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救急隊による血糖測定値と病院到着後の血糖測定値が乖離した1例

救急隊による血糖測定値と病院到着後の血糖測定値が乖離した1例

2018年4月11日水曜日

プレホスピタルケア 2017年12月号

救急隊による血糖測定値と病院到着後の血糖測定値が乖離した1例

留萌消防組合留萌消防署

長浜 尚輝

上原 拓也

青木 信也

網谷 早翔

船木 亮輔

著者連絡先

長浜 尚輝(ながはまなおき)

nagahama.JPG

077-0021 北海道留萌市高砂町3丁目6-11

留萌消防署消防課 指令救急係

救急救命士

電話:0164-42-2211

FAX:0164-43-5150

1、はじめに

 平成26年1月の救急救命士法施行規則一部改正に伴い、救急救命処置の範囲等についても改正された。改正により、心肺機能停止前の傷病者に対する乳酸リンゲル液を用いた輸液、血糖測定(包括的指示)、ブドウ糖の投与が可能となった。私の勤務する留萌消防署でも平成27年10月1日より処置拡大救命士の運用を開始している。今回、私たちは現場で測定した血糖測定値*が病院到着時(約10分後)までに急激に低下するという特異的な事例を経験したので報告する。

2、事例

75歳 男性既往歴:糖尿病(DM)

18時24分119番覚知。「低血糖のような症状で意識が朦朧としている」という家族からの通報。傷病者は自宅2階寝室ベッド上に仰臥位の状態。家族より「16時30分頃に夕食を食べ、食後に経口血糖降下薬を服用。18時頃から寝室で休んでいた」旨を聴取する。ドンという音がした為、様子を見に行くとベットより落下し意識朦朧の傷病者を発見。救急隊現着直前に薄めたブドウ糖を与えていたが、不穏が出現し2口程度で中断したとのこと。

現場でのバイタルサインはJCS:100(不穏あり)、脈拍:70回/分、SpO2:96%、瞳孔:左右5mm(対光反射鈍い)であった。

血糖測定実施するも1回目の測定は不穏・血液量不足で測定できず。18時35分に指を変え再測定したところ血糖測定値115mg/dlの為、処置なく車内収容する。

車内収容後の状況はJCS:100(不穏あり)、呼吸:18回/分、血圧105/76

体温(腋窩)36.8℃、ECG:不整なし。18時45分病院到着。 18時48分頃に院内にて看護師が血糖測定を実施したところ血糖測定値30mg/dl台であった。診断名は低血糖発作(中等症)であった。

3、検証

今回の症例では、血液に糖が混入したことにより血糖測定値が高値を示した可能性が最も高いと考えられる。このことから清拭の方法について以下の方法で検証を実施した。

【検討内容】

(1)みかんを触らずに①

 ①酒精綿で手洗い後に2、3回清拭

(2) みかんの皮を剥き手指に果汁が付いた状態で②③④⑤

②酒精綿で2、3回清拭(測定手指が乾いている状態)

③酒精綿で10回程度丁寧に清拭(測定手指が湿っている状態)

④酒精綿で10回程度丁寧に清拭(測定手指が乾いている状態)

⑤濡れたガーゼで10回程度清拭後に酒精綿での清拭(測定手指乾いている状態)

【結果】

①血糖値96mg/dl

②血糖値103mg/dl

③血糖値114mg/dl

④血糖値93mg/dl

⑤血糖値98mg/dl

※①の測定結果が最も正確である。

② ③については、①より高値が示された。

③ ④については、①との差はほぼ認められなかった。

4、考察

血糖値がどのていどまで下がれば意識レベルが低下するかは諸説あるが50mg/dlを切れば低血糖昏睡の可能性を考える必要がある1)。本事案でも救急隊接触時にはJCS100であった。しかし、血糖測定値は115mg/dlを示し、病院到着後の測定では30mg/dlと測定された。血糖測定値が救急隊による血糖測定から病院での血糖測定までの13分間で急激に低下した原因について以下考察をしていく。

