月刊消防2021/8/1, p44-48
目次
担当者:
皆さん、第2回目投稿となります。愛知県常滑市消防本部の滝川といいます。
前回に引き続き
A. PWCレスキュー, B.他機関連携~水難編~をお届します。
レスキューチューブ、レスキューボードに続き、今回は水上バイク(PWC)での救助をご紹介させていただきます。ちなみに、当消防本部は、平成13年から水上バイクを導入し、捜索、救助、水面搬送、潜水補助、警戒艇等で活用しています。
A. PWCレスキュー
1.PWCレスキューとは
PWCとは「Personal Water Craft: パーソナル・ウォーター・クラフト」の略称で、英語圏で使われている言葉となります。日本では「水上バイク」や「水上オートバイ」と呼ばれるエンジンによるジェットポンプ推進を動力としたものを指します。水上バイクを活用した救助方法をPWCレスキューと呼びます。
PWCは一般的な船外機とは異なり、外部に露出したプロペラがないことから、安全性に優れています。浸水し瓦礫が浮遊している場所や浅瀬への乗入れ、砂浜等への接近が可能であり、要救助者を迅速に陸上へ搬送することができます。幅広い救助活動への活用が期待できることから、緊援消防援助隊での配備や各消防本部での導入が検討させるようになってきています。利点を表1にまとめました。
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表1
PWCレスキューの利点
①救助に人員を要さない
②救助に時間を要さない
③乗り降りや要救助者の搬送が容易
④安全性に優れて機動性が高い
⑤高い波、流れ等に強い
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2.レスキュースレッド
PWCレスキューでは後部に取り付けてある「レスキュースレッド」というものが必要となります(001)。スレッドには、ウレタンやFRP等の固形型(002)や、インフレータブル型のものがあります。どちらも高浮力を有し、水上バイクの後方へ連結(003)されていることから、要救助者をスレッド上に引き揚げやすく、安定した搬送が可能となります。
001
PWCとスキュースレッド
002
固形型スレッド
003
PWCとスキュースレッドを連結したところ
3.PWCレスキュー方法
(1)基本姿勢
水上バイクのドライバーは、波の中でも要救助者を見失わないように視野を広く持つ必要があることから、立ったまま操船することが基本となります。また、アクセルを右手で操作するため、ドライバーは左手を使い救助することが原則となります。その際、テザーコード(緊急エンジン停止コード)は右手首に装着します。ドライバーは、要救助者を左に見てアプローチします(004)。
ドライバー以外に救助員(以下レスキュアーという)がいる場合は、スレッド上に乗り活動します。通常は視野を広く持つために四つん這いで乗ります(005)が、高速時や波が高く不安定な状況では腹這いで乗ります(006)。いずれの場合もスレッド前部にあるストラップを両手で握ります。
004
ドライバーは立ったまま操船する。要救助者(写真赤丸)を左に見てアプローチする
005
四つん這いのレスキュアー
006
腹這いのレスキュアー。白丸はストラップを握っているところ
(2)PWCレスキューの4パターン
1)意識あり+ドライバー単独
a.要救助者に声を掛けながら接近します(007)。レスキュアーがいれば救助方法を共有します。
007
要救助者に声を掛けながら接近
b.十分に減速しながら要救助者を左に見て接近し、大きな手振りと声で要救助者自ら左手を挙げるように促します(008)。
008
要救助者自ら左手を挙げるように促す
c.要救助者に近づいたら、ドライバーは左手を差し出します。要救助者がドライバーの手を掴もうとしたらドライバーは要救助者の手首を掴みます(009)。
009
ドライバーは要救助者の手首を掴む
d.手首を掴んだら、水上バイクの前進する力を利用し、掴んだ手で補助しながら体全体を使い後方のスレッドに引き込み(010)ながら乗せます。確実に乗ったことを確認し、要救助者の手を離します(011)。
010
要救助者を後方のスレッドに引き込む
011
要救助者がスレッドに確実に乗ったことを確認したら要救助者の手を離す
e.要救助者にスレッドのストラップを両手で掴み、それ以外の場所を触らないように指示します。スレッド上で安定した姿勢でいるのを確認するか、水上バイク後部席に座らせ搬送を開始します。
2)意識あり+ドライバーとレスキュアー
a..b.c.d.は1)と同様です。
e.ドライバーは要救助者がスレッドに乗るまで掴んだ手を離さないようにします。レスキュアーは要救助者に声を掛け、乗る場所を指示し要救助者がスレッドに乗るのを補助します(012)。スレッド上では、要救助者に腹這いになるように指示します。
012
レスキュアー要救助者がスレッドに乗るのを補助する
f.ドライバーは、要救助者がスレッド上に乗ったことを確認し、手を離し発進準備をします。レスキュアーは、腹這いに寝かした要救助者の上から覆いかぶさり振り落とされないよう確保します(013)。レスキュアーは自分の姿勢が安定したらドライバーに出発の合図を出し搬送開始します。
013
レスキュアーは要救助者の上から覆いかぶさり確保する
3)意識なし(レスキュアー先行飛込み)
スピードを重視する方法です。
a.ドライバーは、要救助者に声を掛けながら接近します。意識が無いことを確認したらレスキュアーと救助方法を共有します(014)。
014
レスキュアーと救助方法を共有
b.ドライバーは十分減速し要救助者に近づいたところでレスキュアーに飛び込むように指示します。レスキュアーは飛び込んだら(015)素早く要救助者を確保します。
