渋消式火災防ぎょ戦術

 
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主張

渋消式火災防ぎょ戦術

著者紹介

荒井 明(あらい・あきら)

昭和49年8月21日生まれ

平成5年4月(渋川広域消防本部採用)

2018年2月25日日曜日

Voice特別編

目次

渋消式火災防ぎょ戦術

荒 井  明

昭和47年4月1日、渋川市消防本部・消防署を発展的に解散し、渋川広域消防本部・消防署が発足しました。
平成18年2月20日に渋川市、伊香保町、小野上村、子持村、赤城村、北橘村が合併し、新「渋川市」が誕生しました。
これにより渋川広域消防本部は、渋川市、吉岡町、榛東村の1市1町1村(面積288.65K㎡、人口約11万6千人)で構成する圏域内の消防業務(消防団及び水利施設に関する事務を除く。)を1署4分署で担っています。
局地的に発生する自然災害や大規模・複雑化する災害に対処するため、消防施設、人員等の消防力を整備・強化し、住民の生命、財産を災害から守り、安心で安全なまちづくりのため、全力を傾注し業務を遂行しております。

【渋川広域消防本部の変化】

渋川広域消防本部は、今から6年前の平成23年度から、ある課題や疑問に対し少しずつ考えるようになり変化してきました。

 平成23年度の頃の私は、正直、消防という仕事に対してあまり大きな関心もありませんでした。とりあえず、勤めに行って「1日が何もなく終わればいいや」という感じで仕事をしていました。職場の雰囲気も今とは違って、無駄な時間が多く、その無駄な時間も無駄と思わず1日を過ごしていました。

 そんな雰囲気を消し去ったのが、平成29年度、現消防長「青山省三」が、平成23年度に署の課長に就任した時のことです。その日から大きな変化と共に今までの私達の行っていた間違ったルートを修正してくれたのです。当時の青山課長(以下課長)に、「今日は何を考えて仕事に来たのか?」「何をやりたいのか?」と毎朝、仕事の始まる前に問われるようになりました。もちろん初めは、「何を言っているんだ?」「え?」といった感じで、職員全員から答えは出ませんでした。それに対し、課長は「何も考えずに仕事に来るな」職員全員に対し喝を入れていました。

 そんな日を何度か繰り返すにつれ、正直、仕事に来るのもいやになった時期もありました。しかし、本来の消防という仕事とは何なのかを改めて考えたとき、今までの自分が恥ずかしくなったのです。確かに、今までの渋川広域消防本部は、上司から言われたことをやっているだけで、部下から何かアイデアや訓練等を具申しても、その申し出が通らないことが多かったのです。

 私自身、毎日のように「何も考えずに仕事に来るな」と言われ続けるのがとてもいやでした。だったら、今まで仕事をしてきた中で、「不安なことや分からないことを毎日の業務の中に取り入れさせてもらおう」と考え、仕事前の夜や仕事の前、小さな用紙にやりたいことを書き込み、朝誰よりも早くそのメモを課長に提出し、「今日はこれを行いますのでよろしくお願いします」と、何かを言われる前に先手を打ちました。その結果、今まで言われ続けていた「何も考えずに仕事に来るな」と言う言葉ではなく「よし、やってみろ」と言う答えが返ってきました。そんな雰囲気が続くと、「何かを考えて仕事に来る」と言うことは、部下の意見を上司に聞いてもらえる「チャンス」なんだと思うようになり、色々な職員からの意見や考えが毎朝の事務室で飛び交うようなりました。

【軌道に乗るまでの苦労】

 渋川広域消防本部は現場効率の向上のため、多くの検証を重ね「渋消式」という「戦術」を形にしました。戦術をパターン化し、分かりやすく作成することで、職員全員が理解し現場で同じ考えで行動することができ、ミスが減ると考えたのです。

 しかし、「戦術」を統一化するのは大変難しかったです。訓練や検証を行っていく中で「あいつ生意気なこと言ってるなー」「そんなことできないよ」「なんのためにやるんだよ」「必要ないよ」「こんなに早くやっても意味ないよ」といった声が聞こえてきました。そんな声や疑問に対して、なぜ、早くやらなければならないのか。なぜ、このような事をしなければならないのか。それを理解させ、実行させるのはとても大変でした。

