120207ガイドライン2010豆知識

 
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ガイドライン2010豆知識

 この連載に載せるために文献を見ていたら、ガイドライン2010を解説してあるリトアニアの文献1)を見つけた。この論文はガイドライン2010の総説と言いながら別なことをいろいろ書いている。そのなかから面白そうなものを紹介したい。

心室細動発症後も5分間血液は流れている

 ガイドライン2005で人工呼吸:胸骨圧迫が15:2から30:2になったとき、人工呼吸が少なくてもいいという理由として「卒倒した直後の数分間は体の中に酸素がいっぱいある」というのがあった。突然血流が止まっても今そこにある血液から酸素を取り出せるらしいのだが、さらに血液が流れ続けているのなら酸素需要の大きい部位が選択的に酸素を取り入れることが可能となる。

 実験2)では空気で人工呼吸したブタに心室細動を起こし、6.5分後に100%酸素で換気を行った。除細動だけの群、1回だけの除細動と機械的胸骨圧迫を施した群、3回の除細動と機械的胸骨圧迫の群で自脈の再開率を検討した。自脈の再開率は除細動だけでは全滅、除細動1回と胸骨圧迫ではと6頭中1頭、3回除細動と機械的胸骨圧迫では6頭中5頭に自脈再開を見た。この論文で注目すべきは心室細動になってからの血行動態で、心室細動3分後には左心室内腔は容積がほとんどなくなるのに対して右心室は強く拡張していた。5分後の時点で動脈側の圧力は静脈側の圧力と等しくなった。また頸動脈に血流を起こす(=脳に血液を供給する)には10秒間の胸骨圧迫で可能だが、冠状動脈に血流を起こす(=心筋に血液を供給する)には1分間の胸骨圧迫が必要であった。

 この論文からは、心室細動になっても5分間は血流が流れている可能性があること、心臓に血液を供給するためには胸骨圧迫を連続して1分間行わなければならないことである。

死戦期呼吸

 死戦期のあえぎ呼吸はガイドライン2005から触れられていて、救急蘇生法の指針2010では「しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸が見られることも少なくありません」と書いてある。「少なくない」って曖昧な表現はやめて欲しいと思ったら、目撃のある卒倒では患者の55%に見られるらしい3)。

 あえぎ呼吸では肺のガス交換だけが行われるのではない。息を吸い込むことによって胸腔内に静脈血を引き込んで心臓に血液を供給する。これにより動脈圧を上昇させ、冠状動脈と脳血管の血流量を上げることができる4)。

 胸骨圧迫もあえぎ呼吸と似たような効果をもたらす。胸を圧迫したあとの除圧時に胸腔内が陰圧になって空気が入ってくる。そのため、動脈血酸素濃度が低い場合には人工呼吸はしなくても口に酸素マスクをしたほうがよい5)。

 心肺停止の判断方法を検討した論文がある。イギリス・バーミンガムから出た論文6)で、医療関係者を集めて患者の様子をいっぺんに観察して心肺停止を判断する方法と、「見て聞いて感じて」といった手順を踏んで心停止を判断する方法を比較した。これによると、遠目から患者の呼吸を観察する方法では呼吸停止と判断するまで7.3秒であり正答率は33.5%、手順を踏む方法では13.4秒かかり正答率は48.2%。短時間だが誤りが多いか、長時間だが正解率が高いか。またBLSを習わせた医学部学生に10秒間で正常の呼吸と死戦期呼吸を区別せよと命じた場合にも10秒では殆どの学生は判断できなかったとしている。動物実験では「見て聞いて感じて」に加えて脈拍触知を行った場合、それらを省略した場合と比べて予後が悪いことが報告されている7)。

 時間を取るか、正確さを取るか。ガイドラインの流れは「間違っていていてもいいから胸骨圧迫」なので、「見て聞いて感じて」は少なくとも一般市民はやめるようにしよう。

胸骨圧迫

 胸骨圧迫を行うときは立ってするべきか膝をついてするべきか。これについては脊椎への圧力や動作の流れとしては立って胸骨圧迫を行ったほうが有利だが、押す位置については膝をついたほうが一定の場所を押し続けることができる8)。

 また立って押す場合、ベッドの高さが押す人のひざ上20cm以上になると胸骨圧迫の質が落ちるとしている9)。でもだいたいベッドの高さが膝上20cmって高すぎるだろう。爪先立ちして押さなければならないし腰も痛くなる。

胸部叩打法

 この総説では心室細動での胸部叩打法について多くの紙面を割いている。リトアニアでは関心の高い方法なのだろう。

 ガイドライン2005の段階では胸部叩打法は目撃のある卒倒でAEDの用意に時間がかかる場合に1回だけ行うことになっている。ガイドライン2010になってもその扱いは変わらず、どうしようもないときの窮余の一策という扱いである。

 この5年間に胸部叩打法の前向き研究が3つ出ている。胸部叩打で心室細動が洞性整脈に戻った率は当然のことながら少なくて、ある論文では1.3%(155人中2人)10)、他の論文では1.9%(52人中1人)11)に過ぎず、それも心室頻拍にのみ有効で心室細動では効果がなかった。もっと具体的に報告しているものもあって、胸部叩打を受けた患者144人中6人で心電図に変化が見られ、その6人中3人で自脈が回復し、2人は生存退院した。しかもその二人は目撃のない卒倒で最初の心電図は心静止だったとしている12)。このように胸部叩打がどれくらい有効なのか示した論文は初めて見た。100人いて1人に有効、という数字の解釈は人それぞれとしても、なんにもないときには試してみる価値はありそうだ。

文献

1)Medicina(Kaunas) 2010;46:571-80
2)Resusucitation 2003:58:249-58
3)Ann Emerg Med 1992;21:1464-7
4)Resuscitation 2007;75:366-71
5)Resusucitation 1998;39:179-88
6)Resuscitation 2005;64:109-13
7)Resuscitation 2008;76:285-90
8)Am J Crit Care 2008;17:417-25
9)Emerg Med J 2009;26:807-10
10)Resuscitation 2009;80:14-6
11)Pacing Clin Electrophysiol 2007;30:153-6
12)Resuscitation 2009;80:17-23


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12.3.9/5:56 PM

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