015
要救助者に近づいたところでレスキュアーは飛び込む
c.水上バイクは、その場から離脱し再接近の準備をします。
d.レスキュアーは、要救助者を確保したら左肘の少し上を保持し、要救助者の左手を高く水面上に挙げ、可能な限り気道確保を行い(016)水上バイクの再進入を待ちます。
016
要救助者の左手を高く水面上に挙げ、可能な限り気道確保を行う
d.ドライバーは、レスキュアーが要救助者を確保したのを確認した後、要救助者を左に見て再進入します。レスキュアーはドライバーが要救助者の左手を掴むまで要救助者の左手を挙げ続けます(017)。
017
ドライバーは要救助者を左に見て再進入
e.ドライバーは、要救助者の左手首を掴み、後方へ送り出します(018)。掴んだ手で要救助者がスレッドに乗るのを補助します。
レスキュアーは、要救助者が水の流れで横になった瞬間に、要救助者の左腕から手を離し、両手を要救助者の下へ潜らせスレッドのストラップを握り、タイミング良く両肘で要救助者をスレッド上へ持ち上げます。
018
ドライバーは、要救助者の左手首を掴み後方へ送り出す
f.ドライバーは、要救助者がスレッド上に乗ったことを確認し、手を離し発進準備をします。レスキュアーは、腹這いに寝かした要救助者の上から覆いかぶさり振り落とされないよう確保します。姿勢が安定したらドライバーに出発の合図を出し搬送します。
4)意識なし(レスキュアー先行飛込みなし)
レスキュアーの安全を重視する方法です。
a.ドライバーは、要救助者に声を掛けながら接近します。意識が無いことを確認したらレスキュアーと救助方法を共有します。
b.ドライバーは、十分減速し要救助者に近づきレスキュアーに入水するよう指示します。レスキュアーは、スレッド右側最後部のストラップを右手で掴みながら後方から入水します(019)。
019
レスキュアーはスレッド右側最後部のストラップを右手で掴みながら後方から入水する
c.ドライバーは、レスキュアーが要救助者に届くように船首を右に振り進行します。レスキュアーは右手をストラップから離さないように要救助者に近づきます。要救助者が手前まで来たら、レスキュアーは右手でストラップを握ったまま水中に潜り、要救助者の正面から腰付近にタックルするように左肩~腕付近に乗せ確保します(020)。
020
要救助者の正面から腰付近にタックルするように左肩~腕付近に乗せ確保する
d.ドライバーは、要救助者の腰付近がスレッドより高い位置になった時にシフトレバーをリバース(バック)にします(スレッドの後部が沈むため)。その後、要救助者がスレッド上に乗ったらレスキュアーとタイミングを図りシフトレバーを前進に戻します。
レスキュアーは、c.の姿勢から一気に要救助者の上半身をスレッド上に乗せます(021)。その後、要救助者の股間に膝を入れスレッド上方へ押し上げ(022)、要救助者の上から覆いかぶさり陸まで搬送します。
021
要救助者の上半身をスレッド上に乗せる
022
要救助者の股間に膝を入れスレッド上方へ押し上げる
B.他機関連携~水難編~
当消防本部管轄には、警察署が2箇所(内1つは空港島内)、海上保安庁の基地があり、連携する公的機関に恵まれた環境にあります。中部国際空港を管轄に抱えていることから、テロや航空機事故等大きな災害発生も懸念されます。そのことから、周辺の消防本部の連携強化は勿論のこと、地域での連携を強化することにより、一番重要である初動の強化に力を入れ取り組んでいます(023,024)。ここでは、警察と海上保安庁との連携の取り組みについて、水難救助を例に上げご紹介させていただきます。
023
他機関連携1
024
他機関連携2
1.警察との連携
管轄内の常滑警察署は、警備艇を1隻保有しており、港に常時係留されています。そのため、操縦・運航は警察、最前線での救助は消防と役割を分け、事故発生時には消防の水難救助隊員が警備艇に乗船し、連携を図っています。そのほかに、テロ対応訓練、通常の救急支援、漏油処理、空港内の全ての事案では、警察が同時出動する等様々な取り組みを行っています。
2.海上保安庁との連携
管轄する中部国際空港には、海上保安庁(中部空港海上保安航空基地)があり、巡視艇1隻、小型ボート2隻、ヘリコプター2機を保有しており、且つ潜水士も常駐していることから、あらゆる救助活動で連携を図っています。また、船舶火災等に限定的だった業務協定を平成30年に見直し、救急・救助活動でも連携できるよう新たに見直しました。そのことから、水難訓練は勿論のこと、火災・救助訓練や救急業務実習、相互の研修等を年間を通して実施し、連携の強化に取り組んでいます。
3.連携の意義
このように、消防力のみでは限界があることも地域の各機関が一体となり連携することによって、迅速な救助活動が可能となります。それぞれ保有している資機材や人員も異なることから、それらを相互に補填し合い、できないことをできるようにします(救えない命をなくす)。「機関は違えど頂きはひとつ」。救助という同じ目的に向かい、連携活動の強化に取り組んでいます。そのためには、普段から「顔の見える関係を構築」し、現場で助言・相談・実行できる仲でなくてはなりません。
当消防本部は、海上保安庁、警察等公的機関等に恵まれていますが、皆さんの消防本部でも、補いたいところ(弱点)はあるのではないでしょうか。自己完結にこだわるのではなく、連携は要救助者を救うための1つのツールとして考えてはいかがでしょうか。
終わりになりますが、掲載させていただいた内容が皆さんの参考なれば幸いです。
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