近代消防 2021/11/10 (2021/12月号)
救急活動事例研究 56
単管パイプが車内の男性を貫通した事故
丹羽広域事務組合消防本部丹羽消防署
佐橋章則
目次
著者
読み仮名 さはし あきのり
名前 佐橋 章則
所属 丹羽広域事務組合消防本部
出身地 愛知県西春日井郡西春町
消防士拝命 平成9年
救命士合格 平成21年
趣味 料理
1.はじめに
私の住む愛知県は日本列島のほぼ真ん中に位置する(001)。54の市町村を抱える愛知県の北西部(002)に大口町・扶桑町があり、この二町を合わせて丹羽郡と呼び丹羽広域事務組合はこちらを管轄している。赤く囲われたエリアの北が扶桑町、南が大口町である。国道41号線が南北に走行している。この国道41号線上で単管パイプが車内の男性を貫通した事故が発生した。この事故について、ドクターカーとの連携に重点をおき報告する。
001
愛知県は日本列島のほぼ真ん中に位置する
002
愛知県の北西部に大口町・扶桑町がある
2.事例
今回の事案は大口町地内で(003)夜間帯に発生した国道上普通自動車の単独事故である(004)。男性一名が穿通物により車内に固定されていた(005−007)。
プレ・アライバルコールの情報からドクターカーはすでに要請済みであった。救助隊の現着後程なくドクターカーも現着した。救助隊とドクターの協議の末、安全管理下で、静脈路確保の処置がされた(008)。傷病者の安定化で生まれた時間的な余裕から、救助隊は緊急度に加え重症度にも留意した活動ができた。即ち、救助活動による病態の悪化を防ぎつつの活動となった。
まずは、前後のドアを切断(009)。次にBポスト切断した(010)。車両の右側面が開放できたところでパイプの両端を切断した(011)。救助隊は意識のある傷病者に声かけをしながら最新の注意を払っての活動した。救助後、ドクターカーにてさくら総合病院へ搬送した(012)。
時間経過を表1に示す。バイタルサインの経過を表2に示す。
傷病名は腹部杙創・外傷性肝損傷・外傷性小腸損傷・右第11肋骨粉砕骨折であり程度は重症。病院では肝臓破裂に対して部分肝切除術、小腸切除術が行われた(013)。傷病者はICUに入室後第6病日で一般病棟へ移った。
003
今回の事案は国道上の大口町地内で発生
004
現場写真。南に立ち北方面を撮影。完成前の中央分離帯に単独で突っ込んだ状態
005
北に立ち、南方面を撮影。仮説の中央分離帯が大破し、複数の単管パイプが車両フロント部分に突き刺さっている。
006
運転席ドアを開放し確認すると、単管パイプがフロント部分を貫通している。
007
そのまま傷病者の右上腹部を貫き、80㎝程背中側へ飛び出ている。
008
救助開始前に看護師による静脈路確保
009
前後のドアを切断
010
Bポスト切断
011
パイプの両端を切断
012
救助後、ドクターカーにてさくら総合病院へ搬送した
013
術中写真。肝臓の一部欠損
表1
時間経過
表2
救助活動時の傷病者バイタルサイン
考察
深夜帯における特殊な救助事案であったが、傷病者は良好な経過を辿った。重大案件にも関わらず救命と良好な経過が得られたのは現場での早期の医療介入によるところが大きい。
救助開始と救助完了の血圧を比較すると、救助開始時はショックバイタルであるが救助完了時は増悪することなくむしろ血圧の上昇が確認できる。救助現場での早い医療介入で、傷病者は安定した状態を保つことができた。救助隊の活動中に受け入れ先のさくら総合病院では、ドクターカーからの情報を元にスタッフの緊急召集、手術室の準備が同時進行で進められたと聞いている。これにより、傷病者搬入後、迅速な手術開始が可能となった。
現在、愛知県内において深夜帯でのドクターカー運用を実施している医療機関はごく僅かである。これは事案の発生する場所や時間(特に夜間帯)によっては傷病者が一定水準の医療サービスを平等に受けることが出来ない可能性を示している。全国的に見ても夜間帯におけるドクターカー運用は非常に少なく、夜間におけるドクターカー需要に対する大きな課題となっている。当消防本部では幸いにもドクターカーに関して恵まれた立場にある。通信指令室で119番通報内容からドクターカーを要請する場合は原則としてキーワード方式によるリストを用いている。しかし、さくら総合病院からは「リストにこだわることなく呼んで頂いて構わない」との話があり、救急隊は出場時の情報やプレアライバルコールの内容から判断しリストにこだわることなく要請している。また当消防本部では災害に備えた対策訓練を毎年1回は実施している。その際にドクターカーに参加を要請している。災害対策訓練のなかで消防との連携や安全管理について医師の視点で確認を求めている。
結論
1)単管パイプが車内の男性を貫通した事故を経験した
2)早期の医療介入により傷病者は良好な経過を辿った。
3)当消防本部でのドクターカーの役割について考察を加えた。
ここがポイント
よく助かった症例である。生存できた原因は何と言っても運が良かったことだろう。パイプがあと少しずれていれば即死していてもおかしくない。次に適切な医療介入があったこと。肝臓損傷があったことから、受傷から開腹手術までの時間がかかれば致死的な出血性ショックになる可能性があった。
この事例のように、病院との連携がうまく取れている消防本部は少ないだろう。他の消防が望んでも手に入らない、丹羽広域消防はこの恵まれた環境を上手に利用してもらいたい。
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