月刊消防 2023/08/01号 p76-7
救急道具の評価
目次
はじめに
救急活動では色々な道具を使用する。今回は最新の文献にはどう書かれているかお伝えする。
バックボードは使わない
バックボードはもともとは戦場で負傷兵を戸板に縛り付けて運んだことに由来する、と昔読んだ覚えがある。20年前に日本に紹介された時は爆発的に普及したが、現在は使用を控える方向になっている。2022年に出た論文1)はイスラエル国防軍での取り扱いを中心に紹介している。それによると、(1)バックボードが脊髄損傷の悪化を防ぐという論文は存在しない。(2)有害事象が頻発する。皮膚の痛み、褥瘡形成、低体温、換気抑制など。(3)バックボードを使うのは以下の患者に限ること。・巻き込まれた患者の救出・明らかな変形や受傷機序で脊髄外傷の可能性が高い患者・意識不明の患者。
外傷があれば無批判にバックボードに固定していた時期(全身固定期)と、症例を選ぶようになった時期(脊椎運動制限期)とで脊髄損傷の発生率を調べた文献2)では、これら二つの時期で脊髄損傷の発生率は変わらないとしている。全身固定期は無駄に固定をしていたことがわかる。
ネックカラーも使わない
ネックカラーについても、効果がはっきりしないのに有害事象はたくさんある。消防で使っている硬いネックカラーと、病院で患者の首に巻いている柔らかいネックカラーとの比較をした論文3)では、硬いネックカラーの方が首の動きを制限する効果はやや高いものの、神経学的な効果は変わらないとしている。別の論文4)では硬いネックカラーは柔らかいカラーと比較して、痛みが強く、興奮する患者の割合を増やすがカラーによる神経学的な有害事象はなかったと報告している。
ネックカラーを巻くと頸部の血管を押さえつけるため、収縮期血圧と心拍数を低下させ、総頸動脈と内頸静脈の両方で血液量を減少させるため、ネックカラーは頭頸部の外傷には悪影響を及ぼす可能性がある5)。
AEDは機種を選ぼう
読者の消防ではAEDはどこのを使っているだろうか。会社別でAEDの比較が出ている6)。オーストリアの論文なので、向こうで使われているAEDであるが、性能がかなり異なるようだ。機械は4社から出ている5製品。オーストリアの警官が使用したAEDのデータ350例を取り出し解析したものである。日本でも売っているフィリップス社製の製品は電極を貼るとすぐ心電図の解析が終了したのだが、他社製品では5秒かかったものや12秒かかったものもあった。電源を入れて放電されるまでの時間も、フィリップス社製のものは平均45秒で済んだが、他社製品では69秒かかったものもあった。
調べると、この論文で扱っているAEDは6年くらい前に発売されたものなので、現在はもっと迅速に解析・放電できるだろう。それでも、人の命がかかっているのだから、良いものを選びたい。
ビデオ付きラリンゲアルマスク
ビデオ喉頭鏡は広く普及している。ならば次は上気道エアウエイデバイスに付けようということで、ラリンゲアルマスクにビデオがついた製品が2社から出ている7)。一つはTotaltrackという製品8)、もう一つはSafe LMという製品9)である。いずれもビデオ部品と特別仕様のラリンゲアルマスクをセットとして使う。使用ビデオを見ると、Totaltrackは大きくて、ビデオ本体が最終的に取り外されてラリンゲアルマスクのチューブが1本だけ患者の口の中に残るのに対し、Safe LMはラリンゲアルマスク自体に内視鏡ファイバーを入れるトンネルが付いているとこからスッキリとまとめられている。
ラリンゲアルマスクを患者に使うと、送気できない症例にぶつかることがある。このビデオ付きラリンゲアルマスクであれば声門を直視できるので、送気不可能の割合は激減するだろう。
文献
1)Mil Med 2022 Sep; usac279, Online ahead
2)Prehosp Disaster Med 2021 Dec;36(6):708-12
3)Eur Spine J 2022 Dec;31(12):3378-91
4)Baker R: Emerg Med Australas 2023 Mar 13 Online ahead
5)Am J Emerg Med 2023 Apr;66:31-5
6)J Cardiovasc Dev Dis 2023 May; 10(5):196
7)J Clin Monit Comput 2022 Aug;36(4):921-8
8)http://www.medcomflow.com/producto/totaltrack-vlm-video-laryngeal-mask/
9)http://www.magillmed.com/en/?show=1
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