月刊消防 2023/11/01号 p31-7
入東Ladder Rescue System「ラダー・レスキュー・システム」
~早期安静救助を目指して~
目次
<入東LRS(ラダー・レスキュー・システム)の考案経緯について>
近年における社会情勢の変化に伴い、当管内では年々都市化が進み建物件数が増加する中で、ビル、マンションなどの高層建築物や、3階建て住宅などの狭小地を利用した戸建て住宅の建設など、市街地では建築物の高層化、密集化が目立っており、建物事故等による救助活動においては、様々な建物事情に応じた臨機な対応力が求められています。
当消防本部では、そのような地域実情の変化を背景にして、時代の流れに即した救助資機材が必要であるとの考えから、平成24年に救助工作車の更新とともに、編み構造ロープを使用したロープレスキュー資機材(CMC社製)を導入しました。さらに、近年では米国式のラダー・レスキュー・システム研修等を受講し研究を重ね、ロープレスキュー資機材と合わせつつ、よりシンプルかつ迅速な救助活動の方法について検証し、今回ご紹介する入東LRS(ラダー・レスキュー・システム)の考案に至りました。
<ラダー・レスキュー・システムとは>
ラダー・レスキュー・システムとは、その名の通りはしごを使用した救助技術ですが、力学的根拠に基づいた安全性の高い救出方法で、はしごを用いたハイポイントアンカーの作製、降下器としての活用及び要救助者の遠距離搬送など、現場活動においては実に汎用性が高いものになっています。また、使用資機材も少なく、活動もシンプルなため、通常配備されている基本的資機材のみでも完結が可能です。さらに、このシステム理論を活用すれば、三連はしごに対し比較的強度が劣るかぎ付きはしごを活用した救出方法も可能になり、三連はしごやアリゾナボーテックスなど、重量資機材の搬送が困難な悪条件下においても、救出システムの設定が容易になります。
<消防救助操法とラダー・レスキュー・システムの融合>
はしごを活用した救出方法といえば、日本では消防救助操法が一般的ですが、高低差の大きい場所や、狭小スペースでの活動においては救出活動が困難な場合も多く、救出条件も限られたものになってしまいます。しかしながら、応急はしご救助操法やはしご水平救助操法など、はしごを支点とした救出方法は周囲の強固な支持物を必要とせず、何よりもシンプルかつ迅速な救出方法であるため、好条件下においては最も有用性が高いと感じます。
今回、私たちは、これらのメリットを相互に活かし、救助の基本にプラスαを加えることで、より現在の日本の建物事情に適した救助方法が見つかるのではないかと考え「かぎ付はしごを活用した救出方法」に着目し、ここに入東LRSを完成させました。
<ウェビングテープの活用>
本システムの最大のポイントは、ウェビングテープを使用し、はしご2台を連結させることにあります。ウェビングテープは、その特性上、三つ打ちナイロンロープに比べ伸縮性が少なく接地面積が広いことから、摩擦力を大いに発揮することができます。その特性を利用することで、はしご同士を高強度に連結することが可能になるため、救出方法の幅を格段に広げることができました。今回ご紹介する救出方法は4種類となりますが、それぞれの連結方法も併せてご注目いただき、少しでも救助技術の一助になれば幸いです。
おわりに
今回使用したかぎ付はしごは、関東梯子KHFL-CT31チタン製(一局所許容最大荷重130kg)になります。注意点として、一般男性の体重が概ね70kgだとすれば、横さん一点を折り返し支点として吊り下げた場合、その支点には約140kgの合力が発生し、さらに担架や資機材等の重量を含めると許容荷重を大きく超えることになります。また、はしごに対してベント(屈曲力)を加えることは、はしご本来の使用目的とは異なり、はしごやその支持物に極度の負荷を与え、場合によってはシステムの崩壊に繋がってしまいます。特に、スタティックロープを使用した場合は、伸び率が低いことから衝撃荷重の働きに十分注意が必要です。これらを念頭に置いた上で、補強や荷重分散等の適確な処置を施しながらシステムの構築を図ることが最も重要だと考えます。
本企画を通して、新しい救助システムの考案には、如何にしてその危険性の存在に気付き、より安全でシンプルな操作方法を見出すことができるかが鍵になると感じました。また、それは災害現場においても同様であり、指揮者は常にその場に応じた臨機な判断力と応用力が試されるものだと思います。
私たちは、今後も複雑多様化する救助事象に対応するために、日々努力を重ね、成長していかなければなりません。そのためには、職員一人一人の探求心と行動力が最も重要であり、何よりもその情熱の塊が、現状を大きく変えていく原動力であると考えます。誰か一人がスーパーマンでも駄目なのです。今回の執筆は、各隊員にそれぞれ1種類ずつ受け持ってもらいましたが、そうすることで、もっと効果的な方法はないか、どこに危険が存在するかなど、個人レベルで更に深く追求する機会となり、各隊員の責任感と創造力を大いに養うきっかけになったのではないかと思います。また、隊員間や小隊間で繰り返し検討を行うことで無駄が省け、より安全かつシンプルな救助システムの考案に辿り着くことができました。本企画を通して、私は個の力だけではなく仲間同士が助け合い協力し合ってこそ、より大きな発見があり、最大限の成果を導き出すことができるものと、改めて実感しています。
最後に、職場の上司をはじめ、周囲の理解と協力なしには、本企画の実現に至ることは不可能でした。この場をお借りして改めて感謝を申し上げます。
本当にありがとうございました。
どんなに時代が変わろうとも、人の命の尊さに変わるものなど決して他にありません。消防救助隊に与えられた使命「人命救助」を全うするため、今後とも日々探求心を胸に、引き続き精進して参ります。
(写真4-18)西消防署高度救助係_1024
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