040408男性更年期
040408男性更年期
今回は男性更年期について取り上げる。本稿の読者は男性が圧倒的で40代以降の方も多いだろうし、精神症状によっては自殺の可能性もあるためである。
更年期は加齢により性ホルモン分泌が急激に低下することによってもたらされる種々の症状を指す。従来女性における閉経後の症状を総じて更年期と称していたのだが、男性でも40歳代半ば以降では男性ホルモンが低下し症状が出現することから、「男性更年期」と一般に言われるようになってきている。しかし男性では女性と違い、ある時を境にホルモンバランスが大きく変化することはなく、加齢に伴い男性ホルモンが徐々に低下していくにすぎないことから、更年期と呼ばずにAndrogendecline in the aging male(加齢に伴う男性ホルモン減少)が診断名として用いられることが多い。
男性更年期の症状と診断
一番はっきりした症状は勃起障害である。その他に精神症状としては落胆、抑うつ、いらだち、不安,神経過敏、疲労感など、身体症状としては関節痛や筋肉痛、発汗、ほてり、睡眠障害、集中力低下、肉体的消耗感など、性機能症状としては性欲低下、射精感の消失などがある。
自覚症状の評価を行う代表的な質問票では10の質問があり、その中には「元気がなくなりましたか」「性欲の低下がありますか」「勃起力は弱くなりましたか」などの文言が並ぶ。アメリカの患者を対象にした場合、この簡単な質問票でも感度88%特異性60%と優れた診断能力をもっていた。
ところが日本で前出の質問票を用いて泌尿器科外来患者を検査したところ、男性更年期を主訴とした患者では全例が、また40歳以上の患者ほぼ全例が男性更年期と判定され、また年齢が上がるにつれて症状の数が増加した。いくら泌尿器科といえども40歳以上の男性全員が更年期とは多すぎる。報告者は日本人の特徴として「はい」「いいえ」での質問票では「はい」と答えてしまうためと考察してる。
この二者択一の方式を改善したものとして、症状を17個提示しそれぞれに「なし」から「非常に重い」まで5段階評価を命じ、それらの合計点で診断する質問票も発表されている。
本当に更年期なのか
自覚症状を眺めてみると、うつ病と何も変わらない事に気づく。実際に男性更年期を主訴とする患者の半数はうつと診断されたという報告もある。
性機能の低下を認めたとしても実際に男性ホルモンは低下していないケースも多い。勃起障害を認める患者の血中男性ホルモン濃度を測定してもほとんどは正常であり、低下しているとしても正常下限に過ぎない。
男性ホルモンとうつ状態の関連を調べた研究では、全年代を対象とした場合には男性ホルモンとうつ状態に明らかな関連は認めなかった。しかし50歳以降の男性856人を対象にした研究では、男性ホルモンとうつ状態評価は関連があるとされている。さらに臨床的にうつ病と考えられた25人ではそれ以外の対象より男性ホルモンが17%低いと報告されている。つまり、男性ホルモンが少ないからといってうつになるものではないのだが、50歳以上では血中男性ホルモンの濃度とうつ状態には関連がありそうだ。
心身医学領域では男性更年期を男性ホルモンの低下が原因とはせず、「男性ホルモンの低下の軽重にかかわらず、老化が始まり生理バランスの崩れる時期に強い心因性反応が加わって更年期症状が起こる。性機能低下は心因性反応の一環である」という解釈がなされることが多い。
男性ホルモン補充療法
女性の更年期の場合には、抗うつ剤や精神安定剤で全く無効な症状も、女性ホルモンの投与によって劇的に改善することが知られている。男性の場合には女性と異なり男性ホルモンの低下が見られない症例が多く、男性ホルモンを投与しても効果は今ひとつである。
男性ホルモン投与でうつ症状が改善するか検討した結果では、性機能が正常な若い患者なら気分の改善が期待できる。またもともと血中男性ホルモンの濃度が低い患者の場合にはホルモン投与により気分が改善するとされているが、評価の尺度はあくまで主観的であり、また患者は男性ホルモンを飲まされていることを知っていることから、このデータの信頼性は今ひとつである。これ以降に行われた研究でも、患者自身が男性ホルモンを投与されていることを知っている場合には気分の改善が見られるが、患者自身がその薬の中身を知らない場合には6研究中2つの研究でプラセボ(偽薬)と同じ効果しか選られなかった。性機能を指標に検討しても、男性ホルモン投与の効果はまちまちだった。男性ホルモン投与には高齢者に多い前立腺肥大や前立腺ガンの増悪因子という困った副作用もある。
男性更年期の症状は仕事の能率に直結するばかりでなく、男としての自信もなくなる、本人にとってはとてもつらいものである。しかしその治療はいまだに確定していない。加えて、補充療法を受けた高齢男性に真に利点はあるのか、安全かといった疑問はまったく解決していない。まだまだ何も分かっていないに等しい疾患なのである。
参考文献
医学のあゆみ 2003;205(6)
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