月刊消防 2023/08/01, p73
空飛ぶクルマ
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先日、救急車内で傷病者へ「あなたの生年月日と名前を教えて頂けますか」と聞くと「何!? 私がこんなに苦しんでいるのに、生年月日や名前を名乗らないと、消防は運んでくれないのか?」と怒られた。それを聞いていた若手隊員が、「かなり痛みますね。救急車は病院まではここから10分くらいかかります。こんなに痛くてたいへんな時に色々お聞きするのは申し訳ないのですが、お名前と生年月日だけ、教えて頂けますか。」と質問すると、怒らずに教えてくれた。
救急搬送後、若手隊員は病院研修中の話をしてくれた。右大腿骨頸部骨折で救急搬送された傷病者(80歳女性)へ看護師は「今日は、怪我されて大変でしたね。」と話しかけていた。若手隊員は、病院研修中にその傷病者と話す機会があり、「さっきの看護師さん、私を家族のように心配してくれてやさしかった。」と言っていたとのことだった。病院研修中の経験から若手隊員は共感をもった質問をしていたのだ。
次の当務で、この若手隊員と火災出動した。質問調書を取るときに私は家の世帯主へ「すみません、あなたが火災に気づいたのは、何時何分頃で、どこの部屋にいて、どこから炎を見ましたか?」と聞くと、興奮している世帯主から「おい、あなたは俺を疑っているのか。家が燃えて、俺は今夜寝るとこもないんだぞ。犯人扱いするとは、ふざけやがって」と激怒された。このやりとりを聞いていた若手隊員が間髪入れず世帯主へ「たいへんでしたね。私たちもいろいろな現場に出動していますが、火災で家が焼けるのは、本当に辛いと思います。ただ、本人とご家族に怪我がなかったのだけ、本当に良かったですね。そんな現場に何度か出ていますが、深夜の火災は特に危ないですね。」と雑談を交えて質問すると「いやぁ、本当にそうです。無事で良かったです。まずは、命さえあれば、住むところはなんとかなります。」と話してくれたのである。
私は若い人たちに対して、感じる力、共感する力が弱くなっていると思い込んでいた。SNSの普及により、情報のやりとりは以前よりもはるかに緊密かつ大量に行われるようになったが、その一方で、人と人との直接のふれあいが減っていると思っていたからである。だが、若手隊員は、他の人の気持ち(喜怒哀楽)を理解して、自分のこととして話していた。病院研修での経験から、どのように相手に質問することで「共感」を伝えられるか考えていた。
「共感」とは、相手の気持ちに寄り添うこと、真摯に耳を傾けること、想像力を鍛えること、相手の立場に立つことを深く考えることである。私も若手隊員から学んだ、傷病者の心情に共感できるコミュニケーションを心掛け現場活動していきたい。
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