240824応急処置アップデート Q and A 19 『腹部打撲の際の救急要精(医療機関受診)の判断基準について』

 
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救急の周辺

4応急処置 Q and A

2023/10月号(2023/9/11発行号)p60-1

腹部打撲の際の救急要精(医療機関受診)の判断基準について

目次

Q

以前、自転車で転倒し、ハンドルで腹部をかなり強打した生徒がいます。転倒したときは、かなりの痛みがあったようです。この生徒は、他校との合同練習(合唱)があり、他は擦り傷だけだったのでそのまま練習に参加しました。家に帰ってから、救急車で医療機関に行ったそうです。

(内臓の損傷があり、手術になりました)

この事例は、保健室は関わっていませんが、このような事態はいつでも起こりうるので、「腹部を強打した」場合の判断基準を教えてください。

高校の先生からのQ

A

判断基準:受傷直後は判断できません。腹部の内臓損傷は症状が遅れて出てくるためです。強い力で圧迫された場合、6時間は急変する可能性があることを本人や保護者に伝えます。

解説

腹部を蹴られたり固いものにぶつけた場合に損傷するのは肝臓、脾臓、腎臓、腸管のどれかです。いずれも、損傷が軽微な場合は時間が経つにつれて症状が重篤になっていきます。

1.肝臓・腎臓

位置を001に示します。ほぼ全ての部分は肋骨に隠れていて、息を吸うと横隔膜に押されて下端が肋骨に下に出てきます。焼肉で見る肝臓はふにゃふにゃしていますが、体内では周りに膜があって結構固いものです。脾臓は肝臓よりずっと小さいのですが肝臓より固い臓器です。

これらの臓器がある部分に素早く大きな外力がかかると臓器が裂けます。出血量は裂けた程度と関連しており、大きく避ければ大量出血を起こしてすぐショックになりますが、裂け方が小さいと徐々に出血するため、痛みが時間とともに増強しショック状態に陥ります。

2.腎臓

位置を002に示します。背中の真ん中で、肋骨に隠れて存在します。触った感じは肝臓や脾臓より固く、細胞がぎっしり詰まっている感じです。脇腹を蹴られたり背中を蹴られたりすると、腎臓が損傷を受けます。症状は疼痛と血尿です。肝臓や脾臓と異なり、腎臓は周りを腹膜や筋肉で囲まれていて血液が溜まる場所がないため、腎臓が裂けたとしても安静で回復することがほとんどです。

3.腸管

 

腹部に強い力が加わり腸管や腸間膜が裂けることがあります。(003)。ただ私が経験したのは全て交通事故でシートベルトと脊柱の間で腸管が挟まれたなどの大事故ばかりだったので、自転車の転落程度で腸管や腸間膜が裂けるようなことはまずなさそうです。

腸管に穴が開くと内容物が漏れ出します。これにより腹膜炎を起こし、腹痛と発熱が増悪します。また腸間膜が裂けると血管が切れるため腹腔内に出血します。

4.後で症状が出ることを伝える(004)

腹部外傷では私も何度も痛い目にあってきました。ものすごく痛がっていたり顔面蒼白だったりすれば誰でも変だとわかるのですが、何となく痛い程度で保健室に来たらそのまま帰しがちです。養護の先生方には、「後で症状が出る」ことを必ず伝えていただきたいと思います。

養護の先生が経験した症例

中学1年の男子生徒が暴れて、教室にある教卓を蹴ったら、教卓の角が近くにいた関係ない女子の腹部に当たりました。

女子生徒は、痛みで泣いたようですが、男子生徒に気を遣ったのか、大丈夫と言ったらしく、養護教諭の私が報告を受けたのは、翌日に事態が大事になったときでした。

受診も翌日で、すでに痛みもなかったので、特に診断もありませんでした。

謝罪やら保護者会やら、生徒指導案件となりました。

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