2022 雑誌 健康教室 2021年8月号
応急処置アップデート the movie
#17
溺水
今回は溺水です。動画では引き上げ後の処置を示しています。
目次
動画
ここでお知らせ。動画の作成をしている原口良介監督が、夏休みに佐賀県の高校の先生の前で講演することになりました。関連される先生方、楽しみにしていてください。コロナが落ち着いたら私も呼んでくださいね。
001
引き上げ後の流れは通常の患者と同じです。意識と呼吸の確認、救急車とAEDの手配、心肺蘇生となります
002
溺水での心肺停止ではまず初めに5回人工呼吸をします。これを「レスキューブリージング」と言います。可能なら、水面から引き上げた直後に行います。
003
飛び込み後に手足のしびれがある場合は頚椎損傷の可能性があります。首を動かすことは最小限にしましょう。しかしながら、この頚椎損傷は強調されている割には頻度は0.5%未満とされています1)
004
水温が低ければ保温を、水温が高く熱中症の危険がある場合は冷却をします。
005
溺れる時は大声を出し手足をばたつかれるイメージがありますがそれは間違いです。水面から口を出そうと必死で水をかき、力尽きて「静かに」沈んでいきます。子どもたちから目を離さないようにしましょう。
溺水のアップデート
1.救助の原則は「助けに行かない」
海や川で溺れている人を発見した場合は、周りに助けを求めて119番通用します。流れている本人は自分で浮いて待ち、救助者はペットボトルや浮き輪を投げ入れるか、近ければ棒、木の枝、タオルなどの一方を持って他方を溺水者に握らせます。プールで足が着く場合はそのまま助けます。
今回の動画の内容について原口良介監督と私とで議論がありました。「発見した後の行動」を入れるかどうかについてです。私は入れることを主張したのですが、監督は「助けに行くのであれば、安全管理を徹底することも強く伝える必要もあるので、動画の方向性が曖昧になってしまう」ため削除を主張しました。旭川近郊のH先生にも意見を伺ったところ「養護教諭が直面する事を考えると、絞るとしたら引き上げてから救急車が到着するまででしょうか」とことでしたので、引き上げ後の対処方法を動画にしています。
2.溺水で死ぬのはごく一部
溺水の症例報告では、ほとんどの溺水者はすぐに発見されて病院へは行かないことに注意が必要です。文献によると溺れた人のうち医学的処置が必要な人は6%未満であり、心肺蘇生が必要な人は0.5%に過ぎないとされています。また居合わせた人が救出した症例のうち心肺蘇生が必要だったのは30%でした2)。
3.予後は救出時間と意識状態で決まる
実際の症例では、溺れた人は死ぬか後遺症がなく復活するかのいずれかがほとんどです。サウジアラビアで14歳以下の溺水者99例を検討した結果3)では、22%が死亡しています。心肺蘇生は67%に行われているので、生存は45%です。溺れる場所で最も多いのはプライベートプールが82%、年齢は2歳未満が54%,、休日が85%となっています。患者の予後は救出までの時間および助けた時の意識状態と相関しており、救出時間が長いほど、もしくは意識状態が悪いほど予後も悪くなります。
4.水面で人工呼吸
水から引き上げたときに意識があれば急いで陸に上げます。意識がなければ水面に顔が出た段階で5回以上人工呼吸を行います。これにより生存率が3倍以上になるとされています。心臓マッサージは陸に上がってから行います4)。溺水は窒息であり人工呼吸しなければ助かりません。コロナ禍であっても人工呼吸をするためにはそれなりの準備が必要となります。例えばマスク越しなどの工夫が必要でしょう。
5.予防が全て
予防の原則を表1に示します5)。当たり前のことと思わずに一読されることをお勧めします
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表1
溺水を防ぐガイドライン
自分の安全のために
1)泳ぎ方と水中での安全な対処方法を知る
2)誰かと一緒に泳ぐ
3)指示に従う
4)飲酒厳禁
5)浮き輪は避ける。ライフジャケットを使用する
6)ライフガードのいる場所で泳ぐ
7)水に入る前に天気と水の状態を確認する
8)足がつく場所で泳ぐ
仲間の安全のために
1)助けるために、泳ぎ方と水中での安全な対処方法を知る
2)ライフガードのいる場所で泳ぐ
3)決まりを守る
4)子供の近くにいること。子供から目を離さない
5)ライフジャケットの使い方を知る
6)応急処置と心肺蘇生を知る
7)自分が安全な救助方法を知る
8)指示に従う
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文献
1)Trauma 2001;51:658-62
2)N Eng J Med 2012;366:2102-10
3)Ann Saudi Med May-Jun 2021;41(3)157-64
4)Resuscitation 2004;63:25-31
5)International open water drowning prevention task force, https://www.ilsf.org/international-open-water-drowning-prevention-guidelines/
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
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唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
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旭川医療センター病理診断科
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