雑誌 健康教室 応急処置アップデートQ and A
2024年07月号(2024/06/10発行号)p62-3
目次
Q
熱中症の処置として、救急車要請の目安となる意識の状態や症状等があれば教えて下さい。
(高校の先生からのQ)
A
意識が少しでも変だと思えば救急車を呼んでください。また水分を経口摂取できない場合も救急車を呼んだ方がいいでしょう。
解説
熱中症についてはこの連載で何度も取り上げてきました。今回は冷却について、次回は補水について文献をもとにお伝えします。
1.熱中症にかかりやすい人1)(001)
・環境:高温多湿、暑熱順化不足・熱暴露の累積、扇風機・冷房がない、など
・個人:高齢、男性、肥満、糖尿病などの基礎疾患あり、寝不足、虚弱、熱中症の既往、脱水など
・薬物:アルコール、抗うつ剤、抗ヒスタミン剤など
太っていて体力のない男の子、睡眠不足の子、過去に熱中症になった子が要注意です。また夏の初めの急激に気温が上がった日も要注意です。

2.症状1) (002)
倦怠感、めまい、吐き気、嘔吐、頭痛、脱力、発汗、全身の紅潮。さらに進むと手足の循環不全を起こすため手足は冷たくベタベタします。中枢神経症状は無気力、運動失調、せん妄、衰弱など様々な形で現れ、進行により昏睡に至ります。

3.治療
(1)一刻も早く冷やす(003)
体温が高い場合は急速に冷やす必要があります。
発症後1時間以内に体温が38.9度を切った患者では死亡率が15%であったのに対し、1時間経っても38.9度にならかなった患者の死亡率は33%でした2)。

(2)氷水風呂。なければ水道水
文献では、体温低下のスピードが1分あたり0.15℃を超えれば患者は死なないと報告されています3)(004)。もっとも効果的なのは氷水風呂なのですが学校では用意できないので、患者に直接水道水をかけて風を送り4)、患者の体表面をさする5)ことが勧められます。

005には冷却方法による体温低下速度を示しています1)。水道水と送風でようやく合格ラインである毎分0.15℃の体温低下が得られます。よく知られている、体表にアイスパックを当てる方法では目標とする体温低下スピードが得られません。

005
冷却方法による体温低下速度
(3)意識があれば手足を氷水に漬ける
意識が正常で体調不良を訴えている患者では、手足を水道水に浸すのが効果的です。生体は体温を下げるため末梢の血管を広げ皮膚から熱を放出させます。気温33℃湿度50%で運動選手を対象とした論文6)では、両腕を15-17℃に浸けて休んだ選手は、ただ座って休んだ選手に比べ、直腸温度が0.54℃低下、心拍数は16回/分低下、皮膚血流40%低下に加え、温冷感が向上し休憩後の運動能力の低下も防止できました(006)。

次回は水分補給についてお伝えします。
4.養護の先生が経験した症例
事例1 高校3年生
校内体育大会でソフトボール競技に出場中、5回の攻撃で打者として出塁していたところ、意識が朦朧として倒れた。保健室に運んで状態を確認したところ、呼びかけには反応するが、意識ははっきりせず、嘔吐はなかった。体温は37.9℃。氷や保冷剤で首筋や脇の下、足の付け根等を冷却し、様子を見ていたところ、15分ほど経過したところで意識がはっきりした。その後は、経口補水液で水分補給し、食事も取ることができ、体調は回復した。この日の天候は晴れ、気温35℃。試合中は水分をこまめに取るよう指導し、屋外競技では、帽子を着用させていた。
事例2 高校2年生
被服室での授業中、浴衣制作の作業をしていたところ、吐き気が出てきて気分が悪くなり、そのまま意識を失って倒れた。養護教諭が駆けつけて呼びかけたところ、意識が回復して反応したが、すぐに嘔吐した。吐き気が治まり、少し落ち着いたところで保健室まで移動し、休養した。体温37.6℃。休養中も意識ははっきりしており、水分を取ることができたため、そのまま休養し、帰宅させた。この日の天候は晴れ、気温33℃。被服室にエアコンはなく、大型の扇風機2台を稼働させていた。授業中でも、水分補給を許可していた。
熱中症予防として、教室等ではエアコンや大型の扇風機を稼働させている。体育館や屋外での実習作業では、帽子を着用させたり、こまめな水分補給や適度な休憩を取るよう指導している。
また、環境省が発表している暑さ指数(WBGT)を保健室前に掲示し、運動や作業をする際の指標にしている。
2例とも救急車の要請はしていないが、1例目は要請するかどうか、かなり迷った事例である。
文献
1)J Intensive Care Soc 2023 May; 24(2): 206-14
2)Am J Emerg Med 1986 Sep; 4(5):394-8
3)Medecina (Kaunas) 2020 Nov 5; 56(11):589
4)J Athl Train 2009 Jan-Feb;44(1):84-93
5)J Sport Rehabilitations 2020 Mar 1;29(3):367-2
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