•温度による血糖測定器の不具合

屋外での事案等では血糖測定器の使用可能温度外で使用をしなければならない事案が発生する可能性がある。その際には、車内収容後の血糖測定を考慮し活動していかなければならない。

当消防で使用している血糖測定器の使用可能温度は6~44℃である。測定器本体の温度が環境温度より低い場合には、測定結果が高く出る場合がある。本事案、発生日の18時頃の気温は8.8℃あり、車庫内の温度はさらに高く約14℃あった。発生現場についても住宅(寝室)であり、20℃程度と考えられる。血糖測定器を保管している救急車内にあっても、14℃以上はあり、使用可能温度範囲内であった為、気温による測定器の不具合は考えづらいと思われる。

•血糖測定時の血液に糖が混入した可能性

果物等を剥いた手で血糖値を測定した場合、実際の値よりも高値が示されたという事例が報告されている。本事案では、救急隊現着直前に家族により、薄めたブドウ糖が与えられていたが患者が不穏状態になった為、投与が中断されていた。この際に、患者の指にブドウ糖が付着しており、測定血液に混入し血糖値が高く表示された可能性も考えられる。

血糖測定をする際には、手洗いを実施後、測定するのが最も正確な結果を得ることが出来る。しかし1分1秒を争う救急現場で手洗いをしてから血糖値を測定するのは現実的でない。その為、救急隊が測定する際には、酒精綿により清拭し測定となる。本事案でも清拭は確実に実施されていたが病院での測定値よりも高値が示された。今後より確実な測定結果を得るための、清拭方法について検討を実施する。

•一時的な血糖値の上昇

家族によりブドウ糖が投与されたことにより、一時的に血糖値が上昇し、救急隊測定時には、115mg/dlを示したが、搬送中に再度、血糖値が低下し、病院内では30mg/dlが測定された可能性も考えられる。この場合、血糖値の上昇に伴い一時的な意識レベルの改善が見られるはずだが、救急隊接触後には確認できなかった。このことから一時的に血糖値が上昇した可能性は低いと考えられる。

 我々は、今回の原因が(2)血糖測定時の血液に糖が混入した可能性が高いと考え検証を行った。その結果、みかんの果汁が付いていればたとえ酒精綿で清拭したとしても測定値は上昇する可能性があること(3検証②)、しかし酒精綿で10回程度丁寧に清拭し(3検証③)、しっかりと測定手指を乾燥させれば(3検証④)、手洗いや、濡れタオルで拭くこと(3検証⑤)をせずとも正確な数値を測定することができるとわかった。

また血糖値は時間と共に変化する為、測定結果に不信があれば病院収容の遅延にならない範囲で再度測定することや、医師に指示・指導・助言を仰ぐことをしていく。

今回の事案では、測定手指に糖が付着していたことにより血糖値が高値を示した可能性が最も高い。糖分等が付着している可能性がある場合には、測定手指を酒精綿で丁寧に清拭しその後、新しい酒精綿にて消毒、乾燥を確認した後に血糖測定を実施していくことが正確な測定結果を得る為にとても重要である。

5、結論

•救急隊による血糖測定値と病院到着後の血糖測定値が乖離した1例を報告した。

•測定値の乖離は血液採取部位に糖が付着していたためと考えられたため、有効な清拭方法を提示した。

•血糖測定値:本事例では測定した値が真の血糖値を反映していないと考えられたため、傷病者の体内の血糖値を「血糖値」とし、救急隊と看護師が機械で測定した血糖値を「血糖測定値」と区別している

引用文献

1) Gulter A, Kumral E, Sirin TC et al:magnetic resonance imaging characteristics of persistent vegetative state due to prolonger hypoglycemia. J Clin Diagn Res 2015;9;TD01-2

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