊急消防援助隊等による災害派遣時に容易に携行積載できる「どこでもSheet」という物を使用しています。材質はポリプロピレン素材のシート厚み0.05㎜で、静電気を利用して様々な場所に張り付くことができ、ホワイトボードのように記載できるシートです。折りたたんだり端材に張り付けて使用することができるので、大きなホワイトボードを携行するより実用的です。
要救助者の観察結果を含めた情報を記載し、内部状況図を細部にわたり記載することで、医療関係者とともに救出プランはずっと立てやくすなりますし、医療関係者の理解も得やすくなります。4分割で集約することにこだわるのではなく、内部図面専用として準備することも有効です。また雨天時の対策も視野にいれた準備も必要です。場合によっては、安全が完全に確保されかつチェックリストにて要件が満たされ、さらに隊長が許可した場合については医師が進入しCS内で処置という状況もあり得ます。そういった場合については情報進入管理板の記載内容がとても重要になる事から、記憶で留められない場合はデジタルカメラ等を活用し、確実な情報源を持ち帰り情報進入管理板を有効的に活用し効率の良い活動を実施します。
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記載ポイント
1.活動長期になることから、進入隊員の活動時間等を必ず把握する。概ね20分1サイクルとし進入回数も併せて記載する。(作業内容や隊員のスキルによっては時間延長も考慮する)
2.内部情報を細かく記載することで、他機関との連携がスムーズになる
3.内部状況を直接視認してきた隊員に図を用いて記載させる
4.環境観察結果を記載する
5.要救助者情報では態勢や頭部の向き、挟まれなどの状況を記載する
6.雨天等で濡れてしまうと、記載内容が消えてしまう恐れがあるため、画像に残すか透明なビニールを被せて対応する
(3)進入活動
災害の被害はその発生機序などにより形態は様々ですが、倒壊した建物の中に作られる狭隘空間(Void:ボイド)に人が取り残され生存している可能性が過去の事例でも多く確認されていmす。まずどういったVoidが存在するか建物倒壊パターンの把握も含めて判断していく事も重要です。狭隘空間とは、「身動きが取れないくらいの狭い空間」でCSと呼び、具体的には震災時などで倒壊した内部にできるVoidで要救助者の生存率が高い場所での救助活動をCSRと称している。救助活動の中身には医療処置も含まれることから、CSR/Mと総称している。
※ Void:生存が強く期待できる空間。座屈した建物の倒れ方によってさまざまなVoidが発生する。
※ CSR/M:Confined Space Rescue and Medicine, コンファインドスペースレスキュー&メディシン
初動進入隊員はCS内の詳細情報を細かく把握し、救出活動へ移行した場合も併せて動線の確保に努めていき、情報を外部隊員に伝達し、情報進入管理板に記載します。さらに劣悪な環境化での活動はどんなに優れた隊員であっても、不安は多少なりとも生じます。通常時の災害とは違い、様々な体位変換をしながら進入していかなければなりません。そのような状況下でも確実な情報源として全隊員に周知するとともに、情報進入管理板を有効活用しています。
確認ポイント
1.進入間口がどの位であるか
2.何時の方向に屈折しているのか
3.内部ハザード状況はどうなっているのか
4.隆起している状況がどの位の長さが続いているのか
5.内部に緊急退避場所が設けられることができるのか
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CSRポイント
1.体幹部に近いポケットは使用困難な為、PPEはなるべくヘルメットに装着していくことが望ましい。
2.暗闇での活動になる
3.確保ロープが命取りになりかねない。よって確保ロープではなく誘導ロープで進入していく。
4.CSR独特の救出計画が必要
5.救出手段の大半が引きずり救助になる
6.確実な要救助者の観察及びパーシャル
3.PPE
⑴PPE(自己防衛装備)
- ヘルメット、ヘッドライト、ゴーグル、耳栓、警笛、防塵マスク、プロテクター、ケブラグローブ、安全靴
※本項目については、基本装備に加え+αとしている部分を御紹介したいと思います。
- CS(狭隘空間)の進入について、PPEを完全装備することは必須ですが、内部状況を確認した上で鉄筋、コンクリート、木材等の引っ掛かりをより少なくよりスムーズな通過をするために、プロテクター(ソフトタイプ)、防塵マスク(シングル)にするなどの使い分けをしています。
- 感染防止衣を着装しCS(狭隘空間)に進入すると、鋭利な箇所で破ける可能性が大きく要救助者に接触した際、出血が多い場合には血液感染を避けることはできない。
活動服内部に装備することで、血液による感染防止が可能である。
- 瓦礫コンクリート上を通過する際、肘、膝プロテクターを支点にしてほふく前進の要領で関節を動かしながら移動しますが、肘、膝のみでは体のバランスが悪く一点にかかる荷重も大きく、最悪の場合プロテクターがずれ破損する可能性があります。プロテクターに加え活動服内部の両上肢と両脛にレガースを装着しガムテープでしっかり固定することで、接地面を大きくとり安定したほふく前進が可能で、上肢、脛部分の保護に繋がります。
また砂利等の進入を防止するため活動服の袖はガムテープで固定し、裾については安全靴内部に収納するのではなく外側に出しガムテープでしっかり固定します。
〇要救助者に接触した際、初動の初期評価と全身観察は重要ですが出血を伴う負傷部位がある場合、ケブラグローブの下は素手であるため血液の付着は避けられません。そこでディスポグローブを装着したいところなのですが、CS(狭隘空間)内は鋭利な突起物等が多く接触すれば直ぐに破けてしまいます。ディスポグローブの上に耐切創性に優れたインナー手袋を装着することでディスポグローブの破損を防ぎ感染防止に繋がり、装着した状態で頭骨動脈の触知や初期評価、全身観察が可能になります。また、ケブラグローブの離脱着が容易になり、グローブストラップを取り付けることで暗所空間での紛失や落下防止に繋がります。ケブラグローブを離脱した際、肘付近までストラップを上げることで、要救助者にケブラグローブを接触させることなく観察が可能になります。
⑵PPE(要救助者用)
- ヘルメット、ゴーグル、耳栓、防塵マスク、ライト、警笛、圧迫止血用ガーゼ、飲料水。
写真35 (要救助者用PPE)要救助者用PPE
CS(狭隘空間)の要救助者用PPE搬送は、ウエストポーチ程度の大きさのバック内にコンパクト収納することで、搬送が容易でより多くの必要なPPEを要救助者に届けることができます。また要救助者から離れなければいけない状況でも、説明した上でバックを要救助者の横に置き、資器材や飲料水を提供することで不安をなくすことができます。
ヘルメットについては、バックに収納することができないので単独で携行します。
ここまで今村隆二 執筆
ここから 濱崎仁 執筆
おわりに「我々の仕事とは」
本誌面を通じて皆様の知識技術をご教授させていただいていることに感謝を申し上げると共に、「消防」という共通の職務を担う我々の「様:ざま」を、救いを求める人々のために全力を尽くさねばならないことは、共通の使命です。しかしながら、絶対に起こしてはならない事故が発生していることも事実です。
私たちは、「消防という仕事」を強く認識し、常日頃から活動しなければなりません。朝「いってきます」と出た玄関に必ず「ただいま」と帰ること、これが我々の職務なのです。「命を救うためには、どんな妥協もしない。諦めない。必ず救って、必ず帰る。」この言葉は私の大切な恩師から埼玉県のレスキュー隊員達に受け伝えられた教導です。
最後に、全国すべての消防職員が、健康で事故や負傷なく安全確実なうちに消防職務を完遂されますよう切に願います。ありがとうございました。
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