月刊消防2021/2/1, p22-7
救助の基本+α
水難救助隊員の育成および訓練について
目次
1.東近江行政組合消防本部について
まず初めに、東近江行政組合消防本部について紹介します。当消防本部は滋賀県のほぼ中央、琵琶湖の東部に位置し(001)、東側の鈴鹿山系から西側の琵琶湖(002)までを管轄とし、管轄面積は約766㎢、管内人口は約25万人となっています。
当消防本部は、1本部5署4出張所からなり、職員数は298名で、救助体制は、管轄の西側に位置する近江八幡消防署に併設された訓練センターに消防本部直轄の高度救助隊(12名)、管轄の東側に位置する愛知消防署に特別救助隊(12名)を配置した、2方面体制としています。
001
東近江行政組合消防本部の管轄地域
002
琵琶湖に浮かぶ沖島
また、消防長から指名を受けた隊員で構成される水難救助隊と山岳救助隊を配置し、水難及び山岳救助事案にも対応しています(003)。
複雑多様化・大規模化する災害に、対応していかなければならないのが我々消防人ではありますが、ベテラン職員の減少や職員の経験不足から人材の育成は急務であり、どの消防本部(局)でも苦慮されていることと思います。
そこで今回、当消防本部の水難救助隊員の育成及び訓練について紹介します。
003
高度救助隊・特別救助隊隊章
2.養成隊員の指名・育成について
(1)聞き取り
当消防本部では、警防職員の教育を目的とし、基礎編、応用編、指揮編、救急編、火災調査編及び特別編といった分野毎で警防技術研修を実施しています。
その中の特別編に水難救助編を設け、水難救助基礎技術及び知識向上を図るとともに、水難救助隊員としての適性を確認します。(004, 005)
水難救助隊員を志す職員は多く、各所属で聞き取りを実施し、職員の希望が尊重されるように配慮しています。
004
警防技術研修の様子
005
この研修では基本泳力の確認の他、溺者救出や流水現場におけるスローバッグでの救助要領を実施しています
(2)指名
養成隊員の指名要件は、滋賀県消防学校が実施する特別教育水難救助教育修了者です。滋賀県消防学校の特別教育水難救助教育では2週間(プール訓練56時間・現地訓練(琵琶湖)14時間)で潜水基礎技術(座学・資器材取扱い)及び検索要領(環状検索・ジャックスティ検索)を学びます。
(3)養成訓練
この水難救助教育を修了した職員の中から養成隊員が指名され、2年間の養成訓練期間に入ります。水難救助隊員を指導者とした2ヶ年計画を作成し、4~12月は月一回、琵琶湖やダム、河川での訓練を水難救助隊員と合同で実施しています。
水難救助隊員として指名を受けるにあたり、現場での即戦力が絶対条件となるため、限られた訓練日数で現場レベルの水準まで養成隊員を育成する必要があります。そのため、自然環境下における潜水経験を充実させることに重点を置き、安全管理体制を徹底したなかで、初回の訓練から経験年数の長い隊員とバディを組んで水難救助隊員と同じカリキュラムの訓練を実施しています(006,007)。
水難救助隊との定例訓練のほか、冬期には養成隊員を対象としたプール訓練を計画し、基礎泳力強化及びフィンワーク習熟に繋げています(008)。
養成隊員の主な訓練内容を表1に示します。
006
養成隊員は信号及びトラブル回避要領を定めた水難救助隊の統一事項を徹底して、訓練を実施しています。沈錘付きブイの搬送(設定)は沈錘投下時における水中への巻き込まれに対処するため、必ずレギュレターを使用しています。要救助者を水面でバックボードに収容する際も、安全確保のため、同様としています。
007
流水域におけるホットゾーンでの活動は水難救助隊員が中心となるため、バックアップラインや中州救助を想定としたロープレスキューも定例訓練とは別に訓練を実施しています。
008
養成隊員は、水難救助隊員との合同訓練の他、基本技術の習熟を目的としたプール訓練を実施しています。3点(マスク・シュノーケル・フィン)取扱い・インターバル訓練に重点を置いています。
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表1
養成隊員の主な訓練内容
a.基礎技術 | フィンワーク(ダッシュ・ネックレス・立ち泳ぎ)
3点(マスク・シュノーケル・フィン)リカバリー 25mインターバル(潜水) |
b.初動活動 | 災害後方支援車(水難対応車両)から消防救急艇への資器材積み込み及び救命ボート設定
エントリー及びブイ設定 |
c.検索活動 | 環状検索・ジャックスティ検索
トラブル回避 要救助者収容要領 |
d.流水対応 | スイム及びライブベイトレスキュー
ラフトボート操船 バックアップライン設定 |
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(4)災害後方支援車(009)
水難救助資器材を常時カーゴに積載しており、車両後部にパワーゲートを設け、少人数で迅速な資器材の積み降ろしが可能となっています(010, 011)。
