世界陸上400メートルハードル銅メダリスト為末大選手による「走り方教室」に小学6年生の甥っ子が参加した。走り方教室後、質問タイムがあり、甥っ子は「失敗した時、どうしていますか。」と質問した。すると「大きな失敗は、オリンピックの時に転んだこと。気が付いたら、空が見えていた。そして、予選落ちしてしまった。その時にとても落ち込んだが、ふと、よく読んでいた漫画の主人公のことを思い出した。どの漫画の主人公にも必ずピンチが訪れる。そして、ピンチを脱出できている。だから、自分もこの後結果を出したら、とてもかっこいいストーリーになるのではないか。こう思い直して頑張ることができた。」と答えがかえってきたらしい。オリンピックという大舞台での失敗から、このような考え方をしている為末大選手に感銘を受けた。
後輩救急救命士から「この前、12誘導心電図の胸部誘導の電極位置がずれていて、搬送先の医師に怒られました。それから、急性冠動脈疾患疑いの事案でも、12誘導心電図を装着しないで四肢誘導のみで搬送しています。」と告げられた。当消防本部では、全救急車に12誘導心電図のリードが積載されている。後輩救急救命士は搬送先病院の医師に指摘されたことで、12誘導心電図装着への抵抗があり使用しないという考えになっているのだ。
その話を聞いて私は、最近の救急現場でしてしまった判断ミスの話をした。「吐血が1例、窒息が1例。別々の心肺停止事案で、吸引処置後、ビデオ喉頭鏡で気管挿管を実施した際、唾液、分泌物、出血が画面に付着して視野不良となりビデオ喉頭鏡での気管挿管を断念。マッキントッシュ型で気管挿管を実施することで気管挿管を実施できたが、気道確保までに時間を要してしまった。」
さらに私は「救急救命士として活動する上で、命に関わるミスやプロトコール違反などはあってはならないことであるが、救急現場活動する上で、失敗を恐れていては成長しない。若い救急救命士には失敗を恐れて躊躇して欲しくない。失敗を恐れず挑戦する。失敗したら、その原因やその回避方法を考える。救急車内の資器材をフル活用して観察・処置・判断をしてほしい。」と、為末大選手の話と一緒にした。
後日「今日、12誘導心電図の装着訓練お願いします。」と後輩救急救命士が言ってきた。嬉しい言葉だった。胸骨角(前胸部でポコッと飛び出す部分)を探し、第2肋骨のくっついているところから指でなぞって下に動かし、胸骨右縁第4肋間にV1の電極を付ける。こんな感じで、説明しながらV6まで電極を貼り、12誘導心電図波形を印刷して、心電図所見を読み取る訓練をした。
私は、救急隊長となり、傷病者を医療機関へ引き継いだ後、本当にこの活動で良かったのかと自問自答することもあり、日々振り返ることが大切であると感じている。積極的に取り組む失敗には価値がある。次への成功のためのチャンスである。
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