月刊消防 2021/04/05, p49
月に行きたい
ほんとうにほんとうのこと
失敗事例を振り返ってみると、実は後輩はとっくにミスに気づいていて、単に「誰にも伝えていなかっただけ。」と言う経験は誰にもあるだろう。よくよく考えてみれば、これはほんとうに怖いことだと思うが、紛れも無い事実である。階級も違うし年齢も違う。経験だって違う。そんな後輩が救急現場で「ほんとうにほんとうのこと」を言ってくれるようになるには一体どうしたらいいのか。最近の私の悩みはもっぱらそんなところある。
「おい後輩よ。救急現場は3人しかいないのは知っているよな?俺だって判断ミスはするんだから、言いたいことあったらなんでも言えよ。」うん、これは上から目線でダメだ。状況は何も変わらないだろう。「いつも助けてあげてるじゃん?だから救急現場では助けてね。」うーん。これは恩着せがましいというかなんというか。先輩の理想像として間違っている気がする。そもそも助けるのが先輩の役割なわけだし。言葉でなんとかしようとするのが間違っているのかな。
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「ウソつきの国」の著者、勢古浩爾さんは、本書の中で、ほんとうにほんとうのことを言うには、力の優位性(社内的地位、実績、年齢)が必要で、少なくとも対等でなければならないと言っている。さらには、下っ端や下請けが上司に「ほんとうのこと」を言えるはずがない。それでもほんとうのことを言うためには、最悪の場合、諸関係の破綻を覚悟しなければならないと・・・。どうやら「ほんとうにほんとうのこと」を言うのはウソをつく以上にエネルギーが必要なようである。
いろんな人に相談して考えた結果、行き着いた場所は「自分が経験的に知っていることは惜しげも無く出し切ってしまおう」ということだ。少なくともこの日本には、年齢や階級が対等な救急隊は存在しないだろうから、対等にできるものと言えば知識くらいしかない。よし。これでいこう。それはまるでシャワーのごとく最後の一滴まで出し切るんだ。教科書的なことから経験談、手持ちの論文まで出し惜しみはしない。そのあとは、「これが僕の100%です。」と一言添えておこう。これで知識は同等になるはずだ。経験と年齢を同じにすることはできないけど、知識レベルの壁なら、簡単に取っ払うことができるのではないか。知識の壁が無くなることで、「あれ?これってこの前先輩が言ってた症状じゃないですか?」なんて救急現場で教えてくれるようになったら、本当に嬉しいなあ。全てを出し切った僕は、さらにその次を教えるためにまたさらに勉強しなくてはいけなくなって、自分のレベルもますます上昇!なんて効果もあったりして・・。
まもなく40才になろうとする私と20代の隊員のでこぼこ救急隊。まさかまさかのちょっとしたミスが多くて、いつか大きな事件が起こってしまうのではないかとドキドキヒヤヒヤの綱渡り状態が続いている。果たしてこの救急隊は、真のチームとなって市民が望む救急隊に成長することが出来るのでしょうか。この本に出会えて私は本当にツイていた。今の年齢、今の階級、しかもこのメンバーで。これは小さな消防本部のごくごく小さな出張所で行われている、「ほんとうにほんとうのこと」なのである。
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