プレホスピタルケア 32巻5号(2019/10/20) p52-3
「研究」投稿
心肺蘇生時の救急救命士の静脈路確保において留置針の太さは蘇生成功率に関与しない
嶋田勇一1)藤井茂1)佐藤伸昭1)田中千春1)本橋一夫2)荒木祐一3)
1)かすみがうら市消防本部
2)土浦市消防本部
3)総合病院 土浦協同病院 救急集中治療科
著者連絡先
しまだゆういち
かすみがうら市消防本部 警防課 消防係
TEL 0299-59-0119
FAX 0299-59-3119
目次
目的
平成4年から特定行為として静脈路確保が実施され、平成18年からは救急救命士によるアドレナリン投与が実施されている。そして、平成26年の特定行為処置範囲拡大以降、病院前救護における医学的判断と現場活動の技術向上が求められているところである。
静脈路確保で必要となる静脈留置針の太さは個人の裁量で選択されている。そこで、心肺蘇生時(CardioPulmanary Arrest, CPA)の静脈留置針の選択状況について、留置針のゲージによって傷病者の予後にどの程度影響があるのかを調査し、改善点を明確にすることを目的とする。
対象と方法
土浦地区MC協議会で処置範囲拡大プロトコールが開始となった平成26年11月1日から平成29年12月31日の3年2ヵ月における特定行為実施事案を、茨城県 病院前救護 活動記録票から選び、その中から、静脈路確保成功例を抽出した。
静脈路確保成功例を2群に分けた。18・20Gの推奨ゲージ留置針を用いた18-20G群と22Gもしくは24Gの細い針を用いた22-24G群である。検討項目は両群の実施数と生存入院率とした。統計処理はFisher’s exact testを用いp<0.05を有意差ありとした。
結果
対象期間での静脈留置事案は722件であり、そのうちの5件を除外した(表1)。
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表1
除外した理由とその件数
留置針ゲージ数不明 2件
呼吸停止のみ 1件
ROSC後に静脈路確保実施したもの 1件
ショックで静脈路確保後にCPA移行したもの 1件
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実施数を比較したところ、G18-20G群に対してG22-24G群が有意に多かった。しかし生存入院率は両群に有意差はみられなかった(図1)。
図1
結果。実施数に差は見られたが生存入院率には差はなかった。
考察
救急救命士標準テキスト第9版 1)によると、CPAに対する静脈路確保の目的にあった適切なゲージ選択は、「十分な輸液速度を確保するため、口径は20G以上のものが望ましい」とされている。しかし、本研究からは2群の転帰に差がないことから、疑問が生じる。また「接触から10分以内にアドレナリン投与を行うことで1か月後 脳機能予後 良好率は高い」という報告もある2,3)。今回の結果から、CPAについては、ゲージにこだわらず現場で早期に最速で静脈路確保できるゲージ選択をするべきである。
さらに、早期アドレナリン投与を目指すためには、CPAの静脈路確保指示要請の包括化、静脈路確保困難症例に対しての骨髄穿刺の解禁が必要である。
その他輸液ライン作成時にアドレナリンを三方活栓に準備するようプロトコール改正することも有効であろう。
しかし、これらの提案にはデメリットもある。静脈路確保については傷病者の選択の誤り、骨髄穿刺ついては骨髄穿刺の手技に関するもの以外に確実に輸液路が確保できることから静脈路確保に対する向上意識が薄れる可能性がある。
最後に、本調査のリミテーションとして、実施個人の経験数及び静脈路確保失敗事例について検討は行なっていない。今後は、ショック時の静脈路確保も含めてゲージごとの蘇生成功率を検討していきたい。
結論
(1)静脈路確保で用いられる針は18Gおよび20Gより22G・24Gが有意に多かった。
(2)静脈穿刺針の太さで生存入院率は変わらない
(3)迅速にアドレナリンを投与するために考察を加えた
文献
1)救急救命士標準テキスト。へるす出版、東京、2015, p500
2)植田広樹、田中秀治、田中翔大、他:病院外心停止症例における救急救命士による早期アドレナリン投与の有効性。日臨救急医会誌(JJSEM)2018;21:46-51
3)Kosclk C, Pinawin A, McGovem H, et al:Rapid epinephrine administration improves early outcomes in out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation 2-13;84:915-20
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