スタート法以外のトリアージ方法
2018年4月5日木曜日
今最も旬なセミナーは「多数傷病者への対応標準化トレーニングコースMCLS」である。日本集団災害医学会のコース開催予定を見ると1ヶ月に10カ所以上でコースが開催されている。コースで使われる教科書を見ると、トリアージ方法としてスタート法と全身観察法(MCLSではPAT法と名付けているが中身はJPTECの観察と同じ)が用いられている。
だが、トリアージはスタート法と全身観察法だけではない。この10年間で開発されたトリアージ方法を2つ紹介したい
目次
MPTT(図1)
2017年にイギリスから発表された方法で、正式名称はModified physiological triage tool (MPTT)という。直訳すれば「改変された生理学的トリアージ道具」となる。当初は最後の黄色のタッグに行く前にグラスゴーコーマスケール(GCS)を取ってその数字が14未満なら赤に、14以上なら黄色に振り分けるというとても時間のかかる方法だったが、改訂版であるMPTT-24ではGCSは取り除かれている。
著者の論文を読むと、イギリスでよく用いられるNational Ambulance Resillence Unit Sieve (NARU Sieve, 国立救急回復ユニット振り分け)はアンダートリアージが問題となっているらしく、このMPTTではアンダートリアージ率がNARU sieve に比べて有意に低いとしている。
SALT triage「図2」
2008年にアメリカから発表されたトリアージ方法。Sort-Assess-Lifesaving Interventions-Treatment and/or Transport(並び替え-評価-救命処置-搬送)の頭文字で、大災害やテロなど大勢の死傷者が出ている場合のトリアージ方法である。何十人という人たちを迅速に振り分けるために開発されたので、まず見た目で患者を分け、次に処置をしてその結果を見てタッグの色を決める。
初めに患者を3つに分ける。動かずに生命の危機にある人を最初に評価し、目的のある動作をしている人を次に評価、最後に歩ける人を最後に評価する。その後緊急処置をして、その反応によって手当の濃淡や搬送順位を決める。この方法は名前からも分かる通り、トリアージというより処置は搬送の標準化を目的にしているようだ。
SALT法とスタート法の比較が出ている1)。スタート法を熟知した救急隊員に両方の方法でトリアージさせその結果を見たものである。重症度の判定では、SALT法の方がスタート法よりも正確に患者の状態を評価できた。緑と黒の判定はいずれの方法でも100%正しかった。アンダートリアージの割合はSALT法で9%、スタート法で20%と、SALT法が有意に優れていた。患者を色々いじくってから札の色を決めるのだから当然の結果だろう。
これからも新しい方法は出てくる
日本ではトリアージといえばスタート法だが、この方法はアメリカと日本で使われているだけで世界ではそれほどメジャーではない。多分一番メジャーなのはイギリスのSort and Sive(並び替えとふるい分け)なのではないかと思う。MPTT法はSort and Sieveを踏まえているように見える。
速さを重視すればアンダートリアージの患者が増え、正確にトリアージしようとすれば時間がかかる。また100人の現場と3人の現場でふさわしいトリアージ方法は同じなのか異なるのか。矛盾した要求と多彩な現場の要求をを満たすべく、これからも新たなトリアージ方法が出てくるだろう。期待したい。
文献
1)Am J Disaster Med Winter;2012(1)27-33
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