手技44:小児の所見の取り方

 
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手技44:小児の所見の取り方

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手技44:小児の所見の取り方


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講師 今井睦(興部)

協力 今井家の人々


救急出動件数が増加傾向にある昨今、平成15年の北海道内全体での救急搬送人員は194,758人となっている。この内10,134人は7歳未満の乳幼児であり、1割にも満たない。乳幼児の救急車出動件数は症例数が少ないため対応に苦慮する事が多い。

今回実際に乳児(8ヶ月)を対象とし色々な脈拍部位の触知、心音、呼吸音の聴取、血圧測定を実施し、問題点を述べる。

“小児は大人の小型化ではない”と、テキストによく書かれている。呼吸、脈拍回数など、成人とは正常範囲に違いがある。乳幼児の特徴としては、病状が急変しやすかったり、母体からの受動免疫がなくなると感染症に罹患しやすくなり、感染に対する抵抗力が弱かったりする。体の組織も成長段階のため未発達で、成人に比べると対応能力が低く、容易に重症例へと移行する可能性がある。

下記に年齢区分と意識レベルの評価表、呼吸、脈拍、血圧の正常範囲を改めて確認する。
なかなか覚えられないときは、救急車内などに正常値を貼っておくことも一案である。

○ 年齢区分

新生児期出生から日齢28日未満乳児期新生児期を含み月齢12ヶ月未満幼児期1歳から6歳学童期7歳から12歳

○乳児の意識レベル点数評価表(坂本法)

III刺激をしても覚醒しない状態300痛み刺激に反応しない200痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる100痛み刺激に対して、はらいのけるような動作をするII刺激をすると覚醒する状態(刺激をやめると眠り込む)30呼びかけを繰返すと辛うじて開眼する20呼びかけると開眼して目を向ける10飲み物をみせると飲もうとする、あるいは乳首をみせれば欲しがって吸うI刺激しないでも覚醒している状態3母親と視線が合わない2あやしても笑わないが視線は合う1あやすと笑う。ただし不十分で声を出しても笑わない0正常

○小児の呼吸数、脈拍数、血圧

新生児乳児幼児学童呼吸数(回/分)50~4040~3030~2020~18脈拍数(回/分)140-120130-110120-9090-80収縮期血圧(mmHg)90-70100-80110-90120-100

 ()、乳児()、幼児()、学童()
 新生児(140~120)、乳児(130~110)、幼児(120~90)、学童(90~80)
 新生児(90~70)、乳児(100~80)、幼児(110~90)、学童(120~100)

呼吸観察~腹部に手をおいて腹部の上下を確認している
“見て聞いて感じて…”はその他の年齢群のそれと変わらない。

呼吸観察~新生児、乳児は肋骨が水平に近く、肋間筋が未発達のため横隔膜による腹式呼吸となる。
※成人は胸・腹式呼吸である。

腋窩で呼吸音の聴取
成人より呼吸回数が多いためか良く聴こえた。
救急現場では、呼吸音の左右差などを確認する。

心音の聴取
心音と一緒に呼吸音が聴取された。120回/分ぐらいであった。

橈骨動脈の触知

橈骨動脈での触知は難しいとされるが、実際のところは橈骨動脈でも十分触知可能である。問題点は不穏状態の患児は体動が激しく触知が難しいという点と血圧が低下している時には触知は難しいということである。

救急患者であれば、不穏があり抑制できないので触知するのが困難である。大人しい患児であれば可能であろう。


新生児、乳幼児では、首が太く、ポチャポチャしているため、指が頸動脈触知位置を見つけられない。また、頸動脈を触知する時に気道を圧迫する恐れがあるため、避けるべきである。

今回も実際に指が頸動脈拍動位置を確認できなかった。

成人(8歳以上)の場合は頸動脈で触知可能である。

上腕動脈での触知。

拡大図。橈骨動脈より、触知部位が見つけづらかった。

○ その他の触知部位

大腿動脈触知

足背動脈触知

大腿動脈、足背動脈の触知は、経験不足からか触知できなかった。

○年齢と血圧マンシェット

<3ヶ月3×15cm3ヶ月~3歳5×20cm3~6歳7×20cm6~9歳9×25cm>9歳12×30cm

腕が締め付けられるので血圧測定は侵襲があるのか、被検児は嫌がっていた。

測定後、上腕部を見ると赤くなっていた。(←かわいそうだった….)

