月刊消防 2022/07/01号 p66-7
最新救急事情(230) マスクの弊害
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230216最新救急事情(230)マスクの弊害
今年も夏がやってきた。原稿が出る今年の7月1日ではまだ新型コ ロナ対策でマスクは必須のままだろう。私のような運動量が少ない 人間にはマスクをしていてもそれほど苦にはならないが、それでも たまに走ったりするとマスクが邪魔だと感じる。救急隊員はコロナ 前からマスクをしているから大丈夫なのか。もっと年齢が下がって 、小学生が暑い中マスクをして走り回っているのを見ると気の毒だ なと思う。
運動にあまり影響しないらしい
スポーツ時にマスクをしているとどんな影響があるのか。メタアナ リシスの論文が出ている1)。2017年から2021年までの過 去5年間の論文をまとめたものである。マスクをして運動する論文 は5年間で633も出ているというから驚く。そのうち、 メタアナリシスに用いたのは8編である。
マスクしての運動は、自覚症状の悪化が主で血液データとしては変 化がないことが示されている。自覚症状としてはマスクをしない場 合に比べてマスクをすることによって被検者の25% が心拍数の変化や呼吸困難感を、37.5%が主観的運動強度( この運動は楽だ・きついという尺度)の変化を、50% が呼吸機能の変化を、37.5%が不快感を自覚した。一方、 客観的の指標、血中酸素飽和度、血圧、 血中乳酸濃度は明らかな変化は見られなかった。この結果から筆者 らは、マスク装着しての運動は危険性がないとしている。
ドライアイになる
マスクをしていれば息が目の方に上がってくるので、ドライアイに なるのは当然かもしれない。中国で6-79歳に6925人にアン ケートを取った結果がある2)。マスク着用でドライアイの症状が 出た・ひどくなったと答えた人は547人(8%)であった。 また、過去にドライアイの症状がなく、マスクによってドライアイ になったと答えた人はん419人(6%)いた。 ドライアイになりやすい・悪化しやすいのは20歳以上、女性、 高学歴、メガネもしくはコンタクトレンズを使っている、以前から ドライアイであった人である。
高齢者は聞こえづらくなる
マスクは口を覆うから、相手はこちらの声を聞き取りづらくなるの は当然だろう。特に高齢者ではもともと聞こえづらいところにマス クで口を覆うことで、こちらの言っていることがわかってもらえな いことは救急隊なら数多く経験しているはずである。論文では、 健常者16名、中等度難聴の14名に対してマスクの有無で聞こえ がどう変わるか検討した3)。 発声者は一定の文言を65dBで話す。方法は3種類。 マスクなし、サージカルマスク、KN95/FFP2マスク( 日本のN95マスクと同等)。これを無音の環境と55dBの環境 音(筆者らはカクテルパーティーレベルとしている)の二つの環境 下で試験した。評価方法は発声者が何を言ったか尋ねることで行な った。 結果として、健常人でもKN95/FFP2マスク越しでは55d B環境音下で有意に発声者の発言内容が聞き取りづらくなった。 中等度難聴の患者群はもっと顕著で、静かな環境でも55dBの環 境でもサージカルマスクをつけることにより有意に聞き取りづらく なり、KN95/FFP2マスクではサージカルマスクに比べてさ らに有意に聞き取りづらくなった。
マスクに含まれるマイクロプラスチック
マスクにも製品によるがプラスチックが含まれている。これが日光 などで劣化粉砕されてできるマイクロプラスチックが人体や地球環 境に悪影響を及ぼすという論文もインドから出ている4)。 マイクロプラスチックが人体に入る経路は口や鼻だけでなく、皮膚 からも体内に潜り込むらしい。これにより人体の多臓器に障害をも たらす。これは家畜や野菜を経由して人体に入り込んでも同様であ る。また筆者らはマスクそのものがゴミとなって鳥や海の生物に悪 影響を及ぼすとも述べている。
筆者らの言いたいことはわかるが、マスク程度でそんなに人体に害 になるのだろうか。言い過ぎのような気がする。
新型コロナとマスクの現在の立ち位置
海外、例えばハワイなどではマスク着用義務が解除された。公衆衛 生の立場から新型コロナとマスクの関係を論じた論文が出ている5 )。
新型コロナの流行当初からマスク着用の意義を探す研究が行われて きた。マスクには感染拡大防止があるはずだと研究を重ねてきたの たが、見出されたのは「社会的意義」であった。この「 社会的意義」とは何か。筆者らはヨーロッパ5カ国413名にイン タビューを行い、マスク着用の意義がパンデミック最初の1ヶ月で 大きく変化したことを発見した。2020年春にはマスク着用は少 数の異端に対する非難の対象であったが2020年秋には逆にマス クをしないことで非難されるようになった。マスク着用は非言語コ ミュニケーションの道具となった。さらに、マスク着用は自分の政 治的な立ち位置を示すことにもつながった。マスク着用は感染防止 の観点やエビデンスの問題に加えて、社会的にも政治的にも議論が 必要である、と筆者は述べている。
マスク一つに政治的意味合いを持たれるのはどうなのだろう。効果 があれば付けて、効果がなければ外せばいいだけだろう。インドの 論文といいこのドイツの論文といい、民族の違いを感じる。
文献
1)Asín-Izquierdo I: Sports Health. 2022 May 4;19417381221084661 Online ahead of print. 2)Sci Rep 2022;12:6214 3)Tofanelli M:J Am Acad Audiol 2022 May 5, Online adead of print 4)Shukla S: Chemosphere 2022 Apr 30, Epub ahead of print 5)Front Public Health 2022;10:829904
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