 消防という組織は、一人だけがずば抜けた力を持っていても、職員全員が同じ考えで同じ方向を向かなければ最高の活動は出来ません。高いレベルの職員が多くいても低いレベルの職員が1人でもいれば、低いレベルに合わせればならなくなってしまいます。職員全員を高いレベルに持って行くのは難しいかもしれませんが、低いレベルの職員をどこまで高いレベルの職員の所まで引き上げることが出来るかが組織のレベルを上げるための大きなミッションでもあると思います。

 私は良くこんな質問を受けます。「仕事の中で動かない上司をどうすれば動かすことが出来るのか。」私はこう答えます。「普段の仕事の中で、どのように上司をバックアップしていますか?」「普段の仕事の中で上司をバックアップし信頼関係を高めることによって、やりたいことに対して必ず答えてくれます。」「自分のやりたいことだけをお願いしても、上司からの信頼がなければ難しいと思います。」

 では、どうすれば上司から信頼を得られるのか。
私は、先を読みます。災害現場(火災現場)でも、状況の変化を先読みし戦術や活動内容を頭の中に準備しておきます。普段の仕事も、災害現場と同じです。 上司が何を考え、次に頼まれることは何だろうか?「多分、こんなこと頼まれるな!」 このように、先の読める職員を育て上げることが組織改革の近道に繋がるのです。

「先を読める職員は=何をするか考えて仕事に来ています。」

【全国から注目されるまで】

 渋川広域消防本部は平成23年度から少しずつ変化し続け、そこから約2年をかけ「渋消式火災防ぎょ戦術」という形を作り上げることができ、平成29年10月現在で、全国732消防本部(局)の内396消防本部(局)延べ4,539名(54.1%)及び71関係団体、760名の方との繋がりを持つことができました。

 最大のきっかけとなったのは、平成25年度にイカロス出版さんへ、当時、警防課の装備係長であった福田(現総務課長)が直接電話し、現在の渋川広域消防本部の取り組みについて取材の申し出をしたことです。その当時の出版社の反応はとても悪く、まったく興味を持って頂けなかったのを記憶しています。そのため、渋川広域消防本部で行っている「渋消式火災防ぎょ戦術」の映像を作り上げ、資料を出版社に提出しました。出版社に内容を確認して頂いた結果、フリー記者の方が直接渋川広域消防本部へ来庁し取材を受けることとなりました。

 また、取材を受けていく中で、訓練映像をユーチューブに投稿することが決定し、その動画を見た全国の消防職員や出版社等から多くの問合せをいただくようになりました。このようなことを繰り返すうちに、数多くの出版社から「渋消式火災防ぎょ戦術」についての執筆依頼が入るようになりました。

 ついに今年の8月、東京法令出版さんから「3人乗車でも1分で放水開始!渋消式火災防ぎょ戦術」を一つの単行本として発行することが決定したのです。

【変化しはじめた全国消防本部(局)】

 平成25年度から始まった「渋消式火災防ぎょ戦術勉強会」。

 第1回目は、小規模(約25名程度)でのスタートで開始しましたが、2回3回と回を重ねていくうちに受講者も増え続け、今年の第5回「渋消式火災防ぎょ戦術勉強会」では、約400名を超える応募がありました。

 このように全国消防本部(局)の出会った方達とお話をすると、少しずつですが、私たちの消防も「組織や資機材、そして人材育成方法など昔に比べ変わりました」と言う声を聞くことが出来ました。

【組織変化はきっかけ一つで変わるもの】

 渋川広域消防本部もあるきっかけで大きく変化してきました。組織を変えると言うことは、何かを行動に移すということです。そのためには、大きなエネルギーが必要となります。そして上司の覚悟も必要です。部下の責任を持てる上司。上司をバックアップできる部下。何かが変わってそれが結果として成功したときの喜びは、大きく自信に繋がります。

【最後に】

進化し続ける組織をつくるために、考える事をあきらめないでください。渋川広域消防本部もまだまだ進化し続けます。まずは、行動に移すためにどうすればいいのか。何をすべきなのか。考えてみてください。私の好きな言葉を全国消防職員の方達に送ります

「自ら考え行動する組織」考え続ける限り進化は止まりません。

主張
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