成人用のマンシェットを装着

上腕から前腕部にかかっている

「年齢と血圧マンシェット」から、成人用のマンシェットを乳幼児に装着しようとすると、上腕部から前腕部にかかってしまう。このことから、成人用のマンシェットから乳幼児、小児用マンシェットに取り替えることが必要である。

通報段階で乳幼児、小児と断定できた場合は出動途上に乳幼児、小児用マンシェットに交換するという処置を行うべきである。

今回乳児に血圧測定を行って感じた事は、体動が激しいので測定時間がかかり、きちんと測定できなかった。

膜型の聴診器では、乳児の腕にうまくフィットせず、コロトコフ音が良く聞こえなかった。聴診法の際、体動が激しく肘を曲げられるので聴診しづらかった。

乳児に対する対応症例が少ないため、手技に自信が持てず、反復訓練の必要性を強く感じた。

○大切なことは意識ABC

紋別地区消防組合管内には、平成17年7月から産婦人科医が常勤しなくなる。その経緯から、より一層新生児、乳幼児、小児対応が重要視される。特別な処置が必要ではなく、一番大切なことは意識状態と呼吸、循環が保たれているかをしっかりと観察することが肝要であると考える。

○母親対応

救急現場へ臨場すると、母親は血相を変えて救急車まで走ってくる。我が子を気遣う心がそのような行動にさせるのであろうか。

大抵の親は狼狽している。その母親に適切な説明をすることにより母親は安心し、救急隊員に対して信頼感を覚える。逆に、不適切な言動を行うことで、母親は救急隊員に敵意を露にし、結果、信頼を失う。

前者の場合は救急活動が非常にスムーズに行えるが、後者になると救急活動に少なからず悪い影響を与える。常に味方になるよう、真摯な態度、接遇が重要となる。そのためには、患児の今の状態を説明することが大切である。呼吸状態は良いのか、心臓は動いているのか、具体的に、かつ、わかりやすい言葉で説明する事で、母親は安心していく。

バッグバルブマスクによる換気が必要であったり、CPR等特別な処置が必要な患児以外であれば、母親にそのまま抱いてもらって観察することもある。母親に抱かれている方が、患児は安心するというのが一番の理由である。

患児を落ち着かせる(あやす)ためにぬいぐるみ等のグッズを救急車内に積載しておくことや、その子のお気に入りのグッズを一緒に持っていくなど患児が落ち着いてリラックスできるような対応も考えるべきである。乳幼児は直接言語で訴えられないため、母親等から普段とどのように違うかを確認することも観察・処置を行う上で重要なことである。

○小児虐待

通常の躾や体罰を超えた反復的・継続的行為である。大まかに区分すると、身体的暴力、養育義務の怠慢、拒否、性的虐待、心理的虐待などがあり、身体的虐待がもっとも多いとされている。

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児童虐待の防止等の関する法(平成12年制定)

18歳未満の子供に対する虐待の防止、早期発見、保護を定める。親権の制限を盛り込み、調査や保護にあたる児童相談所の権限、機能が大幅に強化され、住居への立ち入り調査も可能となった。医師、教職員、児童福祉施設相談員らには、早期発見の努力、通告義務を明記した
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○結語

新生児、乳幼児、小児の救急対応は、成人に対するものと比べると、件数が少ない。そのため、対応に苦慮することが多いため平素から対応準備を怠らない事である。

母親や関係者とうまく連携することにより、スムーズな救急活動が行えるように努めること。また、積極的に医師からの直接的な指示・助言を受けることが重要なことである。


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