月刊消防 2024/12/01号 46(12), 通巻546号 p70-1
児童生徒に心肺蘇生法を教える
消防が中心となった応急手当の普及取り組みにより、2019年の消防白書によると、2018年の応急手当講習受講者は195万人となり、心肺停止患者への住民による応急手当の実施は50.7%と半数が応急手当を受けていることが示されている。ただ示されている表やグラフをよく見ると、応急手当の実施率はここ三年ほど横ばいとなっているようだ1)。成人で応急手当を受けたい人はもう受けているだろうから、学校で心肺蘇生を教えたらバイスタンダーはさらに増えるのではないか。
目次
学校で心肺蘇生を行う流れは2010年頃から
児童生徒に心肺蘇生訓練を行うことはずっと前から行われているはずだが、体系的な論文が出だしたのは2012年かららしい。論文が書かれて掲載されるまでの時間を考えれば、その2年前くらいから学術的な対象となったようである。メタアナリシス論文2)では、学校現場で心肺蘇生訓練を行うことで、心肺蘇生の知識とスキルを効果的に向上させることが明らかである、としている。
幼稚園児や小学生に心肺蘇生を教える
長野県佐久市の佐久医療センター・坂本昌彦先生が幼稚園児と小学生に心肺蘇生を教えた結果を報告3)している。
坂本先生らは、病院祭りを訪れた15歳未満を対象に胸骨圧迫を教え、その前後での意識の変化を調べた。胸骨圧迫のトレーニングは救急救命士、医師、看護学生が指導を行なった。対象はこのレーニングを受けた180名。男子が51%である。以前に心肺蘇生のトレーニングを受けていたのは14%であった。トレーニングの前後で比較すると、胸骨圧迫の場所の正答率は51%から97%に、胸骨圧迫の深さの正答率は59%から92%に増加した。この結果を受け、坂本先生らは対象者には高い意欲と能力があること、学童の早期から心肺蘇生法を教える重要性を述べている。
小学生高学年に胸骨圧迫を教える
坂本先生と同じような論文が、大阪大学から出ている4)。10-12歳の小学生に対して胸骨圧迫のみの訓練を17校で行なった。結果はアンケートによるのは坂本先生の論文と同じだが、こちらでは教師や保護者にもアンケートを行っている。
訓練を受けた児童は2047名。そのうちの93%から回答を得た。「心肺停止患者を発見した場合に対処できるか」という質問に対しては、訓練前は「できる」50.2%「おそらくできる」30.3%であったものが、訓練後は「できる」75.6%「おそらくできる」18.3%に変化した。保護者の96.2%, 教師の98.3%が、児童が学校で訓練することに肯定的な評価をした。
アメリカでは一律の教育はできない
次はアメリカのテキサスから5)。アメリカで心肺蘇生訓練を受けるのは毎年人口の3%程度である。アメリカは人口構成が若く、人口の20%は真1に学校に通っているので、学校で心肺蘇生訓練を行えば大きな効果が期待できる。しかしアメリカは合衆国であり、州によって法律が違う。筆者らは州固有の法律を検索することによって、学校での心肺蘇生訓練の系統的な実施が可能か調査した。その結果、アメリカでは州によって心肺蘇生訓練やAED設置基準がまちまちであり、またAEDを学校に設置する資金が不足している。特に貧困層の学校へはAED設置は非常に難しい。またアメリカではAEDの設置は運動場に設置することを目標に法律化されており、学校の規模、建物の数、運動場以外の場所、児童生徒への教育は十分には対応していないことがわかった。
筆者らは州法を標準化すること、資金を増やすことで学校での心肺蘇生教育を推進していきたいと述べているが、文章を読んでいていも、なかなか難しいだろうと感じる。
学校で訓練する問題点
デンマークからの報告6)。デンマークでは法律によって学校での心肺蘇生訓練が義務付けられている。指導にあたる教師に調査票を送り、問題点を中執したものである。対象は校長1240名と中学3年生の担任教師1381名。約半数から回答を得ている。義務付けにもかかわらず対象クラスで心肺蘇生訓練を終了していたのが28%、AED訓練を終了していたのは10%に過ぎなかった。担任教師については調査の時点で過去3年間に心肺蘇生訓練を受けていたのは60%であり、40%の教師は3年間訓練を受けないまま生徒に訓練をつけていたことになる。また訓練の開始の動機は「他の学校で始めたから」が最も多く、ついで「義務化されたから」「学校心配蘇生訓練コーディネーターがいたから」の順であった。教師にとってはできればやりたくない訓練であることがよくわかる。
文献
1)https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r2/chapter2/section5/56713.html
2)Curationis 2022 Nov 18; 45(1):e1-9
3)Cureus 2024 Sep 1; 16(9):e68412
4)Pediatr Int 2016 Aug; 58(8):698-704
5)J interv Card Electrophysiol 2023 Dec; 66(9):2177-82



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