また、発電機とエアコンも完備しており、隊員のバックヤードとしても活用が可能となっています。
009
災害後方支援車
010
カーゴ内部
011
災害後方支援車の荷室最後部のカーゴに潜水資器材や潜降索付き沈錘を積載しています。
3.琵琶湖での水難救助活動について
(1)消防救急艇(はるかぜ)(012,)
乗員12名。琵琶湖における水難救助事案では、消防救急艇が出動し、水難救助隊と連携して救助活動を行います。
キャビン内には救急ストレッチャーを装備し、特定行為等の処置が行えます(013)。船尾には潜水活動用ラダーゲート及びステップを装備しています。
012
消防救急艇(はるかぜ)
013
船上で特定行為等の処置が行えます
救助現場がはるかぜ停泊港から近い沖島周辺の場合、水難救助隊は、はるかぜに搭乗して現場水域に向かいます。カーゴ1つ分の潜水資器材を積み込みするだけで、出航することができ、迅速に潜水活動へ移行できます(014)。
消防救急艇(はるかぜ)との連携訓練も行っています(015)。
014
はるかぜに搭乗する水難救助隊
015
消防救急艇(はるかぜ)との連携訓練。要救助者を船尾ラダーゲートから船内へ収容している様子。
4.検索方法について
当消防本部で用いている検索方法についてご紹介します。
(1)環状検索
zu_001
沈錘(アンカー)を中心として、これに細索ロープを結着しその一端を持って環状に検索します。半径5m(最大10m)の検索が可能。
zu_002
設定と検索がシンプルで迅速に行える方法です。
zu_003
基本は水底での検索ですが、琵琶湖では水底に水草が群生しているポイントがあるため、細索の絡まりや隊員の拘束を防ぐために、水底から一定の距離を保ちながらの検索も行います。
(2)ジャックスティ検索
zu_004
広範囲の検索を必要とする場合、両端に沈錘を付けた基導索(基線・30m)を水底に沈め、基導索に直角になるように細索ロープを展張して、第1沈錘から出発し、第2沈錘を回り第1沈錘に戻る方法です。
(3)岸壁検索(桟橋及び漁港での検索)
zu_005
岸壁及び柱にそって半円状もしくは並行に検索。(図5)
(4)車両検索
5名1組とします。
①リーダー②索端員③④索間員⑤水面待機
zu_006
1.環状検索にて車両を発見後、③④でマーカーブイ(016)を車両に設定。⑤は水面でマーカーブイの索詰めを実施。
016
マーカーブイ。マーカーブイはピラー等に設定します。
2.②③が人員及び車両情報を確認。(④は活動の障害にならない位置で待機)。②がリーダーに確認終了の合図を送った後、リーダーの指示により全員浮上(ブイに集合して浮上)。②は細索を撤収。
3.ブイにて②を中心に情報共有を実施。
zu_007
4.①②③がマーカーブイから潜降。②は陸上からロープを受け取っておき、車両に斜降線を設定。
②③で検索を実施(主②補助③)、要救助者発見後、ハンマーヘッドによる発見信号で①に伝達。①は最後尾潜降で活動する②③の後方で安全管理を実施します
zu_008
5.②③は①が待機する斜降線固定部まで要救助者を搬送。①はピン球(017)を浮上させます。
017
ピン球。ピン球はリーダーが携行し、要救助者を視認若しくは接触したタイミングで浮上させるよう、全ての検索の統一事項としています。
6.①は斜降線で陸上に救助開始(大きく一回)を伝達。
視界不良の場合、隊員①は②③にハンマーヘッドによる信号(救助開始)を先に伝達しておく。
zu_009
7.②③は要救助者の両脇を抱えて①の浮上速度に合わせます。④⑤は水面にバックボードを準備しておきます。②③が協力して要救助者を水面へ搬送し、④⑤と協力してバックボードに収容します。
5.おわりに
当消防本部における隊員育成は、本部独自の技術研修にて水難業務に対しての適性を確認し、次に水難救助業務に関する基礎知識や技術を滋賀県消防学校で学んだ後、2年間という養成期間を設け、より実災害に即した応用訓練を重ねて経験を積み、初めて水難救助隊員として災害対応に当たります。
水中という特殊環境下における救助活動は、専門的な知識、技術を確実に身につけなければなりません。チームでより安全、確実に任務を遂行するため、段階を踏んだ選考、十分な育成を行うことが必要不可欠であると考えます。当消防本部の取り組みが、少しでも皆様の参考になれば幸いです(018)。
018
高度救助隊集合写真
著者
消防士長 上林亮(かんばやしりょう)
東近江行政組合消防本部警防課第1部高度救助係
出身地:蒲生郡竜王町
消防士拝命:平成22年4月
趣味:DIY
消防副士長今井健嗣(いまいけんじ)
東近江行政組合消防本部警防課第1部高度救助係
出身地:蒲生郡竜王町
消防士拝命:平成24年4月(今井)
趣味:野球観戦
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