151105 ようやく論文になってきたラリンゲアルチューブ
日本の救急隊が最も数多く使う気道確保器具は多分ラリンゲアルチューブ(LT)だろう。程よい長さで挿入も簡単。挿入にコツはあるようだがラリンゲアルマスクのような強い癖はない。日本でしようが開始された頃はLTの論文はほとんどなかったのだが、ようやくポツポツと出て来るようになった。
目次
確実に換気できる
確実な気道確保のために使われるLT。本当に確実に換気できるのか、マスク換気からLTを挿入する手技を通じて研究した論文がある1)、517例を対象とし、このうち77%がLT換気に、14%がマスク換気で人工呼吸を維持した。残りの9%は一度LTを入れたもののうまく換気できずマスク換気に戻したものである。LT挿入成功例では、一度目の試技で成功したのが76%、残りは2度目で成功している。換気が良好だったのはマスク換気で30%、LTでは93%であった。出血等の合併症もLTの方がマスク換気より低率であった。
換気をするためにチューブを入れるのだから、当然の結果である。
胸骨圧迫にも有利
次にLTを使うと胸骨圧迫時間比率が上昇するという研究2)。胸骨圧迫時間比率とは、全体の中で胸骨圧迫にどれだけ時間をかけているかの割合で、ひたすら胸骨圧迫だけを続けていれば100%になるし、挿管だ電気ショックだと胸骨圧迫を中断すればそれだけ比率は下がる。論文では病院外心停止患者をバックバルブマスク(BVM)群とLT群に分けて胸骨圧迫時間比率を検討した。症例数はBVM群41例とLT群41例。BVM群では30:2で人工呼吸を行うのでどうしても胸骨圧迫が中断する。LT群では挿入時に胸骨圧迫を中断することがあるが、その後は胸骨圧迫を止めることはない。考えただけでLT群が有利なのは明白で、結果もLT群が75%、バックバルブマスク群が59%と有意にLTで比率が高かった。ちなみに、LT挿入には平均26秒を要している。ただLTは挿入できない可能性がある。実際にこの研究では41例中9例でLTの挿入に失敗している。LT挿入が失敗すると胸骨圧迫時間比率は58%まで低下する。これはBVM群と同等であり、LT挿入の利点である「絶え間ない胸骨圧迫」が失われてしまうことになる。
挿入に失敗する状況とは
挿入の簡単さが売りであるLTであっても挿入できないことはある。次の論文では、LT挿入に失敗する状況を報告している3)。場所はアメリカ・ピッツバーグで、研究期間は2006年1月から2011年8月末まで。この期間中に477名に対して511回のLT挿入が行われた。回数を見ると一人2回以上入れられた人もいることになる。挿入は救急隊員もしくは病院前救護看護師が行っている。最初の挿入で失敗したのが15.1%あり、結局挿入できなかったのは9.9%いる。
初回失敗例の患者を検討すると、挿管しようとして駄目で、LTを入れようとしたがやっぱり駄目だったというものでこれが80%で最も多い。挿管に適していない体の作りだからLTも入れづらいのは想像がつくだろう。次に非外傷患者で71%。心肺停止患者で61%であった。患者の状態としてはしゃっくりもしくは死線期呼吸状態、床に寝ている状態(ベッド等に寝ている状態と比較して)、男性の3つの要素が挿入困難に繋がっていた。
次はi-gelか
英語論文を見ると最近はi-gelというものが流行らしい。ラリンゲアルマスクの、マスクの部分が低反発ゲルになったもので、カフの形自体が喉頭にフィットするように作られているため、カフを膨らませる必要がない。絵の部分は硬いチューブでできているためバイトブロックも不要である。ストラップを引っ掛ける突起があるのでテープを巻く必要もない。カフは低圧なのでLTで懸念されるカフによる粘膜損傷も避けられる。ただ、もう日本の消防でも使えるのだが余り話は聞かないところを見ると、なれたものが一番良いのかも知れない。
気管挿管のほうがいい?
気管挿管は長期の気道確保のゴールデンスタンダードだが、短期使用に限ってはLTやラリンゲアルマスク等、救急救命士が使える気道確保器具の方が利点は多い。このため私は危険な気管挿管を無理にする必要はない、と書いてきた。だが気管挿管の方がよいとする論文を久しぶりに発見した。
この論文は今までの論文を寄せ集めて結論を出すメタアナリシスを用いている4)。気管挿管とそれ以外の気道確保器具で、心拍再開率、生存入院率、生存退院率、退院時の精神神経学的状態を過去の論文から引っ張って比較するものである。検索に引っかかった論文数は3454本。そのうち10の論文を調査対象とした。症例の合計は気管挿管が3万4533例、挿管以外の器具が4万1116例。結果を集計すると、気管挿管はそれ以外の器具に比べ、心拍再開率、生存入院率、精神神経学的に正常の率が有意に高かった。残りの生存退院率は両者で差がなかった。このことから、気管挿管は有効な気道確保方法であると結論している。
本当だろうか。メタアナリシスの最大の欠点は大論文に引っ張られることである。圧倒的に症例数の大きい論文が出ていれば、結論もそれに引っ張られてしまう。無数の医学雑誌が出ている現在の状況からは有効な研究方法とは思うが、所詮加工品の再加工であり、新鮮味はない。新しい臨床論文が出るまで結論を急ぐ必要はなさそうだ。
文献
1)Am J Emerg Med 2015;33:1050-5
2)Maigman M:Resuscitation 2015 Jun 9 Epub
3)Resuscitation 2015;86:25-30
4)Resuscitation 2015;93:20-26
15.11.5/3:47 PM
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