月刊消防 2022/07/01, p70
空飛ぶクルマ
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小学生が消防署へ消防教室に訪れた。消防署見学のあと、質問タイムがあり、小学4年生から様々な質問が飛び交った。「なんで消防車と救急車の電話は119番ですか?」若手救急隊員が返答に困っていたので、私が説明した。「ダイヤル式電話機の時代の大正15年は、消防署への通報は112番だったけど、間違い電話も多く、昭和2年から現在の119番が消防署への緊急通報の番号になりました。112番より119番の方が、ダイヤルが戻る時間が長くなるため、その間に心を落ち着かせることができると言われていましたが、今では、ダイヤル式の電話が使われなくなりました。」過去にも小学生から同じ質問をされた事があったため、私は回答することができた。
若手救急隊員は、今まで小学生の質問は「火事のとき水がなくなったらどうするの?」「消防車にはどんな種類があるの?」「出動する時の服や装備の重さは?」といった質問が多かったが、119番の由来の質問は初めてであったと話した。
数日後、中学生が職場体験に訪れた。体験の1日目が終わり、1人の中学生から若手救急隊員へ「聴覚障害者が救急要請する時、どのようにすれば救急車が呼べますか?」若手救急隊員は「電話での119番通報だけじゃなく、FAXでも119番通報できるよ。」と回答した。何気ない中学生からの質問であったが、若手隊員は、年間数件しかない救急事案の中に、聴覚障害者もいるし、傷病者に寄り添った救急対応について考えることになった。
数ヶ月が経った救急事案で、聴覚障害者からFAXで救急要請があり、私と若手救急隊員を含めた3名で出動した。若手救急隊員がファーストコンタクトして、私は、あとからメモ用紙とボールペンを持って行くと、若手救急隊員が、手話でコミュニケーションをとっていた。筆談よりも圧倒的に早く、状況把握ができている。私は、その姿を見て驚いた。いつの間に手話を覚えていたのか。何気ない職場体験に来た中学生からの質問がきっかけとなり、聴覚障害者が災害時にどのような状況になるのか考え、手話を勉強するきっかけとなったと知らされた。
東京大学物理学専攻教授の上田正仁氏によると、「自ら考え創造する力」の要素として、以下の3つを挙げている。常識だと考えられているところに課題を見い出す「問題を見つける力」、自分で見つけた課題に取り組み、問題点を整理・分析することで答えを出す「解く力」、成果の出にくい問題を粘り強く考えつづける「諦めない人間力」である。「自ら考え創造する力」を深めるには、ふと頭に浮かんだことをそのままにせず、書き留めて整理・分析し、知識を関連づけて本質を抽出、自分なりのアイデアを生み出していく、という過程が必要となる。若手救急隊員は、自分で考え、聴覚障害者への救急対応に何が必要か考え、手話を勉強していたのである。
若手救急隊員は、誰に対しても安心感を与えられる救急救命士でありたいと強く語った。
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