020131心蘇生-アメリカの視線

 
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020131心蘇生-アメリカの視線

最新救急事情

心蘇生-アメリカの視線

今回は世界で最も多く読まれている臨床医学雑誌「New England Journal of Medicine」から心蘇生についての総説を紹介する。なんでもできるアメリカの次の目標は除細動機会の拡大である。

心停止の現状
心血管疾患で病院外心停止を来す症例はアメリカで年間少なくとも22万人おり、入院中に心血管疾患で心停止を来す症例は75万人程度いると考えられている。病院外心停止の70%は男性で、平均年齢は69歳。自宅での心停止が71%を占める。90%は救急隊員が到着する以前に心停止しているが、10%は救急隊到着後に心停止になる。注目すべきは救急隊到着時に全くの心静止になっているのは31%に過ぎないということで、心室粗動は1%、心室細動は45%に見られている。転帰を見ると発見時心静止はほぼ全員が死亡しており、心電図的活動のみ見られる症例では1-4%の生存率である。これらに対して発見時に心室細動であった者のうち34%は生存退院しており、このことから心室細動の時点で発見させることと、いち早く除細動を行うことが重要であると言える。

致死的不整脈による突然死
全ての心臓疾患死の中で心臓が原因の突然死はほぼ50%と高率である。その多くは心筋梗塞を原因に含む心室細動であり、これは心臓疾患の経験のない人でも起こりうることである。心電図などの検査法の発達は不整脈死のハイリスクグループの特定に貢献するだろうが、さて治療法はというと現在使われている抗不整脈薬では死亡を減少させられず、体内埋め込み式の除細動器が生存率を上昇させることがわかってきた。
致死的不整脈の原因の80%程度は動脈硬化を背景とした心筋虚血によって引き起こされる。高齢、男性、高脂血症、喫煙、高血圧、糖尿病が危険因子となる。心臓自体に原因がある心筋症は10-15%と推定されている。これには心臓壁が非常に厚くなる肥大型心筋症と、心筋壁が非常に薄くなる拡張型心筋症が含まれる。全く原因が分からないものは5%未満であり、イオンチャンネルの異常、弁疾患、先天的心奇形が関与しているとされる。これら何らかの素地がある患者に対し慢性の虚血や心血管系の刺激により心室性頻脈が引き起こされ、この時点で治療しなければ心室細動から心停止に至る。

不整脈突然死を防ぐ
一度も致死的不整脈を経験していない人と、致死的不整脈から生還した人とでは治療に対する戦略が異なってくる。一度も経験していない人に対しての研究では、現在使われているどの薬も致死的不整脈を減少させることはできないと結論づけられている。唯一有効であったのは体内埋め込み式除細動器であるが、手術を伴うことでもありどの患者に埋め込むべきか見極めが難しい。致死的不整脈から生還した人の場合は、心機能が保たれている場合には埋め込み手術の適応となる。

どこでも除細動
自動体外除細動器の有効性は30年以上前から確認されている。アメリカでは設置されている施設も年々増えていて、今では飛行機内・空港・ショッピングモール・野球場・カジノ・スポーツジム・オフィスビルなど公共施設に配備されている。シカゴのオヘア空港では33台の除細動器が壁に掛けてあり、消化器と区別できるようになっている。自動除細動器は胸にパッドを当てると心電図を感知し、それが心室細動の場合には自動的に放電する。感知の感度は高く、誤作動もほとんどない。アメリカ心臓学会や他の組織によって自動除細動器の設置が協力に推し進められている。
この器械の大きさはノート型パソコンと同じで使い方も数分あれば用意できるほど簡単、バッテリーは少なくとも5年は持つ。値段は現在3000ドル(40万円)未満でどんどん安くなっている。アメリカのほとんどの州では自動除細動器の操作資格を緩和もしくは廃止してきている。
心停止の71%が自宅で起きることを考えると、家庭用除細動器の設置は理にかなっている。企業では家庭用が次の10年の大きな市場になると睨みその開発に力を入れている。また心房細動のハイリスク患者では埋め込み式の除細動器が普及してきた。

ああ、心静止になった

秋田の気管内挿管報道は、当初は「けしからん」という論調であったが、だんだん「人命救助のためには致し方ないのではないか」という意見も出てきた。さらに医師の指示なして除細動を行っていたことも報道されている。
気管内挿管は他の方法でも代用できる。アメリカ心臓学会でもマスクによる換気の有効性を示している。私も挿管困難の患者で肝を冷やすことがあることを考えると、全国一律に気管内挿管を許可するにはちゃんとしたトレーニングシステムを考えるか、実地試験を経た許可制にした方がいいのではないかとも思う。しかし、病院実習で救命士全員がきれいに喉頭展開するのを見ていると、喉頭展開できない医師がいかに多いかについても考えさせられてしまう。
除細動についてはアメリカの除細動器設置運動をみていていつまでこの状況が続くのか不安になる。心室細動だった心電図が電話連絡の間に心静止になったという話は山ほど聞いている。確かに法律は守る必要はある。しかし、現状に鑑みて柔軟に対応するのも法の使命であろう。秋田の報道をきっかけに、救命率を上げるには何をすべきか厚生労働省にはきちんと考えてもらいたい。

引用文献
N Eng J Med 2001; 344(17): 1304-13
N Eng J Med 2001 ; 345(20): 1473-82
秋田魁新報社 http://www.sakigake.co.jp/


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