月刊消防 2024/03/01号 p68-9
リンク
最新事情
肥満薬ウゴービ
目次
はじめに
2月号に続き今回も肥満の話。さらに肥満の薬は2023年12月号でも取り上げている。なぜしつこく肥満の話をするかというと、2024年1月4日に時事通信社がアメリカにおける肥満薬の広がりを報道したことによる1)。それによると・日本でも今年2月22日に発売される・2030年には市場規模が世界で14兆5000万円になる・先発薬の成功を追いかけて他社も開発を急いでいる・食欲低下をもたらすためスーパーやスナック菓子の関連銘柄の株価が低下した・航空業界では燃料費を節約できる、とある。また薬で肥満を抑えているだけなので当然のことながら薬をやめるとリバウンドするとも書かれている。他の記事2)では脱毛や自殺念慮といった副作用の報告があるためアメリカ食品医薬品局FDAが規制の必要について調査を始めたとある。
注射薬は商品名ウゴービ
この薬はデンマークに本社を持つノボノルディスク社が発売している。一般名セマグルチド、注射薬の商品名はウゴービ。ノボといえばインスリン注射薬で有名であり、成長ホルモンの注射薬も出している。紹介するウゴービも糖尿病の治療薬として開発された。
ウゴービはGLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬である。膵臓からインスリンの分泌を促進するとともにグルカゴンの分泌を抑制する。また尿のナトリウム排泄量を増加させ、腎保護作用を有する。さらに・過剰な食欲を抑える・満腹感が持続する・脂肪を分解しやすくなる、という作用がある。
文献3)によれば、食欲を抑えたり満腹感が持続したりするのは、この薬が摂食中枢である視床下部および脳幹に直接作用するのに加え、味覚など摂食に関する脳内の伝導路にも作用しているためらしい。
投与方法
注射薬であり、インスリンと同じく皮下に投与する。投与後の注射器は捨てる。投与頻度は1週間に1回。4回(4週)を1クールとする(ので4本が一箱に入れられて処方される)。初回は0.25mg、1クールごとに投与量を上げて最終的に一回2.4mgとしてそのまま維持する。
-15.6%の体重減少
ではいったいどれほどの体重減少作用があるのか。添付文書4)によると、Body mass index(BMI)が27以上で基礎疾患を有する患者もしくはBMIが30以上の患者、合計1961例を無作為割付してウゴービを68週間投与した。ベールラインの体重はウゴービ群も対照群も105kgと差はなかったが、68週時点では対照群が102kgであったのに対しウゴービ群は89kgに減少していた。体重の減少率としては-15.6%になる。また、ベースラインから5%以上体重が減少した患者の割合は、対照群では31.5%であったがウゴービ群では86.4%にもなった。
血糖とトリグリセリドが減少する
元々は糖尿病の薬なのだから、そちらのデータも見ておこう。体重減少のデータと同じ患者での、ウゴービ群の測定値である。空腹時血糖は-9mg/dL, 収縮期血圧は-7mmHg、拡張期血圧は-3mmHgであった。脂質に関しては総コレステロールが-2.6%の減少、トリグリセリドが-17.5%の減少となった。コレステロールの細目では善玉コレステロールとされるHDLが-6.6%減少したのに対して悪玉コレステロールとされるLDLはほぼ変化がなかった。
経口薬は商品名リベルサス
商品名リベルサス。発売元も内容もウゴービと同じである。毎日1回、起床時もしくは空腹時に服用する。こちらは肥満症への適応は通っていないので、添付文書を見ても体重減少のデータは載っていない。今流行りの簡単ダイエットということで、ネットを見ればたくさんのオンライン診察や通信販売がヒットするが、信頼できる体重減少のデータは見つからなかった。だが注射薬のウゴービより効果は劣るらしいことはわかった。
自殺念慮は副作用か
ウゴービの添付文書には副作用として悪心嘔吐・下痢・便秘・食欲減退・消化不良・腹部膨満が記載されている。また糖尿病治療薬の作用として低血糖もある。
自殺念慮については、報道5)によると欧州連合(EU)が2例の報告を受け調査中としている。この報道からはウゴービが直接自殺念慮を引き起こしたように読める。一方、日本肥満学会が2023年11月25日に出した声明6)では「特に高度肥満症においてはメンタルヘルスの変化にも注意し、自殺企図または自殺念慮を有する、あるいは既往のある患者には格別の留意が必要である」 と書かれていて、体重減少により抑うつ状態が引き起こされる可能性を述べている。私も薬が直接の原因ではなく、体重が減少したことで自殺念慮が発生したのだろうと思う。
文献
3)JCI Insight. 2020;5(6):e133429
4)ウゴービ添付文書
6)日本肥満学会。2023年11月25日
リンク
コメント