今さら聞けない資機材の使い方
目次
プロフィール
名前:吉富 宗一郎(よしとみ そういちろう)
所属:総社市消防本部
出身地:岡山県総社市
消防士拝命:平成24年4月
救命士合格:令和2年3月
趣味:サッカー観戦
1はじめに
今回「今さら聞けない資機材の使い方」を執筆させていただくこととなりました、岡山県総社市消防本部の吉富宗一郎です。
私が勤務する岡山県総社市は、岡山県の南西部に位置し、人口69,608人で現在も増加中です。総面積は211.90平方キロメートルで、地域の中央を北から南に岡山県の三大河川である高梁川が貫流しています。総社市の観光地として平成30年に日本遺産にも登録された鬼ノ城があります。鬼ノ城はいにしえから吉備津彦命による温羅(うら:岡山県南部の吉備地方に伝わる古代の鬼)退治の伝承地として知られており、標高400~600mの高さに築かれている古代の山城です。快晴時には、展望台から瀬戸大橋や四国の山々が一望でき絶景です。総社市にお越しの際は、ぜひお立ち寄り下さい。
さて、今回紹介する資機材は「聴診器」です。救急隊員なら誰でも使用することができる資機材ですが、今一つ自信を持って使用することが出来ていない資機材だと私は感じています。今回の執筆を通して私自身も学んでいければ思います。
2聴診器の歴史
「聴診器」は今でさえ医療現場では必ず使われている資機材ですが、その歴史は古く、1816年フランスの医師ルネ・ラエンネックが子供が木の棒の端を耳に当て遊んでいるのを見て、聴診器のメカニズムを発明しました。それまでは、患者の胸に直接耳を当てて音を聞いて心疾患などの病状を診察していたそうです。これに対し、ラエンネックは1本の筒形の木で出来た聴診器を使用し、その精度は遥かに確実だったそうです。その後、1967年にドイツの医師デイビッド・リットマン(現在の聴診器のメーカーであるリットマン)により、現在最も使用されている形の聴診器が開発されました。
3構造について
聴診器は、チェストピース、チューブ、耳管、イヤーピースから構成されています。(写真1)
写真1
チューブ
チェストピース
耳管
イヤーピース
チェストピースは直接皮膚に当てる部分で、救急隊が使用しているものはダイヤフラム面(膜面)とベル面の2種類の面を切り替えて使用する物が多いと思います。ダイヤフラム面(膜面)は高音域の呼吸音を聴取するのに適し、(写真2)ベル面は低音域の心音を聴取するのに適しています。(写真3)
写真2
ダイヤフラム面(膜面)
写真3
ベル面
チューブはチェストピースと耳管をつなぐ管であり、より太く、硬い物の方が雑音が入らず音が伝わりやすくなっています。
耳管は左右の耳に当てる屈曲した金属の管で、バネを内蔵して耳にはめやすくしています。
イヤーピースは耳管の先端に付いている耳に挿入する部分で、取り外し交換が可能になっています。
4使用について
まず、聴診器の装着は耳管が装着者から見て八の字になるように両手でしっかりと持ち、(写真4)イヤーピースを外耳道の方向に合わせて、耳にフィットさせる。(写真5)この時、フィットが甘いと周囲の雑音が入ってくるため注意が必要です。
写真4
装着方法1
写真5
装着方法2
チェストピースのダイヤフラム面(膜面)を使用する際は、面全体を傷病者の皮膚に密着させることを意識してください。(写真6)逆にベル面を使用する際は、皮膚に密着させすぎると聴こえづらくなるため、皮膚から離れないよう適度に密着させるよう注意してください。(写真7)
写真6
皮膚に密着させる
写真7
皮膚に密着させ過ぎない
チューブに傷病者の衣服やモニターのコードなどが接触すると接触時の摩擦音を拾ってしまうため聴こえづらくなります。(写真8)聴診時にはチューブに何も接触していないことを確認して聴診を行うことが大切です。
写真8
チューブへの接触を確認
聴診は静かな環境で行うことが最も重要だと考えます。私は、救急車のサイレンの音が邪魔をしないよう出来る限り現場滞在時又は車内収容後すぐに行なうよう心掛けています。
5聴診箇所について
聴診器は呼吸音や心音、腸管のグル音、血圧測定時のコロトコフ音などを聴取するための資機材です。その中でも今回は、聴診器の使用で最も頻度が高く、私自身苦手としている「呼吸音の聴取」に着目していきたいと思います。皆さんもあれ?これ聴こえてるよな?呼吸音減弱してる?といった経験が1度はあるはずです。そう言った不安を少しでも解消するために正しい聴診箇所を紹介したいと思います。
・前胸部(写真9)
聴取場所:上葉は鎖骨下胸骨右縁左縁、下葉は第7肋間鎖骨中線上。
上葉中葉に比べ下葉は呼吸音が聴取しやすかった。肺炎などの場合、座位では下葉で湿性ラ音が聴取される。
写真9
前胸部の聴診箇所
・側胸部(写真10)
聴取場所:腋窩中線上。
呼吸音の左右差が最もわかりやすい。外傷時の鑑別に有効である。
写真10
側胸部の聴診箇所
・背部(写真11)
聴取場所:第8肋間肩甲線上。
前胸部に比べはっきりと聴取することが出来た。その理由を専門医に聞いたところ、背部には聴診に邪魔になる臓器が前胸部に比べ少なく、また肺は力学的に背部側へ拡がるためとのことです。
写真11
背部の聴診箇所
今回調査した内容は、身長170センチメートル体重65キロ20代男性の聴診結果です。今回の調査を基に救急出動時に様々な傷病者に聴診を行いましたが、調査結果通りの箇所で聴診できる方もいれば、もちろんそうでない方もいました。はっきりと聴取できる箇所は、年齢、性別、体型等によって人それぞれ違うことが分かりました。今回の結果は一例に過ぎませんが、少しでも皆さんのお役に立つことができれば幸いです。
6応用
最後に現場での聴診器の応用的な使用方法をお伝えします。耳が遠い傷病者に対して意思疎通が困難な時があると思います。そういった時には、聴診器を傷病者に着装し、チェストピースに向かって話しかけることによりコミュニケーションを円滑に取ることができます。(写真12)
写真12
耳が遠い傷病者への聴診器の使用
7終わりに
今回執筆させていただいて聴診器について私自身改めて学ぶことが出来ました。今後の救急活動では自信を持って聴診して行きたいと思います。お読みいただきありがとうございました。
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