110403G2010普及と教育

 
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最新事情

 ガイドライン2010

 普及と教育

 

 まず、東日本大震災で被災された方々にお見舞い申し上げる。加えて、献身的に活動している消防・自衛隊に敬意を表したい。地震、津波、原発とかつてない災害が日本を襲っているが、私はそれほど時間がかからずに復興されると楽観的に見ている。日本人は変わらない。日本とドイツが敗戦から短期間で先進国に復帰したのは日本人とドイツ人が祖先の地に残ったからであり、今回の被災地が過去何度津波を受けても大漁港であり得たのはそこを大漁港に育てた人が残ったからである。あきらめない限り最終的にはうまくいく。

 今回の最新事情はガイドライン2010(G2010)の6回目として心肺蘇生法の普及と教育についてお伝えする。

 

 救命講習は短時間に

 救急蘇生法はやってもらうことが一番大切であり、乱暴な言い方にはなるが胸を押してくれさえすればいいのであって、理論も手技の上手い下手も、やってくれたからこその問題である。その広め方の代表的な救命講習は、今までの研究では2時間講習よりも4時間講習が、4時間講習よりも7時間講習が技術習得に優れることは分かっている。だが、まるまる一日を救命講習に使える人はごく限られている。日本の標準的な救命講習は3時間だが、それとて長いと言われ1時間や2時間で講習を終わらせることが多い。最初の講義を簡潔にまとめ、包帯法など現在では重要性が低下している項目を外すことによって時間短縮は十分可能である。G2010では一般市民は人工呼吸をしなくてもいいのだから、それだけでも時間短縮が可能だろう。

 またバイスタンダー養成の点からは、最初の講習の所要時間より、再講習をどの間隔で受けたかが問題となる。知識や手技の劣化の速度は講習時間に関わらず一定らしく、最初のインプットが多くても長期間再講習を受けなければ結局は知識はなくなってしまう。手技の劣化速度は3ヶ月後から加速することを踏まえ、3ヶ月より前に再講習・再訓練を行うのが望ましい。再訓練は最初に受けただけの時間と内容は必要ではなく、時間を短縮しても良い。

 以上のG2010の勧告を踏まえ、現在総務省では救命講習の短縮版を新たに設けるように議論を進めている。入手した資料によれば、3時間を分割して受講することも可能になるようだ。例えば習う項目が3個、時間が3時間とすれば、1時間ずつ日をずらして3回受けても普通救命講習の修了書がもらえるようになる可能性がある。

 

 講師が足りないならビデオで

 大規模事業所や学校で救命講習を頼まれても、消防署としてはそんなに講師を派遣できない。受講生4人に講師1人をつけれれば理想的なのだが、8人に1人とか、10人に1人とかになることもある。実技でマネキン1体に受講生10人では順番を待つだけで多くの時間が取られ、最初に実技を終えた人はボーッとしているしかない。

 G2010ではG2005よりも積極的にビデオやパソコンを用いた教育を奨励している。これは漠然とビデオを見るのではなく、ビデオを真似て全員で胸骨圧迫をしたりAEDを扱ったりするもので、エアロビクスなどで先生の動きに合わせて踊るのと同じである。アメリカ心臓学界AHAの基礎心肺蘇生(BLS)コースはこの方法を採っている。全員で一緒に手技を習うので待ち時間がなくなるので、講師が4時間から6時間かけて教える内容をビデオなら8分から34分で終わらせることができる。またビデオによる事前学習も可能であり、そうすることによってさらに短時間で手技を取得することができるようになる。

 

 シナリオステーションは効果は不明

 J模擬患者を作っての臨場感あふれる訓練は楽しい。訓練を受ける人にとっても現場を想像できるのでさぞ効果は高いと思うのだが、それがそうでもないらしい。模擬患者や高性能人形を用いた場合に手技の向上を認めたとする論文が2件、認めなかったという論文が1件ある。ペーパーテストで知識を確認した研究では、模擬患者や高性能人形を用いると知識の向上を認めたと報告したのが2件、認めなかったと報告したのが9件となっている。

 高性能マネキンは当然高価だし、模擬患者を作るのも時間と費用がかかる。費用対効果比を考えると廃止してもいいのかも知れない。やる方は楽しいのに、残念な結果である。

 

 受講後の試験の効果は不明

 JPTECでは受講後に筆記試験と実技試験がある。受講者の反発は別として、終わったあとに試験をやったほうが覚えは良くなりそうな気がするのだが、これにも試験の効果はないらしい。筆記試験の点数が実技のうまさと相関するかについては積極的に相関するとした論文はない。また講習終了時の実技試験を行えばその後の知識の保持が良好であるという傾向はあるのだが、統計学的には有意差はない。

 考えてみれば、試験はいったん習ったことをもう一度自己学習してから受けるものであり、点が良ければ点に応じた見返りが期待できれば一生懸命勉強するだろうが、自己学習する時間もなく点数が良くても見返りが期待できないのなら、試験も意味がないのかもしれない。

 

 求められる人に教える

 身内に心肺蘇生の対象になりそうな人がいれば、心肺蘇生にも一生懸命取り組んでくれるだろう。研究では、心肺蘇生を習っていない人は、身内が倒れたときには他人よりもかえって心肺蘇生を躊躇する傾向があることが明らかになっている。これは恐らく、大切な人を傷つけたくないという気持ちからだろう。その点からも、実際に蘇生を行う可能性のある人に受講を強く薦めることには意味がある。ただ、求められる人に選んで教えることがバイスタンダーの増加や蘇生率向上に結びつくかは分かっていない。

 

 手軽な講習を作ろう

 G2000の時から教育に関しては一貫している。受講生を増やすこと、そのために講習時間を減らすことである。胸だけの人形をたくさん並べて、テレビの前でダイエットビデオ宜しく全員で同じ動きをするのが最もいいようだ。そうして3ヶ月以内に再講習をしてもらうようにしよう。


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11.9.18/3:19 PM

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