240901応急処置アップデート Q and A 21 『嘔吐物の処理』

 
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救急の周辺

雑誌 健康教室 応急処置アップデートQ and A

2023年12月号(2023/11/10発行号)p58-9

目次

Q

1.ノロウイルスにアルコールは効果があるのですか

小学校の先生からの質問

2.給食で「苦手なメニューだったために吐き出した」、「喉に突っかかって咳き込んだ反動で吐き出した」ということが多々あるのですが、やはりそういった際も消毒する必要はあるのでしょうか。

小学校の先生からの質問

3.体育館のような木製の床の場合、ワックスが塗ってあるとはいえ、吐しゃ物が床板の隙間に入ってしまったり、時間とともに木にしみ込んでいったりすることがあります。また、床がカーペット張り(はがすことができない)になっている教室もあり、吐物の完全なふき取りそのものが難しい場合もあります。こういった場合には、一般的な処理方法以外により良い処理方法があるのでしょうか。カーペット張りの場合は、次亜塩素酸水による漂白作用も気になります。

小学校の先生からの質問

A

1.アルコールもノロウイルスに効果があります。

2.消毒はすべきです。背景に感染症がある可能性があるためです

3.場所によって消毒薬を使い分けます

解説

冬です。この4年間ずっと振り回されてきた新型コロナに加えて、インフルエンザやノロウイルスの流行が始まります。

学校ではアルコール(消毒用エタノール、商品名手ピカジェル、ビオレu手指の消毒液など)、次亜塩素酸ナトリウム(商品名ハイター、ブリーチ、ミルトンなど)がよく使われています。商品名イソジンや逆性石鹸も消毒薬です。

1.抗菌スペクトラム(001)

*1
芽胞(ガホウ):乾燥や高温にも生き残る目的で自分の遺伝子を強固なカプセルに閉じ込めたもの。破傷風菌、納豆菌など限られた菌で作られます。次亜塩素酸ナトリウムに長時間漬ければある程度は死滅します。この芽胞を殺すには、高圧滅菌処理(オートクレーブ)などを行います。
*2
糸状真菌:カビのうち、糸状になっているもの。青カビなど

消毒薬はどの菌に効くか決まっています。次亜塩素酸は全ての対象に効きますが、アルコールは芽胞には効きません。傷の消毒に使われるマキロンは、成分として逆性石鹸であるベンゼトニウムが入っています。これは細菌と酵母にしか効きません。

2.アルコールと次亜塩素酸の特徴(表1)

アルコールはすぐ乾燥するので残留ぜす、汚れも落とすことができます。次亜塩素酸の利点は何と言っても安いことです。

3.アルコールはノロウイルスにも効く(002,003)

養護教諭の間では「アルコールはノロウイルスに無効」とまことしやかに信じられていますが、これは嘘です。ちゃんと効きます。

アルコールが得意なのはエンベロープ(外套)のあるウイルスです。インフルエンザウイルスやコロナウイルスが該当します。エンベロープは脂肪(油)でできているので、アルコールはそれを溶かすことで迅速にウイルスを死滅させます(002)。一方、ノロウイルスにはエンベロープはありません。そのため、ノロウイルスを死滅させるにはアルコールと30秒程度接触し表面のタンパクを変性させる必要があります1)(003)。

油を溶かすよりタンパクを変性させるのに時間がかかるためアルコールはノロウイルスが不得意とされますが、ちゃんと吹き掛け置いておくか二度拭きすればちゃんと消毒できます。

4.消毒薬を選ぼう

「アルコールもノロに効く」ことが分かれば、使い分けができるようになります。Q3にあるカーペットの場合は次亜塩素酸では色が落ちるためアルコールで消毒します。床板の隙間に吐物が入った場合は次亜塩素酸溶液で拭き取ることが必要です。次亜塩素酸は吐物と接触すると急速に塩化ナトリウムとなって効果が弱まるので、大量の溶液を用いて二度拭きすることをお勧めします。

古い文献ですが、ノロウイルスが含まれた嘔吐物を適切に処理しなかった場合、吐物からは5日後にも感染力があるウイルスが舞い上がるようです2)。吐物を見つけたら迅速かつ完全に処理しましょう。吐物処理後にどの程度のウイルスがどれだけの時間舞い上がっているかについての文献は見つかりませんでした。

文献

1)健栄製薬株式会社 https://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/choose/microbe08/

2)Am J Epidemiol 1998;127:1261-71

001の説明

*1

芽胞(ガホウ):乾燥や高温にも生き残る目的で自分の遺伝子を強固なカプセルに閉じ込めたもの。破傷風菌、納豆菌など限られた菌で作られます。次亜塩素酸ナトリウムに長時間漬ければある程度は死滅します。この芽胞を殺すには、高圧滅菌処理(オートクレーブ)などを行います。

*2

糸状真菌:カビのうち、糸状になっているもの。青カビなど

養護の先生が経験した症例

4時間目が始まってすぐ、体育館で嘔吐した児童がいるようだとの連絡を受け、処理グッズを持って体育館へ行きました。実際に嘔吐した児童はその場におらず、体育館の中ほどに広範囲に飛び散った吐物のみがある状態でした。3時間目に体育館を使用したクラスはなく、中休みの終わりに嘔吐したものと思われました。ただ、嘔吐した児童が判明せず、どのような状況での嘔吐だったのかはわからない状況でした。体育館でしたので、吐物が飛び散った周囲を三角コーンで囲み、外側から内側に向かってペットシーツと新聞紙、ペーパータオルを使ってふき取り、次亜塩素酸ナトリウムを含有した泡状の除菌・洗浄剤を用いて消毒し、最後にふき取りを行いました。

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