170820 AED=ドローンとなる日が来る

 
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最新救急事情

 

170820 AED=ドローンとなる日が来る

 

今や多くの事業所で使われているドローン。ニュースになるのは首相官邸に落ちたり善光寺に墜落したりと悪いことばかりだが、実社会では地形の測定や物資の輸送、薬剤の散布など、その活動の場はどんどん広がっている。通販サイトであるアマゾンでもアメリカでドローンを使った宅配を計画しているという話も話題となった。

救急領域でドローンを役立てるとしたら何か。初めに考えつくのはAEDの運搬だろう。実際にAEDを運んでみたという記事がJAMAに載っていたので紹介する。

3分後にはAEDが到着

ドローンにAEDを積んで飛ばしてみたのはスウェーデンの研究者たちである1)。使ったドローンは8ローター式で重量5.7kg。最高スピードは毎時75kmというからかなり速い。ドローンにはGPSと高精細カメラを搭載しており、位置情報と画像情報を頼りに自動操縦で目的地に到達できる。2名の資格を持った操縦者が3Gネットワークを使ってドローンにGPSデータを送る。ドローンは離陸から着陸まで通信指令員が監視を続ける。安全上の理由から操縦者の一人は着陸地点に待機し、必要であれば手動でドローンを着陸させる。

実験に使ったAEDの重量は763g。アメリカ・シラー社から出ている運搬型AEDである。これをドローンのお尻に着けて飛ばした。その結果、自動操縦で3.2kmの距離を平均3分で飛んで来たというから平均時速64km出ている。バイスタンダー役がドローンからAEDを取り出すのに3秒しかかからなかった。現在同じシラー社から490gのポケットAEDが出ているので、それを搭載すればさらに速く現場に到着することができるだろう。

スウェーデンの研究者たちはJAMAの論文の1年前にもドローンの適正配置や試験飛行を行っている。発表した論文2)ではストックホルムでの過去8年間の病院外心停止の場所を調べ、どこにドローンを配置したら良いかモデルケースを提示している。ドローンの飛行距離は10km以内としている。ドローンは安く保管も簡単なので、適正な数を適正に配置できるのが大きな魅力である。

「ドローンにAEDを積むのではなくて、AED自体をドローンにしてしまえばいいのではないか」と私は思ったのだが先に書いている人がいた3)。数年以内には商品として目にできるだろう。

タンザニアでは血液を運ぶ

次はLancetから。医学領域でドローンは様々な試みをさせているが、アフリカ・タンザニアでは血液を運ぶ試みがなされている4)。アフリカでは道路が整備されておらず陸送では間に合わない場合がある。使われるドローンは時速100km以上で飛行する。血液センターから病院まで75km離れていた場合、陸送では2時間半かかるところをドローンはわずか20分で到達する(と書いてあるので時速225kmで飛ぶらしい)。

血液をドローンで運ぶ最大の利点は着陸の必要がないこと。血液パックを空から落とすのである。着陸が不要なら操縦は簡単になるしドローンを壊す危険性もぐっと減る。

またドローンは血液検査にも用いられている。タンザニアにはHIV陽性者が多い。生まれた直後の新生児の血液をドローンを用いて検査センターに送り、先天性エイズの検査をしている。今までは検体搬送にバイク便を使っていたので、ドローンだと時間もコストも低下させることができる。

実際に血液をドローンで運んだ検証結果がある5)。アメリカ・メリーランドからの報告である。筆者らは凍結赤血球液6パックと凍結血小板液6パックを作り、それを保冷庫に入れた上でドローンに取り付けた。実験期間中の気温は-1℃から18℃の間であった。飛行時間は26.5分。気温と保冷庫内部の温度差は約20℃であった。飛行後には赤血球および血小板を解凍して溶血の程度・血小板数・pHを調べるとともに、飛行中に解凍した証拠として輸血バック中の気泡を観察した。その結果、赤血球の溶血は認めず、血小板数、pH、気泡、全てに有為な変化は認めなかった。筆者らはドローンが血液搬送に適していることを強調している。

日本でも普及してほしい

では日本でドローンは普及するだろうか。首相官邸へドローンを落とした事件を機会に、ドローンの飛行には制限がかけられるようになった。しかし国土交通省のホームページを見ると、許可を得れば夜間でも黙視できなくても飛行は可能だし、物を投下することも可能である。今回取り上げたように、車などで行きづらい場所もドローンなら自動で運んでくれる。これからの普及に期待したい。

文献

1)JAMA 2017;317:2332-4
2)Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2016;v24, PMC5059909
3)Circulation 2017;135:2466-9
4)Lancet Hematology 2017;4:e56
5)Transfusion 2017;57:582-8

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