どれだけ冷やせばいいか分からなくなって来た低体温療法

 
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どれだけ冷やせばいいか分からなくなって来た低体温療法

2018年2月25日日曜日

病院外心肺停止患者に対して脳機能の低下を防ぐために低体温療法が行われている。始まった当初には深部体温が30℃を切るまで下げていたが、10年くらい前に33℃2日間が主流となっていた。2013年に低体温の33℃でも平熱の36℃でも転機は変わらないという論文が天下のNew England Journal of Medicine (NEJM)に出た1)ことで、論文の表記は「治療的低体温」から「目標体温管理(targeted temperature manegement)」とするのが一般的になった。36℃では低体温ではないからである。だがこの稿では言い習わされた低体温療法を使うことにする。

NEJMでの低体温療法は36時間行っていた。しかし24時間でも結果は変わらないという論文が今度は天下のJAMAに発表された2)ので紹介する。

24時間でも48時間でも結果は同じ

国際的な蘇生のガイドラインでは病院外で心停止になり来院後も意識のない患者に対して目標体温を33℃から36℃に設定して少なくとも24時間はその温度を維持することを推奨している。しかしいったいどれだけの時間温度を保てばいいのか不明であった。この論文2)はデンマークを中心とした18施設、355名の患者を対象とした無作為割り付け前向き研究である。研究期間は2013年から2016年。つまり2013年の時点で「そんなに長く冷やす必要はないだろう」という共通認識ができていたようだ。

355名を半分にし、48時間群に176名、24時間群に179名を振り分けた。体温は急激に下げ、24時間もしくは48時間33±1℃に保った後に、1時間あたり0.5℃で37℃に戻るまで復温する。評価項目の第一は6ヶ月後の精神神経学的スコアとし、脳機能カテゴリー1,2を「良好」とした。第二は6ヶ月間の死亡率であり、死亡までの期間、起きた症状、集中治療室での資源消費量も評価の対象とした。

355名の平均年齢は60歳。48時間群の69%が6ヶ月後の脳機能カテゴリーで良好とされた。これに対して24時間群でも64%が良好とされている。死亡率は48時間群では27%、24時間群では34%とこれも統計学的には有意差なし。死亡に至る時間経過も両群で差はなかった。起きた症状については48時間群が24時間群に比べて有意に多く、集中治療室に滞在している時間も48時間で151時間、24時間群で117時間と24時間群が有意に長かったが、入院期間は48時間群で11日、24時間群で12日と差はなかった。

これらの結果を受けて筆者らは48時間冷却と24時間冷却では6ヶ月後の結果に差が見られないと結論している。

やっぱり良く分かっていない低体温療法

Circulationでは2015年に低体温療法に対する疑問を3点挙げている3)。

(1)低体温療法を心肺停止後の昏睡患者に行った方がいいのか

(2)行うのならば、どのタイミングで実施すべきか

(3)どの期間冷やせばいいのか

Circulationでは体温をどれだけ下げればいいかは論じていない。これは2013年のNielsenの論文での「33℃でも36℃でも同じ」という結果1)を受けたものだろう。

(1)の「行った方がいいのか」は根本命題であり、今になっても議論が行われていることに驚く。低体温療法をやった方がいいからみんな一生懸命やっているのに、有効性を覆されては堪らない。だが温度も時間もどんどん少なくなって、それでも結果が同じという流れなら、いまに低体温療法が全否定される可能性もないとは言えない。少なくとも、保冷マットを頭に巻いて頭だけ冷やせばOK, のレベルまで下がる可能性は、今までの議論を見ていてあり得るかもしれないと思ってしまう。

(2)のタイミングについては、普通に考えれば早ければ早いほど良さそうだが、病院外で行う必要はないという論文は既に紹介している。ではいつ行えばいいのか。低体温療法の根拠となっているのは血流再開通後に起こる脳の高熱状態であり、これを阻止するために体温を下げている。心停止から脳の高熱が始まるまでの時間を知る必要がある。

(3)の冷やす期間については、今回紹介した論文が目安となる。では24時間より短くてもいいのか。冷やす時間は短ければ短いほど生体に負荷はかからないし合併症も少なくなる。次の論文は多分8時間単位で時間短縮を狙ったものになるだろう。

混迷の続く低体温療法。まずは効くのか効かないのか、はっきりさせてほしい。

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